人とまち、人と人を接ぎ、育てる。豊かな実を結ぶために。―栗山煉瓦創庫くりふと

1961年に建てられた農産物保管用の倉庫を改修し、2023年1月にプレオープン、同年4月にグランドオープンした「栗山煉瓦創庫くりふと」

JR栗山駅の南側にかつて農作物を保管していたレンガ造りの倉庫がある。2023年、レンガ倉庫は新しい役割を得てオープンした。ただ、その役割が少しわかりにくい、かもしれない。初めて訪れた人は「ここって何する場所?」と口をそろえるという。その答えは……。
石田美恵-text 黒瀬ミチオ-photo

「栗山好き」を増やしたい

JR栗山駅周辺は2018年から町の計画で中心市街地区の道路や公営住宅、公園などを再生整備することになった。レンガ倉庫もその一環で地域・観光交流センターとして活用することが決定。しかし具体的にどんな施設にするかは、なかなか決まらなかった。栗山町ブランド推進課の三木貴光(みき・たかみつ)さんに経緯を聞いた。

「町民アンケートをとったり町民組織で話し合ったりしましたが、うまく意見がまとまらず、役場で一から検討しました。関係課職員、地域おこし協力隊、協力隊OB、外部のアドバイザーが集まって話し合いを重ね、出した結論が『町の関係人口をつくるための施設』という考え方です」
「関係人口」とは、移住した「定住人口」でもなく、観光に来た「交流人口」でもない、地域と多様に関わる人々のこと━━といってもイメージが湧かないが、三木さんは「町民も含めて、栗山が好きで、栗山を応援したい、栗山で活動したいと思う人たちのこと」と定義する。
「もともと栗山はイベントを開催すると町外から大勢の人が来てくれますし、栗山にあるお店に買い物に来る人も結構いるんです。でも、栗山の町自体を認識している人はあまり多くない。移住や定住の施策も実施していますが、認識がないのに、いきなり『住もう』とは思いにくいですよね。そこで観光と定住の中間にある関係人口を増やし、定住に移行するようになれば、人口減少が食い止められるのではと考えました」
買い物をする、食事をする、温泉に入る、自然に触れるといった単一の役割ではなく、もっと大きなくくりで「栗山好き」を増やすための場所。それがレンガ倉庫に託された新しい役割なのだろう。

当時栗山町地域おこし協力隊でレンガ倉庫の活用を話し合ったメンバーの一人、金谷美咲(かなや・みさき)さんはこうふり返る。
「イメージしたのは『自分が高校生の時にあったら良かったと思う場所』です。私が高校生のころは気軽に集まれる場所がなく、放課後にスーパーに行って飲み物を買って、休憩スペースでずっとしゃべって笑いすぎて注意される友だちもいました。自転車に片足をかけたまま話し続けて気づいたら3時間、という日もありました。栗山に住む若い人たちが、『ここがあって良かった』と思う場所になってほしい。『栗山には何もない』と言って出て行ってしまう人が多いので」
いろいろな人の願いをのせて、レンガ倉庫の活用計画は少しずつ進み始めた。

栗山町ブランド推進課主幹の三木貴光さん。岩見沢市出身で高校卒業後栗山町へ。「もう根っからの栗山町民の気持ちです。『くりふと』で新しい活動をする人たちのコミュニティができればと思っています」

元栗山町地域おこし協力隊の金谷美咲さん。現在は「合同会社オフィスくりおこ」に所属し、『日本の地方を、ワカモノ・ヨソモノが活躍できるフィールドに』というミッションに向けて活動中

