【道産酒のいまとこれから】北海道酒造組合・門田昭専務理事に聞く

地の人が地の酒を飲む。それが応援

「北海道の地酒&鮨フェア2017」(写真提供:北海道酒造組合)

道産酒の時代、ついに到来―北海道マガジン「カイ」が、季刊誌時代の2011年冬号「北海道の日本酒」特集でそう銘打ってから、はや7年。道産酒はどんどん品質を高め、世界へも羽ばたこうとしている。現状と展望を、北海道酒造組合の門田昭専務理事に聞いた。
新目七恵-text 黒瀬ミチオ-photo

「もう少し、取材が早ければ良かったですね(笑)」。
そう言って、門田専務理事が渡してくれたチラシには、『北海道の地酒&鮨フェア2017』の文字。これは、2017年10月、札幌で開催された北海道酒造組合主催の人気イベント。
この日の取材は、2017年11月下旬。確かに、あと1カ月早ければ、“取材”と称して北海道自慢の日本酒を存分に味わえたのだった。

―このフェアは、落ち着いた雰囲気の中で北海道の酒の味を確かめていただこうと、ホテルを会場に開催して8回目。毎年10月第2週の水曜日に行っています。道内の日本酒・焼酎の醸造元が一堂に集まり、飲み比べできるとあって、500枚のチケットが販売1カ月で売り切れに。特に今回は、2017年5月に誕生した「上川大雪酒造」が加わったので、注目度の高さを感じました。
もちろん、いらっしゃるのは左党の方々です(笑)。会場では、約70種類の多彩な酒を、一杯100円~500円のショットで販売。普段ボトル購入を躊躇する高価な酒もワンコインで試飲できるのが、人気の理由です。さらに、職人のつくる握り鮨と一緒に堪能できるのも、売りのひとつです。

「北海道の地酒&鮨フェア2017」での一般参加者による鏡開き(写真提供:北海道酒造組合)

「来年はもう少し女性客を増やそうと、PR策を練っています」と門田専務理事。北海道酒造組合は、道内の酒蔵と焼酎メーカーでつくる公益法人。きき酒大会や各種イベントも行い、道産酒の販売促進を図っている

全国でも高い入賞率

聞けば聞くほど、参加できなかった悔しさが募る…。そんな気持ちを切り替えて、基本的な質問を。道産酒はいま、どれだけおいしくなったのでしょうか。

―毎年5月に行われる「全国新酒鑑評会」が、全国的な評価を知る基準のひとつです。これは、1911年から続く、日本酒の製造技術を競う大会。酒類総合研究所と日本酒造組合中央会が共催し、精米歩合60%以下、伝統的な技法でつくる「吟醸酒」の新酒を対象にしています。
「吟風(ぎんぷう)」「彗星(すいせい)」など、北海道産の酒造好適米(※酒造り専用の米)を使った「道産酒」は、2011~2015酒造年度(7月から翌年6月)までの5年間、最高賞となる金賞に毎年輝いています。ただ、前回の2016酒造年度は、酒米の出来に左右された面もあり、金賞こそ逃したものの、「彗星」を使った小樽・田中酒造が入賞しました。
もちろん北海道から、酒米の王様といわれる「山田錦」を使った酒を出品し、金賞を獲得するケースも多いですが、道産の酒米が奮闘しているのも事実。北海道の入賞率は、全国でも上位に位置し、技術的にも品質的にも、高いレベルにあるのは間違いありません。

確かに、見せていただいた大会の出品リストには、「吟風」「彗星」の文字がたくさん! 2016年度には「きたしずく」の初出品もあった。道外の酒米ばかり使われていた時代は、もう昔のことのようだ。

―北海道における道産の酒米の使用率は年々増え、2016年度には61.4%。つまり、北海道でつくる酒の6割が、道産酒米を使った「道産酒」となりました。
この背景には、酒米生産量全道一の新十津川町・ピンネ農協酒米生産組合をはじめ、農家の方々の苦労があります。「吟風」が誕生して17年、「彗星」は11年。各地の農家さんが、地元の酒屋や酒蔵と意見を交わしながら、「どんな酒米が求められているのか」を考え、工夫を重ねてきた。そうして、北海道ならではの酒米造りに慣れてきたことが大きいでしょう。本州の酒米に比べて価格が安いことも、メーカーにとってはメリットです。
「北海道の酒米を使いたい」と、原料米をすべて道産にする酒蔵も増えてきました。道内12の酒蔵のうち、小樽・田中酒造、倶知安・二世古酒造、栗山・小林酒造、旭川・合同酒精のほか、新十津川・金適酒造も、“母村”である奈良県の米を一部使っていますが、ほぼ地元産ですね。2017年から上川・上川大雪酒造も加わり、ますます道産酒のモチベーションは高まっています。

