ふんわりと軽く、しっとりした質感。エゾシカ革を例えるならば、「雪のような」という表現がぴったりくる。牛革の堅牢さや、豚革のカジュアルな雰囲気とは違って、丈夫でありながらもはかなさを感じる。原料の大半が、森を駆け回っていた野生のエゾシカと聞いたので、冬の雪の記憶が閉じ込められているのかもしれない。
デザイナー兼革職人・高瀬季里子さんが手がけるブランド「24K」のエゾシカ革製品は、きりりとした上品さと優美なフォルム、そして、しなやかなあたたかみが特徴だ。エゾシカ革は、10年ほど前から、増えすぎたエゾシカの駆除とともに、その有効利用を模索していた中で利活用が始まった。
高瀬さんが使用するのは、厳しい目で選び抜いた革のみである。実は、革は肉と同じように鮮度がものをいう。「剥ぎ取った皮は、早く塩漬けなどの処理をしたほうが、加工したとき良質の革になります。でも、鞣(なめ)してみるまでどう仕上がるのかわかりません。革の状態によって、作る物やデザインを変えていきます」と、高瀬さん。柔らかさなど鞣しの仕上がりも指示して、革にするところから関わっている。
原料は100%北海道産だが、現在は鞣すところが北海道になく、道外で加工している。今後、北海道で質のよい革を安定してつくるには、肉のとり方から始まって、処理、流通など、さまざまな体制を整えることが必要だと高瀬さんは言う。「エゾシカ革の、真の価値を多くの人に知ってほしい。野生動物の革なんてどうせこんなもんでしょ、と思われたくないんです。だから、革本来の良さを引き出して、それに合わせて加工やデザインを考えていきたい」
24Kのエゾシカ革製品は、2010年のデビューから大きく進化した。
高瀬さんの代名詞ともいえる、立体的に革を縫い合わせた「EZO(エゾ)」シリーズに始まり、斜めに革を組み合わせた「EZO/slash(エゾ スラッシュ)」、表面にプリントを施した「EZO Ink(エゾ インク)」、帆布に革をコラージュした「EZO Collage(エゾ コラージュ)」と、使うシーンや好みのテクスチャで選択できるシリーズを増やしている。
さらに今年、高瀬さんは新たなことに挑んだ。
鋳物のまち・富山県高岡市の鋳物(いもの)製品メーカー「能作(のうさく)」とコラボレーションして、錫(すず)のカップのデザインと、エゾシカ革でホルダーを制作。富山と北海道、金属と革という、異なる素材の組み合わせである。
カップに施されているのは、シラカバの樹皮の模様で、高瀬さんがエッチングで描いたものから型を作ったオリジナル。ホルダーのエゾシカ革は鞣しの段階から防水加工しているため、完全防水となっている。冷たいものを入れればひんやりするカップを、ふわりと雪のように包むエゾシカ革。これほどふさわしい組み合わせはないと思える一品だ。
少し前まで、エゾシカ革製品というと高額で商品の種類も少ない印象があったが、24Kはラインナップが豊富で、より気軽に購入できるのがうれしい。ちょっぴり特別なお土産にも最適だ。
きっと、良質なエゾシカ革とはこういうものだと、雪のような手触りが教えてくれるだろう。
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