充実の資料で学生が運営する、本格的な大学博物館 ―札幌国際大学博物館

考古学者・吉崎昌一氏の「白滝遺跡群」コレクションの展示

札幌市内に数ある大学には博物館や展示室を持つところがある。学芸員資格を取得するための実習や、大学で発掘・収集した埋蔵文化財の調査・研究施設の役割を果たし、一般の人も見学できることがほとんどだ。知る人ぞ知る大学のミュージアムを巡る第一弾は、札幌国際大学博物館である。
柴田美幸-text 黒瀬ミチオ-photo

あの国宝と同じ、黒曜石の石器がここに

2022年11月、文化審議会から答申が出され、「北海道白滝遺跡群出土品」の黒曜石製石器群が国宝に指定されることになった。道北に位置する旧石器時代(約15000~30000年前)の遺跡で、指定される出土品は遠軽町埋蔵文化財センターで展示されている。実は、現地から遠く離れた札幌国際大学博物館でも、同じ白滝遺跡群の石器を見ることができることは、あまり知られていない。
「これが、国宝・北海道白滝遺跡群出土品の“仲間”です」と、4年生の澤田侑依(ゆい)さんが展示ケースを指差す。見ると、白滝の山で産出した黒曜石が赤や黒に輝いている。かつてこの大学の教授だった考古学者・吉崎昌一氏のコレクションで、氏自ら白滝遺跡などで発掘・収集した資料の一部が展示されている。吉崎氏は、細石刃(さいせきじん。ツノや骨に埋め込んで使う小型の石刃)を作る際の、北方特有の黒曜石の打ち剥がし方を「湧別(ゆうべつ)技法」と名付け提唱したことで知られる。考古学の歴史に重要な役割を果たしたであろう資料の大半を所蔵し、その一部がここに並んでいるのだ。

話題の「白滝遺跡群」コーナー。湧別技法の解説パネルも設置されている


この日解説を担当した、人文学部 現代文化学科 4年の澤田侑依さん。専門は日本史・文献史学。高校生のころから学芸員を目指してきたという

一方、道南部の八雲町の大関(だいかん)遺跡などでは、近くに産地がある頁岩(けつがん)の石器が使われている。大学で現在も発掘している倶知安町の峠下遺跡は「中間地帯にあたるので、黒曜石と頁岩の両方を使っています」と澤田さんが解説してくれた。聞けば、澤田さんも発掘に参加したという。
このように、博物館実習を履修する学生が持ち回りで解説などの博物館業務を担当。春学期に解説の練習をして準備し、秋学期には本番として来館者に対応する。札幌市内および近郊を含めても、私立大学で自前の本格的な博物館を持ち、学芸員資格取得に必要な実習を行っているところは少ない。これも、吉崎氏のコレクションなど一級品の実物資料が揃っているからこそである。

吉崎氏が収集したマンモスゾウの化石の実物資料。レプリカではなく実物をハンズオンできるのは貴重だ

アイヌ民具のコレクターによる希少な資料も

館にはもうひとつ、「平野コレクション」というアイヌ文化の資料を集めた展示室があり、成り立ちがユニークだ。平野良明 短期大学部学長の祖父・平野利(とし)氏はアイヌ民具のコレクターであり、戦火の中でも手放さず守り通したという気骨ある人物だった。氏が16歳から収集した明治・大正時代の資料が大学に寄贈され、その展示を目的に2001年オープン。公共の博物館や資料館でもなかなかお目にかかれないものも含まれている。
たとえば、アイヌの木綿衣には和服をリメイクしたものが多く見られるが、明治時代のサッポロビールの星マーク入りの浴衣を使った衣服はほかに例がなく珍しいとか。また、このときは展示されていなかったが、残っていることが少ない子ども用の衣服も収蔵しているという。

「平野コレクション」の展示。左端下の青い服は、サッポロビールの星マークがプリントされた浴衣の生地が使われている珍しいもの。明治時代にすすきのの花柳界で販促用に配られたものだが、どのようにアイヌの人の手に渡ったのかは分かっていない

アイヌのクマ送りの儀式の様子など、歴代の学生による卒業制作のジオラマも展示されている

“小さな歴史”を文化として伝え、引き継ぐために

この博物館に携わっているのは、正規の学生だけではない。札幌国際大学では「社会人教養楽部(がくぶ)」という、大学の授業を地域の人に提供する事業を実施しており、一部の授業は正規の学生と同じように受講できる(※現在は新型コロナウイルス感染症対策の関係で語学科目のみ実施。詳細は要問い合わせ)。博物館関連の講義も一部受講ができ、これまでに学芸員資格を取得した人もいる。
地域の市民が博物館に関わることには、生涯学習や資格取得以外にどんな意義があるのだろうか。博物館実習を指導する越田賢一郎教授は、「文化資源」という考え方を取り入れており、「博物館の中にあるものだけが文化財ではない」と話す。「日常の中にあって、それぞれの人が大切に思っているけれど、その大切さがどこにも伝わっていないものがあります。大きな歴史だけでなく、個人の小さな歴史もひとつの文化になる。それを地域社会や後世に伝えるためには“文化資源”として目を向け、活用できることが必要です。学生はもちろん、地域の人が博物館の役割を学び、文化資源という視点から新しい形で文化の引き継ぎを行っていくことには意義があると思います」。

人文学部 現代文化学科 越田賢一郎教授。博物館に隣接する「札幌国際大学縄文世界遺産研究室」室長として、世界文化遺産「北海道・北東北の縄文遺跡群」の魅力も発信している

普段の個人の生活の中にも文化資源があるというのは、たとえば、行きつけのお店の変遷でもいい。メニュー一つにもきっと時代や社会が反映されている。毎日なにげなく見ているモノやコトの価値を掘り起こし、そして地域にあるはずの価値の掘り起こしを行うために、博物館実習で学芸員の仕事を身につけることは重要なのだ。

越田教授(中央)と「博物館実習」の学生たち。(右から)人文学部 現代文化学科 4年の藤井香月さん、解説を担当した澤田さん、OGで縄文世界遺産研究室職員の渡井瞳さん、社会人の履修生の雜喉(ざこう)美華さん

博物館では学校祭の期間、学生による企画展が行われ、クイズスタンプラリーやアイヌ文様のコースター作り体験など趣向を凝らしたイベントが開催される。2023年は7月1日(土)・2日(日)に開催が決定した。普段の展示と合わせて訪れると、より楽しめるだろう。

2010年度の企画展「ナイトミュージアム」では、学生が縄文人などに扮して展示室に出没し、来館者を楽しませた (写真提供:札幌国際大学博物館)

※学生の学年は取材時の2022年12月現在

2000(平成12)年開館。考古資料展示室とアイヌ文化展示室で構成されている

札幌国際大学博物館
北海道札幌市清田区清田4条1丁目4-1 札幌国際大学6号館1階
TEL:011-881-8844(代表)
開館時間:月〜金曜10:00〜17:30、土曜10:00〜13:00 日・祝日休館
開館日:前期と後期の授業期間に準ずる。夏季・冬季・春季休みは原則閉館 ※開館日は要問合せ。事前連絡で随時見学に対応可
入館料:無料

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