札幌生まれの門田専務理事。「全国に比べて、北海道は純米酒の出荷比率が高い。道産酒が淡麗で綺麗な味を追求してきたことが理由のひとつでしょう」。昔は純米酒に独特の匂いを感じて苦手だったが、最近はよく飲むという。「道産酒米の質が変わり、すっきり味わえるようになりました」

飲んで応援! 道産酒

農家や酒蔵の努力の甲斐あって、意識して「道産酒」を取り扱う酒屋や飲食店も増えているそう。とはいえ、道内での道産酒の消費率が飛躍的に伸びているわけではないという。

―そうなんです。道内で消費される清酒のうち、道産酒が占める割合は、2005年ごろから2割程度のまま。2015年度は21.2%と微増しましたが、2016年度は19.3%に下がりました。
ご存じの通り、ビールやチューハイなど、酒の種類は多様化し、日本酒離れが進んでいます。さらに、道内では酒蔵の廃業が相次ぎました。北海道にあった清酒醸造場の数の変遷をたどると、1899年(明治32年)に270あったのが、50年後の1949年(昭和24年)には45に激減。現在は12となっています。地元に酒蔵がなくなると、どうしても有名な本州のメーカーなどに手が伸びてしまう。最近は、“地酒ブーム”で東北の酒も人気です。

減り続ける一方だった北海道の酒蔵史からすれば、2017年に上川大雪酒造が誕生したことは、エポックメイキングだったのだろうか。

―そうですね。北海道の酒が話題になり、組合としても喜ばしい出来事でした。上川大雪酒造は、地元の観光振興という側面を担っており、地域の応援体制も整っています。地元のホテルや酒屋にも商品を卸していて、酒蔵と地域が支え合うことによる相乗効果に期待しています。
何といっても、北海道の方が道産酒を飲むことが、一番の応援です。とはいえ、約2割の消費率が一気に4割になると、今度は製造が追いつかないと思いますが(笑)、わずか1%消費が増えただけでも、酒蔵や米の造り手にとっては大変な励みなのです。

日本酒をめぐる明るい話題もある。世界的な和食ブームから、海外では“SAKE”として日本酒人気が急上昇。北海道でも、道産酒を売り込もうと、外国人向けセミナーや特製ラベル作りなどの取り組みが進む。北海道酒造組合が力を入れているのは、「さっぽろ雪まつり」へのブース出店だ。

―多くの観光客が訪れる「雪まつり」は、道産酒をアピールする絶好のチャンス。組合では、9年前から、大通西10丁目に「北海道地酒販売所」を設けています。毎年ラインナップは変わりますが、約60種類を100~700円前後のショットで提供。まずは好きな味を探してもらい、気に入ればその場でボトル購入いただけます。会場には、英語、中国語、韓国語を話せるスタッフが常駐し、外国人観光客にも対応。なかには、居酒屋に行かず、ホテルで“部屋飲み”される方もいて、喜んで買っていかれます。新酒はもちろん、限定商品もあるので、ほぼ毎日のように通ってくださる地元の会社員やリピーターの方もいるんですよ。

2017年の「さっぽろ雪まつり」会場の販売所ブースの様子(写真提供:北海道酒造組合)

札幌が誇る一大イベントで、北海道で醸された酒を味わう…。なんだか左党の血が騒いできた。寒さが募る北海道の冬は、燗酒もひときわ恋しい季節。冬の楽しみがまたひとつ、増えたのだった。

北海道酒造組合
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第69回さっぽろ雪まつり
大通会場/2月5日(月)~12日(月)
※「北海道地酒販売所」(大通西10丁目・UHB会場)は期間中毎日開催。
イベントの公式サイト

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