
「昔は杵と臼で、イナキビを粉にしたものだけど、いまはコレがあるからね」と、貝澤雪子さんは、茶目っ気たっぷりにミルサーを出してきた。目の前の人をほっと包み込むような笑顔の持ち主は、二風谷を代表するアットゥシ(樹皮の反物)織りの第一人者。「嫁に来た次の日から、お義母さんのアットゥシの特訓が始まったの。実の娘より厳しく仕込まれて。いま、こうして続けていられるのも、そのおかげ」と若き日の思い出を語りながら、雪子さんは洗ったイナキビをキッチンペーパーの上に広げた。
シトとはイナキビや米粉を使う団子のことで、冠婚葬祭やイヨマンテ(熊祭り)の儀式などに、コタンの女が総出でチセの囲炉裏を囲みながら作ったもの。「多い時はみんなで400個は丸めた。うまくできるまで、よく叱られた」という。
アイヌにとって大切な保存食となるトゥレプ(オオウバユリ)のことを尋ねると、「あれはなかなか手に入らない。昔は赤ツツジが咲くころに球根を採り、葉が枯れたら採るなと教えられた。種が土に落ちて、7年経たなければ花は咲かないの」。大切な情報を惜しげもなく教えてくれるその人柄に、ただただ、感謝するばかり。「量が少ないから、こんなに楽をして作るのは初めて」と笑われた。
雪子さんはアットウシ織りの合間に、「ランチハウスBEE」でアイヌ料理を作る。「店は、気が向いたら開けるの。早くても7月からだね」と笑う。どうしても食べたい方は、10人以上から要予約。
北海道沙流郡平取町字二風谷76-7 TEL:01457-2-3540
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