北海道を持ち帰ろう。

昭和30年代から40年代。日本中の家庭にはヒグマがいた。

北海道みやげの木彫り熊だ。旅の主力が鉄道や観光バスだった時代。本州以南から北海道をめざす人々の多くはまだ、北海道に対してどこか異郷のイメージを抱いていたことだろう。もしかしたら木彫り熊を買ったツーリストたちの胸には、北海道の山奥からヒグマを獲ってきたゾという、にわか探検家の気分があったのかもしれない。

お土産は、その土地を訪れた徴(しるし)に持ち帰るものだ。徴は「あかし」であり「きざし」であり、「あらわれ」でもある。では北海道みやげは、なんのきざしであり、あらわれだろう。

お土産は、土地が放つ個性的な光であり、その地が紡(つむ)ぐロマンティックで美しい物語のひと滴(しずく)だと思う。あるいは、土地の人々が創意と工夫をこらした、とっておきの自画像ともいえるだろう。だから北海道みやげを見渡すことは、現在の北海道の成り立ちや近未来のきざしにふれることにほかならない。

さあお土産の世界から、北海道のいまを旅してみよう。

谷口雅春─text

ENGLISH