ELEVEN NINES、演劇の夏の快挙〜dEBooは金脈?〜
例年、札幌発の演劇公演は夏にひとつのピークを迎えるのだけれど、2016年の7~8月は、特に公演数が多かったように思う。
10回目を迎えた札幌演劇シーズンの2016-夏公演(5作品)、40周年を迎えたこぐま座の企画公演の数々、教文短編演劇祭、一人芝居フェスティバル「INDEPENDENT」の札幌公演、シアターZOOでは提携公演が2つに新進演劇人育成公演が1つ。
加えて、札幌演劇シーズンへの参加実績を持つ演劇集団が「いつもこの時期に上演してるんで…」とでも言わんばかりに公演を打ってきた。弦巻楽団、intro、ELEVEN NINES(イレブンナイン)、参加1回ではあるけど風蝕異人街を含んでもいいかもしれない。この様相、札幌演劇全体としてはパイが大きくなっただろうけど、予定のパイを取り損ねた集団もあるに違いない。
混戦状態の中、1200人というNo.1集客を達成したのが、アガサ・クリスティの名作ミステリーで勝負をかけたELEVEN NINESのdEBoo公演『そして誰もいなくなった』だ。
行政を含む多くのサポートを得て開催される演劇シーズンも、この夏は2作品で1000人以上を集客しているが、作品別では『そして誰も~』の数字に届いていない。そう聞くと、単独公演である『そして誰も~』の札幌小劇場演劇におけるあっぱれさがわかるだろうか(上演された劇場の客席は173席、上演は7回だ)。
ELEVEN NINESは2004年、納谷真大ら富良野塾出身者が中心となって結成した演劇集団だ。のちに納谷以外のメンバーは大きく入れ替わったが、札幌を拠点に活動を継続。2013年からはメンバーがそれぞれに公演を企画プロデュースする体制をとっている。「dEBoo」は小島達子のプロデュースによる、名戯曲を納谷演出で甦らせる公演のシリーズ名だ。
1作目のdEBoo『12人の怒れる男』は、2014年5月に上演されて1200人を集客。翌夏は演劇シーズンに参加して2300人、続く富良野公演と合わせて3000人を集客している。このときは、メディアで活躍する俳優・タレントの参加や、劇団を越えて集まった「実力男優12人勝負」といった華やかさがあった。2作目の今回は、力量としては引けをとらない出演者を揃えたものの、PR要素としては前回より弱かったことは否定できない。しかし、前作で味わった「重厚な世界観と卓越した演技」への観客の期待が、この夏のトップ集客という数字に繋がった。
さて、その作品について。もちろん、札幌で作られたものとしては素晴らしい出来だった。けれど私の感じたところでは、展開が早く強弱の「強」の演技が続くため、犯人の「正義」と、それぞれの役が自身の抱える「罪」をどのように思っているかが、今ひとつわかりにくい演出だったと思う。前回の『12人~』に比べると、最後まで引き込まれる感覚は薄かった。
『そして誰も~』の集客数は、「演劇ファン以外でも興味を持つメジャーな作品を、実力派俳優が演じる」というdEBooシリーズが、札幌の観客とその予備軍の期待に応えるものだということを証明したように思う。これがシリーズ3作へと繋がっていくかどうかは、必ず行われるはずの『そして誰も~』の再演のクオリティにかかってくるだろう。
「もっと夢中にさせて!前回よりもっと!」という欲深い観客に応える作品に仕上げて、dEBooシリーズが札幌演劇における金の鉱脈に育っていくことを期待している。
岩﨑真紀(いわさき・まき)
情報誌・広報誌の制作などに携わるフリーランスのライター・編集者。特に農業分野に強い。来道した劇作家・演出家への取材をきっかけに、北海道で上演される舞台に興味を持つ。TGR札幌劇場祭2014~2016年審査員、シアターZOO企画・提携公演【Re:Z】2015~2016年度幹事。サンピアザ劇場神谷演劇賞2017年度審査員。