歩いてみたら、出会えた、見つけた。

遊んでみた

初心者でも天塩川をカヌーで下れるか?

全長256kmの天塩川は、日本最北の大河。
名寄付近の中流域から河口まで、日本一長い157kmの川下りが楽しめる。
ことし最初のカヌーレース、16kmに挑戦してみた。
矢島あづさ-text 露口啓二-photo
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テッシが近づくと波も高くなる天塩川

日本一長いツーリングができる

天塩川はアイヌ語で「テッシ・オ・ペッ(やな・多い・川)」の意。「やな」とは、魚を捕るための仕掛けのことで、この「やな」に似た岩があちこちにある。1857(安政4)年、幕末の探検家・松浦武四郎は天塩川流域を調査し、アイヌから見聞きしたことなどを『天塩日記』に綴っている。旅の途中、長老が教えてくれた言葉をヒントに「北加伊道(北海道)」の名が生まれた。鉄路や道路もない開拓時代、川船が唯一の交通手段だった。

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恩根内テッシ(写真提供:NPO法人北海道遺産協議会)

天塩岳を源流とする天塩川の上流部は森林に囲まれ、幻の魚イトウの生息地。中流部から下流部にかけては蛇行が多く、河口付近には100種以上の花が咲くサロベツ原野が広がる。中流域の名寄市からダムなどの人工構築物がなく、日本海へと注ぐ河口までノンストップで川下りが楽しめるため、全国からカヌー愛好者がやってくる。

地元のカヌー仲間が「流域市町村が協力すれば、日本一長いツーリング大会ができる」と活動を始め、1992年から天塩川カヌーツーリング大会「ダウン・ザ・テッシ-オ-ペッ」が毎年開催されている。まず、流域の観光資源を発掘し、20カ所のポート、温泉やキャンプ場も整備。何度も川を下りながら、危険ポイントや名所がわかる川地図も作成した。

川の流れを読み、テッシに近づくな

初心者でもカヌーで川下りができるのか。天塩川カヌーツーリング大会「ダウン・ザ・テッシ-オ-ペッ」実行委員長の吉川一茶(きちかわ・かずさ)さんに相談すると「6月最初のカヌーレースに参加してみますか」と、快く同乗を引き受けてくれた。6月11日に開催された「天塩川オープンカナディアンカヌーレース&ツーリング」は、美深町の恵深橋カヌーポートをスタートし、ゴールのびふかアイランドポートまで16km。道内各地のカヌークラブ、名寄市立大学の学生、北大カヌー部など、レース部門8チーム、ツーリング部門6チームが出場した。

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後者が走って乗り込む緊張のスタート

カナディアンカヌーといえば、のんびり景色を眺めながらこぐイメージしかなく、タイムを競う気もなかった。が、スタートして間もなく、川の流れを読まなければ、前に進めないことを知る。「あの3番目の橋脚を目指し、越えたら右に入って…」後席の吉川さんから声がかかる。想像以上に岩盤が多く、地形によって波も高くなる。右、左、うまく逃げないと船底が擦りそうだ。「これもテッシのひとつ。渦が巻いているところに引き込まれたら、カヌーも木の葉のようにクルクル回るので気をつけて」。その通りになってしまった初心者ペア1組が予選落ちした。

レース決勝は美深橋カヌーポートをスタート。エゾハルゼミの鳴き声、残雪が美しい箱岳、いま、横切ったのはアオサギだろうか。「あの空に浮かぶ雲の向こうまで行くよ、なんて言うと、道外の人は喜びます」と吉川さん。いやいや札幌から来ても「水面がピカピカしているところは、風のない道。あの隙間から風が入り込み、こっちからの風とぶつかり、無風状態になる」なんてガイドされたらイチコロだ。波の頂点でこぐと楽に進むこと、アクセルのように足を踏み込むとスピードが出ることも伝授してくれた。

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チームを組んでくれた吉川一茶さん

カヌーは信頼関係が生まれる遊び

吉川さんは30年前、子育てのためにカヌーを始めた。自宅にはカナディアンカヌーが6艇、カヤックが6艇。その中に息子3人が小学生のころ、夏休みの宿題で手づくりしたカヌーもある。キャンプしながら料理も覚え、どこに放り出しても生きていけるように育った。カヌーを始めたころ、釧路川でひっくり返り、息子の姿を一瞬見失った経験がある。その恐怖からやめることも考えたが、真剣に技を磨き、救助できる親になりたいと思った。「親も育てられる。カヌーは信頼関係が生まれる遊び」という。

天塩川は季節により水量が全く違う。4、5月は雪解け水が流れ込み、水も冷たく澄んでいる。夏は田んぼに水を使うので水量が減り、危険なポイントなど川のようすがわかる。吉川さんの忘れられない光景は、30羽ほどのオオタカやオジロワシが上昇気流のポイントに集まり、クルクル空を舞う姿。11月末で、野鳥の天国を実感した。地元の人間は、雪が降っても水が凍るまでカヌーを楽しむという。

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水鳥の視点で景色を楽しむ

美深大橋の前後で大きく蛇行すると、最後の難関、モンポナイの瀬が見えてきた。縦のテッシが4本並び、段差要注意の場所だ。波も高く、渦巻きも多い。ボコボコと川底から水が湧いているのもわかる。奇声を上げながら、なんとかクリアしたと思ったが、カヌーに水がかなり入った。岸辺で水を抜き、カヌーに乗り込んだ瞬間、助けを求める声が聞こえた。ひっくり返ったカヌー、そして流される少年のカヤック!!! 吉川さんは、私を岸に降ろし、急きょ救助に出動。その一部始終を目撃しながら、命がけの遊びであることを肝に銘じた。

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(写真提供:NPO法人北海道遺産協議会)

●天塩川カヌーツーリング大会「ダウン・ザ・テッシ-オ-ペッ」
毎年、1泊2日の日程で40km前後のコースを設定。11市町村の流域内で、毎回区間を変更しているのでリピータも多い。4、5年に1度、4泊5日かけて157kmを下るスペシャル大会も開催。今年で25回目を迎えるが、出場者はのべ4500人以上になる。
WEBサイト

●NPO法人北海道遺産協議会
2004年、「天塩川」は北海道遺産に選定された。北海道遺産には、北海道の豊かな自然、人々の歴史や文化、生活、産業などから、道民参加により52件が選定されている。
WEBサイト

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