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つながる

難病でも遊べる「そらぷちキッズキャンプ」

日本には、小児がんや心臓病など、難病の子どもたちが約20万人いるといわれる。
「外で遊ぶなんて無理」「病気だからできない」と諦めていた
子どもや家族のための医療ケア付キャンプ場が、滝川にあることをご存知だろうか。
しかも寄付とボランティアの力で、年間約200人の笑顔を生み出している。
矢島あづさ-text 伊藤留美子-photo

車いすのまま遊べるツリーハウス(写真提供:そらぷち)

「お父さんの笑顔、初めて見たよ」

病院、あるいは自宅の窓からしか外の世界にふれられない子どもの日常を想像してみる。友だちと一緒に水たまりで泥んこになって遊べること、森の中で風の音を感じること、寝転んで空を見上げること。そんなささやかな一瞬が、彼らにとって、かけがえのない思い出、生きる支えになるのではないか。そう考えた、難病の子どもたちと向き合う小児科医らが中心となり、北海道滝川市の丸加高原に医療ケア付キャンプ場「そらぷちキッズキャンプ」(以後そらぷち)をつくろうと動き始めたのは2004年。

その年のテストキャンプから数えると、全国から述べ700人の子どもや家族を受け入れてきた。当初は年1、2回の開催だったが、現在は年間11回200人ほど、その倍にすることが今後の目標だ。「闘病生活に負担がかからないように、住んでいる地域の最寄りの空港からキャンプ地までの交通費と滞在費をすべて無償にする」。これも、ドクターたちの強いこだわりだった。

見晴らしの丘から眺めたキャンプ場(写真提供:そらぷち)


走れ、走れ、走れ。だいじょうぶ、僕も君も一緒だよ(撮影:黒瀬ミチオ)


馬とのふれあい、乗馬や馬車乗車体験も人気(写真提供:そらぷち)

たとえば、木の上に作られたツリーハウス。「向こうの妖精の家まで旅に出よう」と、車いすから降りた子が専用のハーネスを使って魔法使いみたいに空を飛ぶ。大人だってドキドキするような、非日常の世界にスイッチを入れることで、子どもは本来のやんちゃな姿に戻ることができる。「お母さんが心配するから」「先生に叱られるから」なんて、考えなくていい。「大丈夫、あきらめないで。君にもできるよ」と、森の中から声が聞こえてくるようだ。大自然の中で家族も開放される。「僕が病気になってから、お父さんの笑顔を初めて見たよ」と喜ぶ子。同じ傷を見せながら一緒にお風呂に入ることで「一人じゃない。仲間がいるんだ」と勇気をもらう子。日常に戻っても「あの時楽しかったから、また頑張ろう」と思えるだけで、生きるエネルギーになる。それは、病院だけでは難しい“心の治療”でもあるのだ。

ゲームをしながら、どんどん仲良くなる(撮影:黒瀬ミチオ)


人見知りしていた子も、キャンプファイヤーするころには、すっかり友達だよ(写真提供:そらぷち)


雪の上に転がったこともサイコー!!の思い出になる(写真提供:そらぷち)

医者や看護師も遊び仲間になる

そらぷちでは、医師も看護師も白衣を着ない。参加する子どもや家族たちと同じ遊び仲間として、ニックネームで呼び合う。一緒に遊んだり、笑ったりしながら、病気のことを忘れてもらうのも大きな仕事だからだ。ただ、キャンプ中に何が起きても対応できるよう、事前に主治医や家族から病状の聞き取りをして万全の備えをしておく。体調の急変などを察知する医療者としての目も絶えず光らせる。子どもたちと寝食を共にし、状況に応じてプログラムを進行するボランティアたちも、子どもたちに「できない」「やれない」を口にしないことがモットーだ。

「治療や薬を飲むときも病院ではなく保健室の雰囲気で。点滴台も可愛らしく、いろいろ選べます」と、キャンプ場スタッフの森川真由美さん


雄大な暑寒別山系に沈む夕陽に子どもたちも感動のジャンプ(写真提供:そらぷち)


近くの農場で収穫体験「ゴボウってこんな葉っぱだったんだぁ~」(撮影:黒瀬ミチオ)


「ジャガイモ焼けたかなぁ」「おかわりっっ」
「あれ?ピーマン食べられたよ」(撮影:黒瀬ミチオ)

