真駒内駐屯地史料館から見る札幌、北海道、そして漫画

れんが造りでレトロな趣がある真駒内駐屯地史料館。戦後、ある目的のために建設された建物を転用している

“北海道酪農の父”エドウィン・ダンによって拓かれ、「さっぽろ雪まつり」や札幌冬季オリンピックにもゆかりある札幌市真駒内。こうした地域の歴史を、自衛隊の歩みとともに伝える史料館が、陸上自衛隊・真駒内駐屯地にある。近年は、あの人気漫画に関する展示も、注目を集めているらしい。
新目七恵-text 黒瀬ミチオ-photo

真駒内の始まりを物語る「サイロ隊舎」

「自衛隊の中にある史料館」と聞き、意外な気がしたが、実は、陸・海・空各自衛隊の基地や駐屯地には、さまざまな広報施設がある(※)。全国で120以上、道内では20近い施設のひとつが、「真駒内駐屯地史料館」だ。

広大な敷地の中央エリアにある広報施設は、4つの建物で構成。最初に案内されたのは「サイロ隊舎」だ。牧草などを詰め込んで発酵・貯蔵する倉庫=サイロが、なぜ自衛隊にあるのだろう?

「サイロは、エドウィン・ダンによる真駒内種畜場時代の昭和12年、乳牛試験舎として建てられました」と話すのは、真駒内駐屯地司令職務室・広報幹部1等陸尉の加藤健吾(かとう・けんご)さん。「昭和21年に米軍が進駐し、6基のサイロは取り壊されましたが、このサイロ牛舎だけ残され、下士官クラブや集会場などとして活用されたのです」
エドウィン・ダンは、北海道開拓使に招かれ、北海道で畜産・酪農業の普及に努めた人物。つまり、この建物自体が、真駒内駐屯地が出来る前、この地が先進的な牧場だったことを示す遺構なのである。

サイロ部分の札幌軟石と、隣接する元牛舎部分のマンサード屋根が特徴的な「サイロ隊舎」。真駒内には「エドウィン・ダン記念館」もあるが、道内に現存するサイロとしては最大級で、種畜場時代唯一の建物だとか

中で展示されているのは、「さっぽろ雪まつり」の関連資料。札幌市民ならご記憶の方も多いだろうが、真駒内駐屯地は、1965年の第16回大会から40年間、雪まつりの第2会場として親しまれた。懐かしい写真や年表から、往時のにぎわいを知ることができる。

今も続く雪像制作の舞台裏もパネルで紹介。時代を反映した歴代の雪像模型を見るのも楽しい

雪まつりの来場者数が史上最多の405万人を記録した1971年(第22回)、真駒内をメイン会場として開催された札幌冬季オリンピックの展示室もある。真駒内駐屯地には支援団体の拠点が置かれ、運営に協力。そうした功績から、貴重な予備メダルなども保管されている。

当時の熱狂を伝える札幌冬季オリンピックの展示室。

ちなみに、米軍が監視塔としたサイロの内部には階段が設けられ、最上部は展望台になっている。開拓時代に端を発し、戦後は札幌の冬の風物詩や平和の祭典を支えた真駒内の眺望を、今は思う存分楽しむことができる。

敷地内に病院や自動車の教習所もある、全国でも珍しい真駒内駐屯地が一望できる展望台

1~3号館で開拓から戦後をたどる

続いて移動した先には、3棟が建ち並ぶれんが造りの平屋群。「1号館」「2号館」「3号館」と名付けられた各施設では、それぞれ「陸上自衛隊」「屯田兵」「旧軍」のテーマで関連資料が展示されている。

サイロ隊舎は開拓期の建物だったが、1~3号館は、戦後に進駐した米軍が建設した兵舎の名残。基地は「キャンプ・クロフォード」と呼ばれた

2→3→1号館の順で見学し、開拓から戦後までの道のりをたどって感じたのは、共通するテーマや時代の展示物は数あれど、「真駒内駐屯地史料館」で受ける印象は少し異なるということ。たとえば、2号館にある屯田兵の兵屋復元コーナー。

屯田兵の生活を追体験できる兵屋の復元コーナー

「朝はラッパの音で起床したそうです」という解説から、「ラッパを合図に起床や昼食など1日の業務をこなすのは、今の我々も同じですね」と話が弾んだ。屯田兵について知ってはいたものの、厳しい規律の中で北海道の警備と開拓に励んだ暮らしぶりを、自衛隊の方々から直に説明されると、その存在感がぐっと近くなる気がした。それは、3号館で旧軍のさまざまな史料を見て回った時も同じで、過去と地続きで「今」があることを改めて実感したひとときでもあった。

当時の弾薬車(左)をはじめ、さまざまな旧軍の史料が並ぶ3号館

旧軍の兵士が使った鞄やタバコなど、展示物の多くは一般市民から寄贈されたものだそうだ

真駒内駐屯地司令職務室の加藤さん(右)と片寄さん。見学には広報担当者の同行が必要。今回は4施設で計約2時間とフルコースで案内してくれたが、希望時間に調整可能だとか

「ゴールデンカムイ」ゆかりの品も

道内外の団体や個人旅行者など、さまざまな利用がある中、近年、女性や若者が目当てにするものがあるという。それは、明治時代の村田銃! 何でも、明治末期の北海道を舞台にした人気コミック「ゴールデンカムイ」に登場する武器なのだそうだ。

「ゴールデンカムイ」の登場人物が愛用したという村田銃の実物を見ることができる2号館の展示コーナー。ほかにも主人公が使った銃剣なども

3号館にも軍服や歩兵連隊の史料などがあり、「ゴールデンカムイ」の世界に通じるとファンに喜ばれるそう

「写真を何枚も撮ったり、じっと見入ったりする方もおられます」と片寄さん。漫画の舞台となった“聖地”は道内各地に点在するが、小道具までもが注目されるとは!「ゴールデンカムイ」はこれから実写映画化される予定で、ますます話題が集まりそうだ。

蛇足だが、国内外で大ヒットしたネットフリックスのオリジナルドラマ「First Love 初恋」(2022年、寒竹ゆり監督)で、主人公の佐藤健が演じたのは航空自衛隊の元パイロット。物語ではイラク派遣や東日本大震災など1990年代からの時代背景も織り込まれ、同時代を生きた私の胸に突き刺さった。真駒内駐屯地の取材はドラマをちょうど見終えた頃で、1号館の災害救援活動の紹介ブースも心に残った。

同じ資料でも、見学するタイミングや見学者の思いによって輝き方は変わる。札幌や北海道の歴史だけでなく、話題の漫画やドラマともつながる豊穣な世界が、真駒内駐屯地史料館には広がっていた。

災害派遣や国際貢献活動を伝える1号館の展示コーナー

そういえば、敷地内にはれんが造りの1~3号館のほかにも、キャンプ・クロフォード時代の建物が健在。映画好きとしては、当時の劇場を見ることができたのも嬉しかった。さまざまな時代の面影を残す建築を愛でることができるのも、真駒内駐屯地ならではの魅力といえるだろう。

現在は倉庫として使われているという劇場は、どこか優美な雰囲気を漂わせていた

真駒内駐屯地史料館
北海道札幌市南区真駒内17
TEL:011-581-3191(内線3905または3806)
開館時間 9:00~16:00、土・日曜・祝日休館
入館料:無料 ※見学申し込みは事前申し込みが必要。基本的に団体は希望日の2週間前、個人は1週間前までに連絡を。
WEBサイト

防衛省・自衛隊の公式サイト(広報施設の案内ページ) https://www.mod.go.jp/j/press/exhibition/index.html

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