大人の社会見学① おいしい水の秘密を探りに。―札幌市水道記念館

札幌市水道記念館前に広がる噴水広場は、憩いの場所として開放されている。天気の良い日は札幌市内が一望でき、ピクニックに訪れる人たちも多い(提供:札幌市水道局)

私たちの暮らしに密接に関わる“インフラ”をテーマにした、ちょっと不思議なミュージアムがある。驚き、発見、暮らしに役立つ情報までたっぷり詰まっていて、大人になってもまだまだ学びたい方にぴったりな空間だ。第1弾は、私たちの命に欠かせない“水道”のミュージアムを紹介する。
長谷川みちる-text 伊藤留美子-photo

大河の一滴になって、水の旅に出かけよう

Q1:私たちが1日で使う水の量は平均何リットルか。
Q2:災害で水道が止まった時、あなたの家から一番近くにある水の補給場所は?
Q3:札幌市の水道水が美味しい理由を述べよ。

1問も答えられず、ドキッとしたのは私だけではないはずだ。この答えは、今回紹介する「札幌市水道記念館」を一周すると見えてくる。同記念館は私たちに必要不可欠な“水”について、さまざまな切り口から学べるミュージアムだ。

館内は大きく「アクアミュージアム」と「水道記念室」に分かれている。メインのアクアミュージアムは来館者自身が山に降り注いだ雨となり、ダム、川、浄水場、街、各家庭そして海…と流れていきながら“水の旅”を体験するユニークな構成だ。それぞれの行程には水を取り巻くクイズが登場し、これが大人でも頭をひねる内容になっている。早速、館内をめぐってみよう。

水の旅は「水源の森」ゾーンから始まる。ここでは微生物や土、木々、四季を含めた自然の営みが絶妙に組み合わさることで、水源をコントロールしていることが見えてくる。

森の自然と水の関係を紹介する「水源の森」。展示は小学4年生での学習を意識して組み立てられている

森に降り注いだ雨や雪解け水がダムに集まり、川となって流れていくと、その先に見えてくるのは原水が飲み水に変わる工程を体験できる「水工場」ゾーンだ。ここでは、沈砂池、着水井、混和池、フロック形成池、沈でん池、ろ過池、浄水井という浄水場内の仕組みについて知ることができる。

水工場(浄水場)の仕組みを体験。各家庭に水を適正・適確に配水するシステムや、水道管の維持管理についても紹介

さらに進むと「アクアタウン」ゾーンだ。街まで届けられた水が、私たちの生活の中でどのように関わっているのか。日常で使う水の量をペットボトル換算で表現するなど、直感的に水を知る工夫が施されている。

家庭の水の使用量がペットボトルの本数でリアルに見える。普段の生活を振り返るきっかけになりそう

アクアタウンと同じフロアにある「サイエンスパーク」ゾーンには、水を使った体験型展示が。1番人気の「水の大循環ジム」や「ウォッピースロット(巨大水鉄砲のゲーム)」など、子どもたちにとってはたまらない空間だ。

「水の大循環ジム」と呼ばれる巨大なジャングルジムが。世界の水事情、災害対策などのコーナーも

そしてミュージアムのラスト、「水道プレイスタジオ」ゾーンへ。これまで見てきた水の旅をぎゅっと凝縮し、水の循環の全体像を一望できる展示になっている。

水の旅をボールで再現し、循環の様子が一目で分かるボールコースター

おいしい水を当たり前に飲めるワケ

同記念館は昭和52(1977)年、札幌市の水道創設40周年に設立された。平成19(2007)年に展示内容を一新し、リニューアルオープン。新型コロナ以前は年間約10万人、令和4(2022)年末までに延人数で約128万人が来館している。

札幌市中央区・伏見にある札幌市水道記念館。水道工学者の倉塚良夫氏が設計し、平成19年に度土木学会の「土木遺産」に選奨、平成21年に札幌市「札幌景観資産」に指定された(提供:札幌市水道局)

記念館の建物自体は、札幌市に最初に作られた「藻岩浄水場」を利活用している。現在、札幌市で一番の水量を誇る浄水場は南区にある「白川浄水場」だが、それ以前は藻岩浄水場がメイン浄水場として活躍していた。今は記念館の隣に新しい藻岩浄水場が建てられ、供給水量もアップ。毎日約129,000m3(25mプール360杯分)の水を中央区一帯に届けている。

地下1階の展示場には、かつて浄水場だった時の名残(整流壁)が

「知ってもらいたいことはたくさんありますが…。まず言えることは、札幌市の水はおいしい。それって結構、貴重だということですね」

そう話してくれたのは、水道記念館を運営する一般財団法人さっぽろ水道サービス協会の米谷教義館長。そして、職員の徳本優穂さんだ。

米谷館長(左)と徳本さん。同財団法人は水道記念館の運営だけでなく、札幌市水道局と共に市内の浄水場や配水施設及び配水管路の維持・管理などをしている

「札幌市の水道水は豊平川からの取水が98%であり、その上流には豊平峡ダムと定山渓ダムという2つの大きなダムがあります。ダムの周りは支笏洞爺国立公園や国有林野に囲まれていて、水源が汚染されない環境にあり、美しい自然が大切な水を汚染から守ってくれています。人口190万人の都市でありながら、この自然環境が残されていることは大変恵まれていますよね」と米谷館長は説明する。

このおいしい水を家庭に届けるためには、源流の豊かさを守ると同時に、日々の水質管理や配水管のメンテナンスなども欠かせない。そして、災害対応も必須だ。

地域の給水口設置場所など災害時に役立つ情報もあり、北海道胆振東部地震をきっかけに来館する方が増えたそう

「札幌市の配水管は高度経済成長期に大量に布設され、次々と経年化が進んでいます。そのため配水管の更新や耐震化を随時進めているのですが、あまりご存じないかもしれません。工事のため交通面でご不便をおかけすることもあるかもしれませんが、皆さんの命につながる水を届けるためのメンテナンスです。見かけたらどうか温かく見守っていただければ」と徳本さん。

アクアタウンは街と暮らしと水の関わりを伝える。世界の水事情、災害対策などのコーナーも

蛇口をひねれば当たり前においしい水が飲めるのは、当たり前のようで当たり前ではない。その当たり前を維持していくために、水道に携わる様々な人たちが日々働いているが、私たち一人ひとりが自宅でできる協力方法もある。特に北海道で気を付けたいのが水道管の凍結だそう。最後に、米谷館長はこう話してくれた。

「実は、札幌市では水道凍結が多い年で1万件以上も起こっているんです。凍結によって管が破裂すると、時にはご近所に多大な迷惑をかけることもあります。マイナス4℃以下になる場合、家をしばらく空ける時にも水抜きを忘れずにお願いしたいですね」

館内の水道記念室も必見。札幌市の水道の歩みと、かつて水道事業で実際に使われていた機器類などが公開されている

子どもたちはもちろん、大人の社会見学としても楽しめる札幌市水道記念館。あなた自身も大河の一滴になって、おいしい水の秘密を探りに出かけてみてほしい。

札幌市水道記念館 
北海道札幌市中央区伏見4丁目
TEL:011-561-8928
営業時間 9:30~16:30、月曜休館(ただし月曜日が休日の場合は、その直後の平日)
開館期間 4月中旬〜11月中旬(詳しい日にちは以下のWEBサイトをご確認ください)
入場料無料
WEBサイト 

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