北海道の野菜をコトコト、キラキラに—ちょびりこ。ジャム研究所—

北海道の野菜で作る「ちょびりこ。研究所」のジャム

大根とりんご、玉ねぎといちご、ルバーブとワイン、長芋とゆず……こんな面白い組み合わせのジャムがある。材料は北海道産の野菜に、果物やスパイスなどを少し。小さなパッケージに包まれた、ほかのどこにもない美しいジャムは、札幌の「ちょびりこ。ジャム研究所」のアトリエから生まれる。
石田美恵-text 黒瀬ミチオ-photo

広がる「ちょびりこ。」ファン

「ちょびりこ。ジャム研究所」はオーナーの菅原慶子(すがわら・けいこ)さんが2008年にスタートしたジャム屋さん。「ちょびりこ」は菅原さんのあだ名の一つで、「研究所」と名付けたのはいつも新しいジャムを実験のように試しているから。菅原さんが野菜のジャムを作るようになったのは、大根を一度にたくさん購入したことがきっかけだった。

「子どものころ祖母が庭のいちごでジャムを作ってくれて、それがものすごくおいしくて、自分でもジャムを手作りするようになりました。たくさん作って友人に配り、喜んでもらうのもうれしかった。以前は普通に果物のジャムでしたが、もともと野菜も大好きで、あるとき直売所で立派な大根を見つけて、買いすぎてしまったことがあったんです。大量の大根を無駄なくおいしく食べるには、漬物もいいけどやったことないし……じゃあジャムにしよう!と思ったのが最初です」

最初は大根おろしのような、煮物のような「ジャムらしからぬもの」ができあがり、友人たちの反応も今ひとつだったが、少し果物を足すと驚くほどおいしくなることを発見。今も定番となった初代「だいこん×りんご」のジャムが誕生する。その後、友人から小さな販売イベントに誘われ、出店することになった。
「お客さんにジャムの試食を出すと『初めて食べたけどおいしいね』と買ってくださって、うれしくなりました」。それから、札幌特産の玉ねぎ「札幌黄」などいろいろな野菜のジャム作りに本格的に取り組むようになる。当時は会社勤めで事務の仕事をしていた菅原さんは、たまたま会社が移転することになり、「通勤がたいへんになるし、ジャムも作り始めたし、会社は辞めようかなと軽い気持ちでジャム屋になりました」とのこと。

ちょびりこ。ジャム研究所の菅原慶子さん

まずはインターネットでの販売をスタートし、各地で開催されるイベントなどに出店しているうちに、百貨店や土産店などの卸し先ができた。野菜の仕入れも製造も販売も納品も、すべて一人でこなす菅原さんは(もちろんたいへんなことも多いと思うけれど)、常に楽しそうに見える。「この大根、どうしたらおいしくなるかな」と鍋に向かう菅原さんの姿は、きっとずっと変わっていないのだろうと思う。
開業から15年、ちょびりこ。ジャム研究所にはたくさんの出会いがあり、たくさんのファンができた。このファンにはジャムを買うお客さんはもちろん、材料の仕入れ先の人も、卸し先の人もいる。

たとえば、「だいこん×りんご」に欠かせない「あかね」という品種のりんごを仕入れている余市町の果樹園のおじさんは、菅原さんが紹介された新聞記事を見て、「このジャム屋さんにぜひ会いたい」と知人を通じて連絡をくれた。山の中腹に広がる自慢の果樹園を見てもらいたいと思ったのだろう、ぜひ余市に来てくださいとお誘いがあり、せっかくなので菅原さんが行ってみると、りんご、プルーン、マルメロなど、ジャムに使いたい果物がたくさんそろっていた。とくに「あかね」は一般のサイズよりも大きく、ジャムにする場合は皮が扱いやすく色もきれいに出るので、毎年秋に1年分まとめて仕入れることになった。以来、「プルーンもぎにおいで〜」「クルミできたよ〜」と季節ごとにさまざまな連絡が来て、菅原さんは『山の実家』と呼んでいる。

ある外国人のお客さんは、こちらも菅原さんが紹介された記事を大事に持っていて、「いつか食べたいと思っていたの」と電話をくれた。持病のため家から出られず、お店に買いに行くことができないという。住所を聞くと車ですぐの場所だったので、菅原さんはイベントに出店するときのように、ラックにジャムを並べてお客さんの家に向かった。ジャムはたいそう気に入られ、それから、菅原さんはそのお客さんの日々のこまごました用事─買い物や部屋の片付け、おしゃべりの相手などをときどき引き受けるようになった。彼女はお礼に英会話を教えてくれた。ジャムも何度も買って、友人への手紙に同封して喜ばれていたという。菅原さんは「ジャム屋になって良かったことは、いろんな人に会えたことです」と話してくれた。

