岩﨑真紀-text
vol.7

TGR2016開幕! 大賞争奪戦を展望する

2年前から、11月は観劇予定で埋めつくされるようになった。そのほとんどは 札幌劇場祭 Theater Go Round(=TGR) の審査員としての観劇。任期最後の3年目となる今年は審査委員長を拝命している。

TGRは「見本市の機能を持った舞台芸術祭」を目指して札幌劇場連絡会が主催しているイベントだ。1カ月の期間中、演劇、お笑い、人形劇、オペラなど、市内10劇場が自信を持って推薦・プロデュースする作品が次々に上演される。
その中で、優秀な作り手を評価し再演をサポートする目的で設けられているのが「TGR大賞」だ。これは7名の審査員が全エントリー作品を観て話し合い、大賞候補5作品を絞った上で、公開審査での討論と投票で決定される。

TGRの開催は11回目だが、これまで劇作家や演出家など、演劇の作り手側の人が審査員を務めた例はない。プロデューサーや、映画・TVドラマなどの近しい領域の作り手はいるが、基本的には、演劇に関しては札幌の「観る側の人」が審査員となっている。私はそのことを、とてもユニークで良いことだと思っている。

つまりTGR大賞は「札幌の観客の代表に評価された作品」が受賞するのだ。札幌で創り札幌の劇場で上演するなら、まずは名だたる劇作家・演出家の評価よりも大事なことだろう(し、演劇人からの評価は道外に数多ある事業への参加で得られるはずだ)。
もちろん、誰が観客の代表となるかで受賞傾向は変わる。が、1年ごとに数名の審査員が入れ替わるので、そこは主催者がバランスを考えて選んでいるはずだ。

さて、TGR2016について、ここ2年の大賞エントリー作品と主要な市内上演作品を観てきた立場から様相を眺めてみた。

今年、大賞へのエントリーは18作品。正直に申し上げると、やや寂しい。2014年には23作品、その前年は20作品なので数の弱さもあるのだが、同じ18作品だった昨年と比べても、これまで賞レースの有力候補となってきた劇団の不参加が目立つ。例えば劇団千年王國、札幌座、yhs、intro、座・れらなど。ELEVEN NINESも若手女性メンバーによるユニット「ギャルソンモンケ」でエントリーしており、主力での参戦ではない。

原因は、今年は各劇場での周年事業・記念事業が重なったことにあるのではないか、と私は思っている。

コンカリーニョは今年、さまざまな10周年記念事業を実施。10月末の企画公演の演出にELEVEN NINESの納谷真大、introのイトウワカナを起用している。また、TGRにプロデュース公演を入れて祭の牽引役としての責任を果たしているが、その演出にyhsの南参を起用。納谷演出のELEVEN NINES公演、intro、yhsの不参加はこれで説明がつきそうだ。

札幌座は運営母体である北海道演劇財団で組織変革があり、チーフディレクターの斎藤歩が芸術監督に就任。9月末、実質上のお披露目となった北海道演劇財団20周年事業・50回公演で大作を上演した。TGRに強力な作品を準備する余力がなかったのではないかと想像する。

40周年を迎えたこぐま座も大小の事業を展開し、運営を共にするやまびこ座のスタッフともども忙しい年だったと思う。この2館からの参加作品数は例年通りだが、最も強力なコンテンツは記念事業で上演した可能性がある。

BLOCHも劇場設立15周年特別公演をプロデュースし、9月に上演。ユニークな作品だったのでTGRで観たかった気もするが、単館としては最も多い7作品が参加しているので、欲張りは言えない。

ところで、TGR大賞は2年続けて海外作品が受賞している。そのためか、今年不参加の劇団に関して「どうせ大賞をとれない・評価されないと思っているからエントリーしないのでは」という声を聞いた。
上記の通り、私は違う理由を想像しているが、もしも「声」が正しいなら残念なことだ。
演劇を創る以上は劇場の存在とサポートは重要で、その劇場側が、わざわざ活躍と評価を勝ち取る機会を創出してくれているのだ。地元で活動する演劇人が、その期待に応えないでなんとするのだろう?
北海道の演劇イベントのフレームは、揺るぎなく強靱というわけではない。娯楽の多様化以前に少子化・消費縮小社会にあって、いい作品を作り上演していかないと、活躍の場はあっという間に失われていくだろう。だから自分たちのために、むしろ勇んで祭に参加するべきだと思う。賞は簡単に獲れないからこそ価値があるのだし。

最後に、今年の大賞候補として有力そうな作品・劇団について、個人的な意見を。

過去2年の傾向では、シアターZOOで上演される道外作品が強力だった。ZOOでは今年、韓国の劇団カチノル、青年団リンク ホエイ、東京乾電池の作品が上演される。このうち私が期待しているのはホエイ。過去に観た青年団関連の団体の芝居がどれも面白かったからだ。

道内の作品では、過去に大賞・特別賞の受賞実績がある弦巻楽団の『裸足で散歩』、2年前に特別賞を受賞している劇団coyoteの『身毒丸』(演出は海外でも高い評価を得ている劇団「開幕ペナントレース」を率いる村井雄!)、二度の特別賞の実績を持つ南参演出のコンカリーニョプロデュース『ちゃっかり八兵衛』などが有望ではないかと予想している。
また、若手から中堅へと移りつつある劇団アトリエが、ここで成長を披露してくれることも期待したい。

他にも実力・経験のある集団が参加しているし、成長期の若手や今年初めて観ることになる劇団の参加もある。そうでなくても劇団の力は1年・1作品でがらりと変わったりもする。予想を裏切るダークホースに出会えることを願いつつ、TGRの観劇を楽しむつもりだ。


岩﨑真紀(いわさき・まき)
情報誌・広報誌の制作などに携わるフリーランスのライター・編集者。特に農業分野に強い。来道した劇作家・演出家への取材をきっかけに、北海道で上演される舞台に興味を持つ。TGR札幌劇場祭2014~2016年審査員、シアターZOO企画・提携公演【Re:Z】2015~2016年度幹事。サンピアザ劇場神谷演劇賞2017年度審査員。