札幌市内に現存する幼稚園舎の中で、最も古い建物は「めばえ幼稚園」。1937(昭和12)年に建てられて以降、80年以上も大切に使われてきました。
めばえ幼稚園の設立母体は、フィンランド福音ルーテル教会です。大正期に札幌で伝道活動が始まり、1934(昭和9)年に教会堂を建設。3年後には隣接地に幼稚園を設け、フィンランドから幼児教育の専門家が初代園長として派遣されました。
天井が高く、南面に大きく張り出して採光に優れたホール(遊戯室)を持ち、スチーム暖房が取り付けられた園舎の設備は、当時の最高水準。建設資金はすべてフィンランドからの献財でまかなわれたそうです。
戦前に建てられた園舎は、床も窓も当時のまま。丁寧に手入れをしながら、大事に使われてきたことがわかります。
古い建物だけに、不便な面も多々あるはずですが、それでも使い続けているのはなぜでしょう?
幼稚園を運営する学校法人札幌ルター学園の佐藤俊夫理事長は「新しい建物を建てるお金がなかったからじゃないでしょうか」と笑わせつつ、「やはりフィンランドの方々の献財で建てられたものですから、歴代の関係者が大切に守ってきたのだと思います。それに、隣の教会と一体になって運営されてきたことも大きいでしょう」と理由を明かしてくれました。
なるほど。確かに園舎の隣には日本福音ルーテル札幌教会が、こちらも当時と変わらぬ姿で鎮座しています。
「日曜には教会学校があり、卒園児や在園児が通ってきてくれます。幼稚園の年長になると礼拝堂でお祈りもしますし、教会の牧師がチャプレンとして教師の聖書勉強会などを指導してくれます。退職された先生が教会員として通われていたり、幼稚園と教会は密接につながっているんです」
園長の竹原真理子さんが、そう教えてくれました。
とはいえ、古い建物を使い続けるにはメンテナンスが不可欠。どのようにしているのでしょうか。
「数年ごとに壁や屋根の塗り替えを行っています。以前、木材をはがして断熱材を入れたらどうかという声もあったのですが、新しい建材ではこの雰囲気は出せないだろうと。ペンキを塗り重ねてそのまま使い続けています」と竹原園長。
それを聞いた札幌建築鑑賞会代表の杉浦正人さんは「ヤスリでこすり出しをしたら、何層にもなっているのでしょうね。外壁の移り変わりがわかるかもしれない」と興味津々です。
気密性が低く毎年小さな修繕などに費用がかさむため、保護者には保育料のほか「施設の維持修繕費」への協力をお願いしているそうですが、皆さん快く協力してくれるのだとか。確かにこの風格のある建物は、小さな子どもたちにとっても記憶に残る、価値ある存在のように思います。
「入園式に来られた園児の祖父が『私も息子も卒園生です』とおっしゃるなど、3世代にわたって通われている方もいるんですよ」と佐藤理事長。なにを隠そう、理事長自身も20期の卒園生。子ども時代は正面玄関でかくれんぼをして遊んだ思い出があるそうです。
幼稚園の運営組織は1985(昭和60)年、宗教法人から学校法人に変わりましたが、フィンランドの幼稚園とビデオレターを交換したり、クリスマスカードをやりとりしたり、クリスマスにはサンタクロース村から本場のサンタさんが来園してくれるなど、ルーツであるフィンランドとのつながりは途絶えていません。
去年は創立80周年を記念して、多くの人の寄付により、園庭にフィンランド・ラプセット社の木製遊具が設置されました。今年から来年にかけては、篤志の寄付により先生方のフィンランド研修が予定され、現地の幼児教育を学んでくるそうです。
幼稚園と渡り廊下でつながっている教会も見学させてもらいました。
「幼稚園は7年前に耐震補強の工事はしましたが、大きな修繕は一度もしていないんです。いずれ必要になるでしょうから、準備はしておかなければ。少なくても100年まではこのまま大事に使っていきたいと思っているんです」と佐藤理事長。
札幌とフィンランドの結びつきを伝える貴重な財産。100年といわず、ずっと残して、子どもたちの心のふるさとであり続けてほしいと思います。
●札幌ルター学園 めばえ幼稚園
北海道札幌市中央区南12条西12丁目2-27
TEL:011-561-0485
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