若者とまちの人をつなぐ「N」の灯し火 〜岩見沢まちづくりコンソーシアム〜

夜になると、「タマリバNコロン」には、ねぶたと同じ作り方で制作したあんどんが灯る

空知エリアで唯一、大学のあるまち・岩見沢。近年、市民と学生がつながり合って、まちを盛り上げようという動きが生まれている。そんな中で2023年春に結成されたのが「岩見沢まちづくりコンソーシアム」というまちづくり組織だ。空知の要(かなめ)・岩見沢のまちで、なにが始まろうとしているのだろう。
柴田美幸-text 伊藤留美子-photo

商店街を拠点にまちづくり組織が始動

岩見沢市中心部、4条通り商店街の一角に「N」のあんどんが灯る。古い商店街の中でひときわ目立つカフェのような佇まいは、コワーキングスペース「タマリバNコロン」だ。店名のNの由来を聞くと、「ねぶたのN、さらにNewやNextなどの意味があります。そして、コロン(:)のあとに続くものをつくり出す、という思いを込めています」と、このスペースを運営する片山順一さんが教えてくれた。片山さんは、岩見沢の地域活性化に取り組むまちづくり組織「岩見沢まちづくりコンソーシアム」・通称ICDCの創設メンバーの一人。2023年4月に片山さんら4人で立ち上げたICDCは、現在5人がコアメンバーに名を連ね、ここを活動拠点にしている。
ところで、NewやNextはわかるとして、なぜ「ねぶた」なのか? 実は、2021年から開催されるようになった「岩見沢ねぶた祭」が、ICDCおよびNコロンの創設と深く関わっている。

ガラス張りなので、イベントなどをしていなくても気になって覗く人がいて、そこからコミュニケーションが生まれることもあるとか

「N」から始まった、まちと学生がつながる場

8月、まちはお囃子とともにねぶたの山車を引きながら練り歩く若者たちであふれる。「岩見沢ねぶた祭」は、北海道教育大学岩見沢校の学生の自主的な活動として始まった。2023年に3回目が開催され、新たな岩見沢の名物になりつつある。このお祭りを発案し、初代実行委員長を務めていたのが藤本悠平さんだ。

藤本悠平さんは青森県出身。「就職して東京勤務になってからも、1カ月半に1回は岩見沢に戻って地域活動をしていました。ゴミ拾いのためだけに帰ったこともあります」。そして、札幌勤務を願い出て北海道に帰ってきた

藤本さんがねぶた制作を思いついたのは1年生のとき。当初は、美術専攻の学生が作品制作を通して親交を深めるのが目的で、「岩見沢ねぶたプロジェクト実行委員会」を立ち上げ、ねぶたの公開制作と展示を駅のホールで行った。それが大学の枠をはみ出し、まちづくりの活動へと発展したきっかけは、ある市民との出会いだった。「20年ほど前まで岩見沢のお祭りのねぶたを作っていた、という人がいて、そのとき初めて、岩見沢でねぶたが作られていたことを知りました」。
聞けば、現在の「いわみざわ彩花まつり」の前身「岩見沢あやめまつり」では、JRの岩見沢運転所職員がねぶたを作ってまちを練り歩き、教育大の学生も参加していたという。まったくの偶然だったが、藤本さんは岩見沢にねぶた祭を復活させる活動をスタートさせた。
コロナ禍で開催が1年先送りになり、さらに2021年夏から秋に延期されたものの、なんとか初開催にこぎつける。そして「ねぶくろ」という情報発信拠点を4条通り商店街に開設した。「たんに学生のイベントとしてではなく、市民を巻き込みながら活動を広げたい」と、昔のねぶた運行の展示やワークショップを行うなど、学生と市民がフラットに交流できる場を作ったのである。すると、まちなかに若者が集い、そこに多くの市民も立ち寄って、衰退の課題を抱えていた商店街に活気が戻ってきた。

4条通り商店街に開設した情報発信拠点「ねぶくろ」(写真提供:岩見沢ねぶたプロジェクト実行委員会)

復活した「岩見沢ねぶた祭」のようす(写真提供:岩見沢ねぶたプロジェクト実行委員会)

この動きに注目していたのが片山さんだ。片山さんは、空知エリアからの若い人材の流出を食い止めたいと、カフェや雑貨店などを経営し若者の雇用創出に取り組んできた。空知管内の過疎化が進む街並みを見てきた中で、「学生がまちなかに集まって活動しているのが新鮮だった」という。
ただ、お祭りの終了とともに「ねぶくろ」がクローズすると、再びまちの活気が失われてしまうことに課題を感じていた。「せっかく若者が集まれる場所がまちなかにあったのに、なくなるのはもったいない。若い人がなにか新しいことに挑戦できる場、まちとつながることができる場が必要だ、応援したいと思ったんです」。そして、藤本さんに声をかけてNコロンを立ち上げた。