滝川は北海道でも有数の農業地帯だ。お米も小麦も、旬の野菜も地元産の食材が食卓に並ぶ。もぎたてのトマトが、嫌いだったピーマンが、自分で収穫したジャガイモが、みんなで食べると驚くほどおいしいことに気がつく。専用のスタッフがいるので、食物アレルギーや食事制限、きざみ食やペースト食にも対応してくれるので安心だ。

36人が泊まれるコテージが2棟。ベッド、トイレ、洗面台、浴室など、バリアフリー・ユニバーサルデザインの視点で設計されている。テレビはない。何もないからこそ、リビングに集まって家族と話をしたり、友達ちと遊ぶ時間が増える。同じ苦しみや悲しみを抱え、キャンプを共にした仲間として、日常の闘病生活に戻ってからも交流が続くことも、そらぷちでの大きな収穫だ。

車いすもOKの電動カート。これに乗ると、移動も遊びになる


宿泊棟のリビングで、みんな輪になって遊ぶ(写真提供:そらぷち)

寄付とボランティアの力だからできること

そらぷちと同じような組織や施設は、国内では他にない。滝川市が丸加高原の一部16haをキャンプ地として無償提供しているが、事業はすべて民間主導で行われ、個人や企業・団体からの支援や寄付、道内外から集まるボランティアにより成立している。事務局長の佐々木健一郎さんは「北海道の壮大な自然と人の大らかさがなければ、そらぷちは実現しなかったと思う。現在、年間運営・維持費は1億5千万円。キャンプのメリットを数字に表すことはできないけれど、数字や言葉にできないことを大切だと支えられるのは、寄付とボランティアだからできること」と語る。

東京や大阪で造園コンサルタントをしていた佐々木さんは、仕事を辞めて滝川に移住した。1人でも多くの子どもを招待できるように、広報活動に飛び回る

そらぷちがモデルにしたのは、1988年に米国の映画俳優・故ポール・ニューマンがコネチカット州に開いた難病児のための「ホールインザウォール・ギャング・キャンプ」で、寄付やボランティアの力により運営されている。その後、米国各地、アイルランド、フランス、イギリスなどに広まり、国際的な連携を図る「シリアスファン・チルドレンズネットワーク」も誕生した。昨年11月、そらぷちは、その団体から評価され、世界16番目の正会員として公認された。世界各地のノウハウを学べ、滝川をアピールすることも可能になる。今年はポール・ニューマンのお子さんを招き、イベントを開催する予定だ。

かつてのキャンパーが、ボランティアとして活躍中(写真提供:そらぷち)

ボランティアの宿泊研修は、春と秋の年2回。大学生をはじめ、主婦、栄養士、医療・福祉関係者など「少しでも役に立ちたい」と600人ほど登録している。そのうち、キャンプに実働できるのは50~100人程度。「資格などの条件はありませんが、子どもに寄り添える人間性や技量を重視しています。キャンプを盛り上げられる人、側にいて一緒に泣ける人、裏方で走り回れる人、それぞれの適性に応じて役割を分担しています。実は、子どもたちに励まされ、学ぶことの方が多いんですよ」と佐々木さん。かつてキャンプに参加した子が成長して、ボランティアとしてやってくるケースもある。亡くなった子の骨の小さなかけらをを木の根元に埋め、お参りに来る親もいる。地域住民は、まちの誇りとして観光地以上のものを感じている。そらぷちは、単なるキャンプ場ではなく、それぞれの大切な居場所になっているのだ。

家にいながらできる「そらっぷ」と「そらぷちドール」製作ボランティアもある

走って転んだことも、大声で叫んだことも、楽しかった思い出になるサマーキャンプ
(写真提供:そらぷち)

キャンプの種類

子どもだけ参加する「キッズキャンプ」

10~18歳20人程度、3泊4日、7・8月の夏休み期間に実施

家族で参加できる「ファミリーキャンプ」

8家族24人程度、3泊4日、1・2月に実施

個別家族だけで「レスパイトキャンプ」

2家族10人程度(同行医療者含む)、3泊4日程度、6月・9月に実施

団体で「グループキャンプ」

難病の子どもの家族会・支援団体、3泊4日程度、5月・10月に実施


公益財団法人 そらぷちキッズキャンプ
北海道滝川市江部乙町丸加高原4264-1
TEL:0125-75-3200
WEBサイト

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