通称は栗の「接ぎ木」から

レンガ倉庫の正式名称は栗山駅南交流拠点施設、通称「栗山煉瓦創庫くりふと」。くりふとのネーミングは金谷さんの発案である。背景には役場の三木さんとのこんな出会いがあった。
金谷さんは栗山町出身で高校生の時に町の事業でオーストラリアのホームステイを体験し、「こんな素敵な体験ができて自己負担がたった8万円。なんて良い町なんだろう!」と思ったという。その後札幌で大学に通っていた時に、町の特産品試験販売の手伝いを役場から1日だけ頼まれた。担当者は三木さん、特産品は栗の加工品だった。
「三木さんに『この特産品どうしてできたんですか?』と聞くと、栗についてものすごく詳しく説明してくれました。もう栗農家になれるくらい詳しく。役場の人がなぜここまで詳しいんだろう、という驚きと、こんなに町のことを考えてくれる人が役場にいるんだ、とうれしく感じました」
大学卒業後は一度札幌で就職し、社会人3年目でやっぱり大好きな栗山に戻ることに。ちょうど地域おこし協力隊を募集していた時期で、すぐに応募、採用となり、ふるさと納税事業を担当することになった。レンガ倉庫活用の話し合いではUターン経験者として積極的に発言してきた。

「倉庫の呼び名をどうしようか悩んでいた時、あの特産品販売会で三木さんが栗の『接ぎ木』について熱く語っていたのを思い出しました。聞いた時は全然理解できなかったのですが、改めて調べてみると、木と木を接合し、より強い木を育てたり、大きい実を実らせたりする大事な作業で、町内外の人をつないで関係人口をつくるという、私たちがやりたいことにピッタリでした。英語を調べると『グラフト』という単語が出てきて、くり+ふと、これだ!と思いました」
三木さんの気持ちが当時大学生だった金谷さんに伝わり、今は町の未来を考える仲間として一緒に力を合わせている。これも接ぎ木をした枝がしっかりつながり、大きく育った成果に違いない。

レンガ倉庫改修工事の様子。趣のあるレンガ造りを生かすため、耐震補強など大幅な工事を行った(写真提供:栗山町)

2023年4月1日、オープニングセレモニーでのテープカット。当日のイベントには300人を超す来場者が訪れた。(写真提供:栗山町)

「くりふと」でできること

現在の「くりふと」の機能を簡単に紹介しよう。
一番広々としたスペース・多目的ホールはふだん一般開放されていて、学校が終わる午後の時間帯は勉強をする高校生も多い。「椅子がひっくり返るくらい大爆笑している高校生を見て、ちょっと泣きそうになりました。私が思っていたイメージそのままです」と金谷さん。貸し切りの団体利用やイベントの開催もできる。例えば、栗山町は以前から、元プロ野球選手で日本代表監督も務めた栗山英樹さんとゆかりがあり、2023年3月に地元商店街がWBC鑑賞会を企画し、100名以上が集まって決勝戦を見守った。その隣、やや小さい展示ホールは自分の作品や商品の展示販売ができる空間で、ハンドメイド雑貨のマルシェやワークショップなどの利用が増えている。
ホールに面して調理室「くりふとキッチン」が二つ。本格的な厨房機器がそろい、これから飲食店を開業したい人の試作販売やすでにお店を持っている人の出張販売など、いろいろな挑戦ができる。日によってコーヒーの香りがすることも、おはぎやたこ焼き、コロッケが登場することもあり、何かおいしいものに出合える楽しさがある(事前に知りたい場合はカレンダーをご確認くださいhttps://kurift.jp/kannai/)。

そしてもう一つ、大きな特徴である「ファブラボ栗山」のスペースはデジタル工作機械とアナログの工具類などを配備し、専属インストラクターのサポートを受け、誰でも、(ほぼ)あらゆるものを作ることができる。実はこの場所、全く別の事業から始まった。2015年に前町長がサンフランシスコで有料会員制のDIY工房を視察し、地方創生事業として同じような施設を栗山にもつくれないだろうか、という相談が三木さんに降りてきた。調査を進めると全国に多様な事例があることがわかり、サンフランシスコのような大規模でビジネス寄りではなく、小規模で地域密着型のほうが栗山にふさわしいだろう、との考えにシフトしていく。ただ、ものづくりの面白さや可能性を知ってもらう、という大きな目的は変わらず、町にとって有益な施設にするには……と思い悩んでいた三木さんが行き着いたのが、神奈川県にある「ファブラボ鎌倉」という工房だった。ファブラボは2002年ころアメリカで始まった実験的な市民参加型の工房で、世界的なネットワークをもち、今では世界100カ国、1750カ所以上に広がっている。