余市町の清久(きよく)果樹園にて(撮影:石田美恵)

ちょびりこ。ジャム研究所の定番商品。野菜のジャムと、ハーブやスパイスをブレンドした「ちょび塩」(写真左)

「あれもこれも食べたい」

現在販売しているジャムは、季節によって少しずつ変わりながら10種類ほどが並ぶ。「失敗も多くてこの何倍もの種類を作りました」と菅原さん。とくに向かないと思ったのは白菜で、冷めるとどうしても鍋料理的な香りから離れられず、残念ながらあきらめたという。
どのジャムも材料の約8割が野菜で、ジャムとして甘くなっても野菜の味がしっかりと感じられ、むしろ凝縮されたおいしさが詰まっている。「セロリ×マルメロ」にいたってはセロリのシャキシャキ感までもが楽しめる。また、「たまねぎ×いちご」や「たまねぎ×ラズベリー」などは肉料理のソースに使うと、手軽に奥行きのある味わいになる。
ジャムの作り方はシンプルで、材料の下ごしらえをして銅鍋に入れ、コトコトと煮詰めていく。出来上がりはどれも優しい甘みがあり、キラキラと輝く色合いが美しい。野菜や果物の色、香り、食感を大切に、この15年の間に何度もレシピを変更してきた。「お客さんから『前よりおいしくなったね』と言っていただけるのが何より幸せです」。

ジャムのパッケージが1つ40グラムと少なめで、一度に何種類も購入しやすいことも特徴だ。封筒に入れて送ることもできるし、お土産にもぴったり。販売当初は大きめの瓶入りも作っていたが、お客さんに「あれも食べたい。これも食べたい」と言われることが多く、数回で食べきれる袋入りに変更した。このとき菅原さんの頭に浮かんだのは小学校の給食で食べたジャムだった。
「食パン用についてきた、あの小さいパックのジャムが大好きだったんです。あそこまで小さくはできないけど、1、2回の食べきりサイズにしてフレッシュな感じを食べてもらうのもいいかなと。小さい分お手頃価格にすると何種類も買ってくださるかたが増えました」
また、どのジャムも一律価格にしているのは値段を気にせず好きなものを選んでほしいから。「これは300円で、あれは350円。じゃあ300円のにしようか、みたいな状況は何となく寂しいでしょ。それくらい気にしない人も多いと思いますが、私が買う立場だったら少し嫌かなと思って」。
「食べた人の心に残るようなジャムを作りたい」
もし15年前に菅原さんのジャムを食べた子どもが、20歳の大人になってジャムを買いに来てくれたら。そんな出会いがきっと訪れるに違いないと私は思っている。

開業からずっと愛用している銅鍋は常にピカピカ

鮮やかな色が美しい「たまねぎ×いちご」のジャム

玉ねぎは札幌特産の「札幌黄」を使用。加熱すると甘みが強くジャムに向く(撮影:石田美恵)

2022年9月に札幌市東区にあったアトリエ兼カフェから移転。現在、新しいアトリエにてジャムを楽しむ時間(予約制)の営業に向けて準備中

ちょびりこ。ジャム研究所
北海道札幌市中央区南11条西8丁目2-40-1001
Eメール:chobiricojam●gmail.com(●を@に変えてご利用ください)
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主な取り扱い店
  • きたキッチン オーロラタウン店(札幌市中央区大通西2丁目さっぽろ地下街オーロラタウン 小鳥の広場横)
  • きたキッチン モユク店(札幌市中央区南2条西3丁目moyuk SAPPORO地下1階)
  • スカイショップおかだま(札幌市東区丘珠町 札幌丘珠空港内)

イベント出店のご案内

【十五夜商會】

十五夜の頃。小樽の古蔵を拝借し、衣食に纏わる5組が商いに参じます。
●2023年9月28日(木)から10月1日(日)各日11:00〜17:00
●vivre sa vie + mi-yyu(ビブレサヴィプラスミーユ)
(北海道小樽市色内2丁目4−7)

草原とストーブ・ジュエリー
@nonokoyasuda
e*die sedgwick・洋服
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triecot・羊毛ニット
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ちょびりこ。ジャム研究所・ジャム
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十五島BAKEHOUSE・焼菓子
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vivre sa vie + mi-yyu
@vivmiyu_yumi

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