「またあれを」と言われた、北海道の“甘系”手土産3品

「フードライターとやらが持ってくるのだから、さぞおいしいに違いない」。そんなハードルの高〜い手土産選びなんて無理! といいつつたどりついた味。いつもと違うお土産はないかな? という内地の方も、一度お試しを。
深江園子(オフィスYT)-text

昔勤めた東京・本郷三丁目の編集部には、各地に“いつものあれ”がありました。
少人数の編集部が1フロアに4誌ですから、毎週のように誰かが出張します。名古屋なら芳光のわらび餅、京都なら今はもうない生風庵の雪餅、福島なら柏屋の薄皮饅頭と、包みを見れば「あれ、買ってきてくれた?」と人が集まり、ないときも「あれは本当においしいよね・・・」と遠い目になる(笑)、繰り返し食べたい味。著者の先生方に持参する都内の手土産も、藤むらの羊羹(あぁ、ここも閉店・・・)、ささまの最中と、めいめいの定番があった気がします。

北海道のお菓子はまだ若々しくて、歴史ある銘菓とはまた違った良さがあります。和菓子も洋菓子も、素材の産地はここですよ、というご当地感にあふれています。道産子が地元のものを選ぶなら、どこかに作った人の息吹が残る「顔見え」なものはいかがでしょう? 以下は、数日間は日持ちがして「また、あれを」と言ってもらえた平成生まれのお菓子たちです。

深江園子さんおすすめの3品

チーズオムレット(ペイストリースナッフルス・函館市)

チーズオムレット

チーズオムレット

洋菓子業界で、チーズケーキは特にライバルが多いジャンル。中でも舌ざわりの心地よさで突き抜けているのが、こちらの品。持ち運んでもこわれないのに舌で潰れるほど柔らかい。でも空気を食べるような頼りなさはなく、きちんとなめらかなのが不思議。大きさは二口半という程よさで、ついもう一つと手が伸びます。

コクと爽やかな乳酸味(にゅうさんみ)が共存しているのは、原料のクリームチーズのおいしさに違いありません。「そうだろ?  焼いた時しっかり味が出るように、市内の乳業会社に頼んだんだ」と話してくれたのは、先代の中澤社長。80年代に営んだ新橋の小さなパティスリーは窯の火を消す暇がないほど繁盛し、函館ではフランス菓子を根付かせた職人経営者でした。このお菓子には、社長の味覚とアイデアが受け継がれています。
*8個入 1296円(税込)

赤いサイロ(清月・北見市)

赤いサイロ(写真提供:清月)

赤いサイロ(写真提供:清月)

差し上げた後、「リピートしました!」とよく言われるのがこの品。創業80年の菓子店らしい、どこか懐かしい姿と味に心がなごみます。きちんと箱入りで、取り出すと薄紙の型で焼いたまんまの素朴な表情。癖のないおいしさは、牛乳、バター、練乳などの質の良さそのもの。実は砂糖や小麦粉も含めほぼ地元原料でできていると知って、オホーツクの豊かさに改めて気づきました。

生みの親は3代目の現社長。20代で専務となって初のヒット商品で、「何度も製造とやりとりし、ネーミングもパッケージデザインも自分で手を動かしてつくったんですよ」と20年間大切に育ててきたそう。TVのお土産菓子ランキングで優勝するなど話題づくりもしますが、飾り立てない素直さが好ましい「オホーツクのお菓子」です。
*1個130円、8個入1256円(税込)

十勝黒大豆ブルクと十勝塩小豆タルト(森田農場・十勝清水町)

ジ冒頭の写真は十勝塩小豆タルト(写真提供:森田農場)

十勝黒大豆ブルク。ページ冒頭の写真は十勝塩小豆タルト(写真提供:森田農場)

かわいい豆柄の箱の中に、自然な焼き色の四角いケーキが二本。冷凍のまま切り分けて解凍するタイプなので、お呼ばれの時に重宝な手土産です。「ブルク」は封を開けると、和とも洋とも感じられる、深煎り黒大豆の香ばしさが漂います。さ、今日はこれでコーヒーかな、でも中国茶やほうじ茶もいいな・・・。通販の焼き菓子がきちんと香ばしいなんて、ちょっと驚きです。「タルト」はほんのり塩味の小豆がのったアーモンドケーキのタルト菓子。甘いところと塩味のところの優しいコントラストがたまりません。そしてどちらも豆そのものの味が濃い! 豆への愛が、お菓子から伝わってきます。

お菓子としては新顔でも、使われている黒大豆、小豆、小麦を栽培するのは、100年4代続いた十勝の開拓農家。4代目夫妻は豆づくりの名手である先代から受け継いだ約72ha(20万坪!)の農場で、おいしくて永続可能な農業をめざしているそうです。
*十勝黒大豆ブルク 190g 1500円、十勝塩小豆タルト 220g 1500円(税込)

今回おすすめした手土産菓子3品、いかがでしたか?

北海道暮らしの私は、こうした銘菓の卵探しにワクワクしています。ひとつの手土産が、どなたかの“いつものあれ”になるかも? と思うと品選びも楽しいのです。

・・・・・・と話していたら、知り合いのお土産屋さんが首をかしげました。「いや、北海道にはまだ新商品が必要です。お土産業界はそろそろ、次のヒット商品を待っているんですよ!」
なるほど。確かに有名ブランドのお土産菓子は、それ自体が北海道の代名詞になっていますが、顔ぶれはほぼ固定していそうです。そう思うとお土産はお菓子の中で、いえ食品の中でも、「おいしい」だけでない独特のジャンルなのかもしれません。次回はそのあたりを(食べながら)考えてみようかと思います。

深江 園子(ふかえそのこ)・フードライター

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製菓製パン、料理分野の寄稿やセミナー企画など、作り手、使い手、食べ手の間を取り持つ「通訳業」を仕事にする道産子。運動はもっぱらロードバイクなので冬のカロリー消費が課題。プロ向けの道産小麦サークル「小麦の輪」主宰。『絶対ハズさない北海道スイーツ』(電子ブック・香雪社)ほか。

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