旅する本の中継地点
著者、編集者、デザイナーといった作り手、大型書店の仕入れ担当者や個人書店の主、そうした多くの人の思いと、読者となる買い手の思いが一致したときに、その本の旅が始まるのかもしれません。多くのモノには中古の流通市場があります。なかでも本のそれは古くから認知・確立され、大きなマーケットを形成しています。本は時空を超えて旅をします。新しく書棚に並んだ古書の、前の読者が誰もが知る有名人だとしても不思議はありません。でも、例えば楽器なら、アノ人が所有していたことによる付加価値が生まれますが、本は誰が読んだものでも一冊の書物です。多くの場合は旅の過程が見えないからこそ、読む側の空想も広がって行きます。
新刊書店、古書店、そして図書館。「本が並ぶところ」はそんな本の中継地点です。膨大な本の海の中で、今まで関心を持たなかったジャンルなのに、なぜか自分を呼ぶ背表紙に出会った経験は多くの人にあるのではないでしょうか。それもまた旅の中継地点という空間だからこその演出なのかもしれません。
一方で、「本屋さん」が減っています。カイは以前季刊誌として発行し、書店の棚に並んでいましたが、いまはWEB空間の中にあります。紙からデータになっても「本が並ぶところ」を応援する気持ちに変わりはありません。
今回の特集では、期せずして一人の書店主にふれることになります。「くすみ書房」元店主の故・久住邦晴さん。「本が並ぶところ」を愛し、こだわり、多くの人により良い本を伝えたいと本気で活動していた方で、季刊誌のカイにご登場いただいたこともありました。この特集が少しでも、まちの本屋の活気につながることを願っています。
伊田行孝─text