進むべき方向と先駆的なモデルは見えた。次は実際に運営する担い手が必要となる。そこで2019年に地域おこし協力隊2名を採用し、1年間「ファブラボ鎌倉」で研修をした後、活用が進んでいなかった町内の工房内で「ファブラボ栗山」のテスト運用を開始した。並行して「くりふと」の計画も着々と進み、あるとき、その両方を担当していた三木さんは考える。「二つが同じ場所にあれば、活用する人が増え、関係人口にもつながるのでは」。かくして「くりふと」の会議室二つがファブラボの工作室と木工室となった。
これまでの利用は様々で、例えば、町内の農業者が農機具のパーツを自作したり、介護福祉専門学校の学生が、車椅子を使いやすくする道具を作ったり。「ファブラボ栗山」は、何か問題を解決するために「こういうものがあったら」と考え、「ないなら自分で作ってみよう」と後押ししてくれる場所なのだと思う。

休憩や歓談、飲食利用のほか、仕事や学習などのコワーキング利用もできる多目的ホール。六角形の椅子とテーブルは町民のべ70人が参加して「ファブラボ栗山」で作成した

2023年3月22日、WBC鑑賞会(決勝のアメリカ戦)に集まった皆さん(写真提供:栗山町)

くりふとキッチン1(小)。この日はスペシャルティコーヒー専門店「カフェ ブンナタッタ」が営業中

3DプリンターやUVプリンター、レーザー加工機などのデジタル工作機械のほか、各種ハンディツールや電子工作ツールなどがそろう「ファブラボ栗山」の工作室

変わり続ける活動場所

町の広報誌やウェブ媒体「くりやまのおと」で栗山の情報を発信する望月貴文(もちづき・たかふみ)さんも、「くりふと」オープン前から関わっているメンバーの一人。これからの期待を聞いてみた。
「ここで特別なイベントやお祭りを開くのも大切ですが、みんなが日常のなかで自然に活用するようになればと思います。高校生が夕方勉強している姿がまさにそうですが、家でも、学校や会社でもなく、居心地の良い自分の活動場所として『くりふと』がある。昼間は仕事の打ち合わせに使うとか、夜になったら居酒屋の営業があってもいいですね。もちろん町の事業なので、成果を正しく評価し、次の仕掛けや戦略を考え続けなければなりません。まだヨチヨチ歩きの『くりふと』ですから、『厳しい目』と『楽しみな目』を両方持って、ここに関わる人を増やしていけたらと思っています」

改めて「『くりふと』って何をする場所?」と聞かれたら、答えがたくさんありすぎてとても一言では返事ができない。また2年後、5年後にここを訪ねたら、いまとは違う場所に変化しているだろう。接ぎ木がどんなふうに伸びて実を結ぶのか、楽しみでならない。

2021年から栗山町地域おこし協力隊 情報発信プランナーとして活動する望月貴文さん。栗山町公式note「くりやまのおと」を立ち上げ運営している。コンセプトは「栗山の音を、書き留める・積み重ねる・継ぎ合わせる」

オープニングイベントとして開催された音楽ライブ。出演は栗山町地域おこし協力隊の一人もメンバーとなっている電子音楽ユニット「木箱」(写真提供:栗山町)

2023年7月22日・23日に開催された「くりやま夏まつり」との連携イベント時の様子。まつり会場がくりふとに隣接した屋外スペースで、多くの来場者が行き交った(写真提供:栗山町)

高校生に大人気のカウンタースペース。全館Wi-Fi接続可能で充電用コンセントも完備

栗山駅南交流拠点施設「栗山煉瓦創庫くりふと」 
北海道夕張郡栗山町中央3丁目154-1
TEL:0123-76-9945
9:00〜22:00、月曜休館(祝日の場合は火曜休館)
WEBサイト

※「ファブラボ栗山」のサービス利用
平日14:00〜21:00、土日・祝日9:30〜16:30
WEBサイト

くりやまのおと
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