片山順一さんは深川市出身。地方活性化事業に取り組む「冬春創社(とうしゅんそうしゃ)」代表を務める。「このまちで楽しい大学生活が送れるように、なにかを成したい学生をサポートできたら、と思っています」

現在、4条通り商店街に2カ所開設されており、2カ所目は「ねぶくろ」で使われていた場所だ。「今も学生さんが時々ここに集まって、お祭りの相談などをしていますよ」と片山さん。そのほか、「持ち寄り酒場」というイベントを不定期で開催し、まちの人が気軽に集まってまちづくりのアイデアを出し合う場にもなっている。

市民がホンネで意見を出し合う「持ち寄り酒場」(写真提供:岩見沢まちづくりコンソーシアム)

このまちを「年に一度は戻りたい」場所へ

「酒場のイベントは腹を割って地元の人と話せるのがいいですね」と言うのは、2020年に転勤で岩見沢へやってきた大森啓史さんだ。大学時代からまちづくりに関心があり、転勤先で積極的にまちづくり活動に参加してきた。岩見沢では駅に展示されていたねぶたを見て「ねぶくろ」に出入りするようになり、学生やまちの人と交流を深めていった。「いつのまにか巻き込まれちゃいました」と笑うが、晴れて5人目のICDCコアメンバー入りを果たした。
多くのまちで地域おこし活動に参加してきた大森さんは、岩見沢を「ちょうどいい大きさのまち」だと言う。「大学が1つで学生の数も少ないため、なにかやっている学生は目立ちます。そして、それを受け入れる地元の人の温かさを感じられるのが良いところです」

大森啓史さんは札幌市出身。転勤で道内をまわり、にぎわっていたころの岩見沢も知っている。「転勤族で一つのまちにずっといたことがないのですが、まちに積極的に関わることで見えるものがありますね」

藤本さんも、学生時代から「人と人の距離感の近さ」を感じていたという。「岩見沢のどんなところが好きかと聞かれたら『人が好き』と必ず答えます。まちの人も学生をよく知っていて、協力しようとしてくれる。大都市にはない面白い環境だと思います」
ただ、現在の岩見沢のまちにかつての賑わいはなく、商店街にはシャッターを閉めた店舗が目立つ。また、教育大の学生はほとんどが岩見沢以外の出身で卒業と同時にまちを離れるケースが多く、若者の定住は進んでいない。
「正直、岩見沢には仕事が少なくて定住は難しいと感じます。観光面も弱いので交流人口にも期待できない。でも、ほかのまちに住んでいても年に一度は岩見沢へ戻るというような、関係人口を強くすることはできると思っています。学生時代にねぶた祭に関わることで、お祭りのときにはここに戻ってきたいという流れを作り出せるのではないかと。ねぶた祭も、関係人口を増やすための道具の一つになっているんです」
藤本さん自身も現在は札幌で働いているが、週に2回は岩見沢に戻り、ICDCのコアメンバーとして活動している。「自分のような人を増やしたい」というのが藤本さんの思いだ。
そして片山さんは、ICDCから空知エリアに若い人の力を波及させたいと考えている。「“空知のまちづくり”という抽象的なことではなく、岩見沢での実例をもとに、空知全体にまちづくりの活動を広げることができるのではないか。そう思っています」

2023年12月「岩見沢ねぶたプロジェクト実行委員会」の学生たちによる忘年会が行われた(写真提供:岩見沢ねぶたプロジェクト実行委員会)

ICDCは今後、“市民が一体となってまちを盛り上げる組織体”を目指し、NPOとして活動する予定だ。地域のコミュニティ強化はもちろん、若い人にまちづくりにもっと興味をもってもらうというミッションを掲げる。New、Next、そしてねぶたの次に、どんなムーブメントが続いていくのだろう。

この日集まった3人と、遠田悠也(えんた ゆうや)さん、根岸一志(ねぎし かずし)さんの2人がコアメンバー。ICDCのシンボル「ブルードーブ」(青いハト)のイラストは、片山さんによるもの。ちなみに、ハトは岩見沢市の市の鳥だ

コワーキングスペース「タマリバNコロン」
北海道岩見沢市4条西4丁目12 IHKビル1階
TEL:090-5984-5974(片山順一)
営業時間:10:00〜18:00ごろ ※貸切りの場合は夜間利用も可。要相談。
定休日:不定休(12/31~1/3休館)
料金:月間会員3000円、ドロップイン 1日1500円、1時間500円、貸切り利用 1時間3000円

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