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昭和が息づく、バスターミナル地下の食堂街

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バスターミナルの地下に「ザ・昭和」な雰囲気の食堂街がある。以前から話には聞いたことがあった。場所もちゃんと分かっていた。でも実際に足を踏み入れたのは、今回が初めて。昭和の風情が色濃く漂うディープなスポット「中央バス札幌ターミナルの地下食堂街」を訪ねてみた。
井上由美-text 伊田行孝-photo

札幌テレビ塔の北東、創成川沿いの東1丁目にある中央バス札幌ターミナルは、1日300便ものバスが行き交う交通の拠点。それなのに、この地下にこんなノスタルジックな食堂街があると知っている人は意外に少ない。


階段を下りていくと、すぐにいい匂いが漂ってくる。軒を並べるのは、おでん、ラーメン、手打ちそば、中華料理、カレー、喫茶店、洋食屋、定食屋の8店舗。入り口には色のあせた暖簾、ガラスケースには食品サンプル。ラップがかけられているのも昔っぽい。

この食堂街をこよなく愛し、40年来通い続ける人がいる。ビルの2階に事務所を構えるシィービーツアーズ社長の戎谷侑男(えびすたに・ゆきお)さん。1991(平成3)年に旅行会社を設立する前は中央バスの社員として、1974(昭和49)年から10年間、このターミナルに勤めていたこともある。
「昔はね、2階はターミナルデパートといってね、百貨店が入っていたんだよ」
衣料品から化粧品、鞄屋に靴屋、メガネ屋、時計屋、本屋、レコード屋、オモチャ屋、和装用品、たばこ屋、カメラ屋、床屋、土産屋まで、なんでもあったという。今は戎谷さんの経営する旅行会社の事務所と、2軒のクリニック、劇団四季の託児ルームなどが入居しているだけだ。

ユニークなツアーを組む旅行代理店の社長を務める戎谷侑男さん


1976(昭和51)年当時の中央ターミナルデパート案内図(北海道中央バスファンクラブより)

1976(昭和51)年当時の中央ターミナルデパート案内図(北海道中央バスファンクラブより)


「石狩や浜益から路線バスで来た人が、みんなここで買い物をして帰ったのさ。デパートっていっても庶民的な品揃えでね」
戎谷さんは「金市舘みたいな」と、かつて狸小路にあったデパートの名前を口にした。その店もすでになくなって久しい。

地下の食堂街もたいへんな混雑だったという。
「急いでいるときは立ち食いそば。デパートの最上階にあるような大衆食堂もあった。いっときはパチンコ屋もあったんだよね。私も昼休みったら行ってたな。負け続けたけどね」
昼休みに小銭で遊べるパチンコ屋。なんてのんびりした時代だったんだろう。中央バスに確認すると、このパチンコ屋は昭和50年代から平成10年ころまで約20年間も営業していたという。

戎谷さんが「ここは味噌仕立てのホルモン鍋がうまいよ」と紹介してくれたのは、中華料理の「リトルチャイナ」。開店して今年で21年目になる。
「20年やってると言うと驚かれるけど、うちなんてまだまだ」と遠慮がちに話すのは、経営者の海老名静子さん。
聞けば、おでん屋は40年、定食屋も30年以上の老舗なのだそう。

リトルチャイナ店主の海老名静子さん。壁代わりに使っている暖簾も20年前につくったもの


ホルモン、野菜、豆腐を自家製味噌と豆板醤でコトコト煮込むホルモン鍋(一人前600円、写真は二人前)。最後は焼き雑炊風で。ご飯ではなく麺を入れて〆る人も多いのだとか

「ランチはもちろん夜も居酒屋みたいにしてるから、近くにお勤めの方がずっと変わらず来てくれる。定年になって職場が変わっても、新しい同僚を連れてきてくれたりしてね」
仕切りの壁を取り払い、大きな暖簾で空間を区切っただけのリトルチャイナは、テーブルやイスはもちろん、メニューの価格も開店のときのままだという。
「もうボロボロだけどね。このボロさがいいといってくれる常連さんもいるから」

確かにテーブル席に座ってしまうと妙に居心地がいい。時代の流れとは無関係に、いつも変わらず存在している空間だからなのだろうか。

北1条通りと創成川の角地に建つターミナルビル

そもそもこのターミナルビルができたのは1966(昭和41)年。まだ地下鉄もなく、交通手段の花形は路線バスだった。札幌オリンピック前年の1971(昭和46)年は南北線が開通し、5年後に東西線の琴似—白石間が開通。さらにその6年後に東西線が新さっぽろまで延伸すると、路線バスの乗客は目に見えて減ったという。

いまバスターミナルでは都市間高速長距離バスを利用する若者の姿が多い。2011年には劇団四季の劇場や創成川公園ができ、街並みもずいぶんと変わった。地下の食堂街も経営者が代替わりしたり、新しいテナントに入れ替わったりしたものの、なぜかここだけはエアポケットのようにいつも同じ空気が流れている。
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40年来の常連客、戎谷さんはこう言っていた。
「取引先のお客さんを昼メシに案内することもあるけど、みんな『こんなところがあったのかい』って喜ぶよ。安い、うまい、そして古い。そう、中高年にはこの古さがいいんだよ」
何もかもがめまぐるしく変わり続ける世の中で、変わらないでいることの価値を教えてくれる食堂街。新しいものを追いかけるのに疲れたら、ふらりと訪ねてみてはどうだろう。

中央バス札幌ターミナル
北海道札幌市中央区大通東1丁目
食堂街営業時間
平日10:00~21:00
土日祝10:00~20:00
※営業時間は店舗によって異なります

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