歩いてみたら、出会えた、見つけた。

まち歩き

「えべおつ丘陵地マラニック」体験ルポ

マラニックとは、「マラソン」と「ピクニック」の造語。
自分のペースで走ったり、歩いたり、周りの風景を楽しんだり、地元の人とおしゃべりしたり。
タイムも順位も競わない新しいスポーツと聞いて、
これなら参加できるかもしれないと体験してみることにした。
矢島あづさ-text 伊藤留美子-photo

「日本で最も美しい村」連合に加盟する江部乙地区がマラニックコース

タイムも順位も競わないスポーツ?

マラニックは、そもそも長距離を走り続けるトレーニング方法の一つ。翌日に疲労を残さない程度に気持ちよく走り、リフレッシュするために始められた。立ち止まって景観を楽しみ、仲間とおしゃべりすることも許される。日本のストイックな練習法しか知らなかった元日本陸連終身コーチの高橋進さんが、発祥地のニュージーランドを視察して驚いた。オリンピック選手も、この方法で成果を上げている。そのことを著書『マラソン』の中で紹介し、日本に広まった。

マラニック会場となる丸加高原と菜の花畑(撮影:伊田行孝)


最近、その土地ならではの食べ物やお土産付きのマラニックが全国各地で開催されるようになり、ちょっとしたブームになっている。滝川市江部乙の丘陵地帯は、日本一の作付面積を誇る菜の花畑をはじめ、丸加高原や農村風景など四季折々の景観が楽しめ、NPO法人「日本で最も美しい村」連合にも加盟している。その恵まれた環境を生かし、スポーツになじみのない人でも参加できるようにと2015年から「えべおつ丘陵地マラニック」を開催。3回目を迎える今年は5月14日に行われ、参加総数は644人。昨年のリピート率が45.6%と聞いて、その人気の秘密を探ることにした。

晴天に恵まれ、丸加高原伝習館前10:00スタート

ゆる~い感じで、歩きはじめる

エントリーしたのは約9.5kmの「ちょこっと丘陵コース」。普段、運動らしきことをしていないので不安だったが、小学生以下の参加者もいると聞いて申し込んだ。どこでも折り返し可能な約5.5kmの「ユニバーサル丘陵コース」もあれば、約16kmの「がっつり丘陵コース」でアスリート並みに走ることもできる。まずは、みんなで準備運動をし、「がっつり」のアスリートの部からスタートを切った。「ちょこっと」の周りを見回してみると、女性や家族連れが多いように思う。ベビーカーを押しながら歩くパパ、健脚を誇るようにダッシュしたのは最高齢88歳の方だろうか。

「すんげ~っっ」丘からの眺めに声を上げる子どもたち


「そろそろ走ってみますか?」コースを先導してくれるガイドの藤岡さん


行く先を見るとアップダウンのある丘陵地帯であることに気づく


せっかくなので、ガイドの藤岡哲雄さんについて歩いていると見晴らしのいい場所では「ここから見えるのが暑寒別岳、あっちがピンネシリ」など説明してくれる。「これからちょうど、農家さんが田植えを始める時期なので、夕方に丸加高原の展望台から眺めたら、夕陽が水田に反射して、ほんとうにきれいなんです」。そんな地元ならではの見どころスポットを聞いてしまったら、帰りに寄りたくなるではないか。

歩いていてうれしいのは、1kmごとに「〇km地点・ゴールまであと〇km」などの看板があることだ。その数字を体で表現しながら記念撮影を楽しむ人もいた。「あそこのTシャツは…」とか「斎藤さんのモノマネでさぁ…」など、ファッションやテレビの話をしながら歩く人。道端の野花を摘んでママにプレゼントする女の子。あ、今日は母の日だった。そう、スポーツとはまったく次元の違う「ゆる~い感じ」がマラニックの魅力らしい。

「僕は埼玉から来ました」。会話が弾むのもマラニックならでは


一緒に歩けば、息もぴったりハイ、ポーズ


君が最年少かな?一生の思い出になるね

君が最年少かな?一生の思い出になるね

「おみやげ」につられて、歩く、歩く

2kmほど歩けば、最初の菜の花畑で歓声が上がるはずだった。「今日は2分咲きくらい」と聞いていたけれど、残念。ほとんど緑の畑で、風に種が飛ばされて土手にまばらに咲く菜の花くらいしか見ることはできなかった。その先に最初の休憩ブースがあり、給水できる。シルバーボランティアの方が「どっから来たの~?」と声を掛けながら、地元産のハチミツを配っていた。「へぇ、滝川に養蜂場があるなんて知らなかった」と言葉を返すだけでも、交流が生まれる。実は、コースによって2~6カ所設置されている休憩ブースで配られる「おみやげ」が、参加者の楽しみのひとつなのだ。

休憩ブースでは水やスポーツドリンク、特産品が配られる


最初にもらった高見養蜂場の国産天然はちみつ「菩提樹」


水田を耕す風景がのどかな江部乙地区


陽だまりを選んで楚々と咲く菜の花もいいなぁ


ふと目の前を走り抜けていく人々がいる。聞くと「がっつり」コースのアスリートたち、まったく走る気のない私たちを追い抜いてグングン小さくなっていく。ここで焦らないのがマラニックのよさだ。心地よい風と美しい農村風景にいやされながら、のんびり歩く。いや、コースはそろそろ緩やかな上り坂。5km地点の看板を横目に、歩く体力しか残っていないのだ。頭の中は、次の休憩では何がもらえるかなぁ…しかない。

走り抜けていく「がっつり」コースのアスリートたち


2番目の休憩ブースでは旬のアスパラがもらえた!!!


「ああ、丸加山が見えてきた」ということは、後は上り坂?


最後に学生ボランティアが地元産小麦で作ったドーナツを配っていた

教護班から「大丈夫ですか?」

ゴールまであと2kmほど。上り坂の林道が続き、なかなか思うように足が運ばない。取材で5、6時間歩き回ることもあるので楽勝だと思っていたが、このラストスパートはなかなか手ごわい。明らかに運動不足だ。救護班の自転車が近づいてきて「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。とっさに「大丈夫ですっ」と答えてしまったが、少し後悔した。はたからパッと見ても、歩き方がへこたれていたのだ。どんな手当をしてくれるのか、身をもって取材すればよかった。

「スポーツと平和を考えるユネスコクラブ」からガイドとして参加した小林均(ひとし)さんは「全国には60kmの本格的なマラニックもある。長距離になれば、今回のようなスタッフのサポートも難しくなるし、上級者しか参加できなくなる」という。そう言われてみれば、初参加でもコースを外れないようにスタッフが誘導してくれるし、自転車でこまめに救護班が伴走してくれて、安心感たっぷりだ。

ゴールまであと1kmは「だまされてる?」と感じるほど長かった。横を歩いていた小学生が「ゴールまで…歩けば…ジンギスカン…」と呪文のように唱えていた。その健気な声に励まされながら、12:38にゴールすることができた。

「初めて参加するけど快適~♪」と笑い声が通り過ぎた


「桃源郷のようだ…」とカメラマンがシャッターを押した


なんとも可憐なミヤマスミレ…かな?


ゴールに浦臼町のゆるキャラ臼子ねぇさんが待っていた。
「うらうす友だちマラニック」のPRに駆けつけたらしい


ゴール後には、松尾ジンギスカンがふるまわれる


えべおつ丘陵地マラニック実行委員会
滝川市教育委員会社会教育課内
北海道滝川市大町1丁目2-15 
TEL:0125-28-8046(直通)FAX:0125-24-1024
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