ベテラン添乗員・太田さんに聞いた

バスツアー満喫術。

「出発します!」。添乗員・太田さんの“職場”である札幌駅北口のバス乗り場にて

「北海道 バスツアー」でネット検索すると、ものすごい数がヒットする。グルメに温泉、季節イベント…。どれを選ぼう? 楽しみ方のコツは? というわけで、カイ的バスツアーガイドへ出発! よしもとの芸人にして、ベテラン添乗員・太田さんの登場です。
新目七恵-text 黒瀬ミチオ-photo

還暦過ぎて、芸人デビュー!?

札幌よしもとに、「添乗員 太田」なる芸人さんがいるという。なぜ、添乗員? だって、彼は本物! 札幌を拠点に、フリーの添乗員としても働いているそう。
初めて聞いたときは驚いたけれど、お会いしてなおビックリ。
―舞台には? 「いいえ、立ちません」。
―お笑いは? 「特に詳しくありませんねぇ」。
「?」が浮かぶ私。「添乗員 太田」こと太田陽一さんの説明によると、よしもとのライブバスツアーに添乗員として同行するうち、スカウトされ、2011年に所属することに。そのとき、御歳69! 還暦を過ぎて芸人デビューという、シンデレラ(?)ストーリーを実現させたのだった。
とはいえ、仕事に変わりはなく、今も道内各地のよしもとツアーに同行しているとか。芸人歴6年、添乗員歴40年弱。不思議な経歴の持ち主・太田さんのバスに、乗ってみよう。

「添乗員・太田」は、バスでしか会えない芸人さんなのだ!

「添乗員・太田」は、バスでしか会えない芸人さんなのだ!

バスツアーは、ノッた者勝ち?

「添乗員・太田と申します。『太い田んぼの田』と書きまして、太田。決して、『太っ田(た)』ではありません。どうぞよろしくお願いいたします」。
太田さんの自己紹介は、いつもこう始まる。
単なるオヤジギャグ(失敬!)に聞こえるが、実は、客の反応をみる大事な挨拶だ。「今日のお客様はノリが良い方々か、それとも控えめな方か。会話が弾めばこっちのものですから」。
バスに揺られて目的地に行き、楽しいひとときを味わえるバスツアー。運転しないので、お酒もOK! 案内付きで、至れり尽くせり…というイメージだが、忘れてはいけないのは、団体行動だということ。バスという限られた空間のため、参加者の雰囲気が、ツアーの空気を左右するという。
「ケンカなんかは、困りますねぇ」と太田さん。
たとえば、集合時間に遅れた妻を夫が叱る…すると、車内も白けムードに。「雰囲気を変えるのも我々の仕事ですが」と前置きした上で、「せっかくだから、楽しく過ごしてほしい。多少恥ずかしくても、積極的に返事をしたり、笑ったりしてもらえると嬉しいですね」と語る。
旅は非日常。だから、普段できないことができる。そっと手をつないで歩いていたり、はしゃいで写真を撮ったり。参加者の幸せそうな姿を見ることが、添乗員としての喜びだという。

「バスツアーが盛り上がるには、運転手・ガイド・添乗員のコミュニケーションが大切。さらに、お客様がノッてくだされば最高です」

「バスツアーが盛り上がるには、運転手・ガイド・添乗員のコミュニケーションが大切。さらに、お客様がノッてくだされば最高です」

太田さんによると、バスツアーを選ぶポイントは「ツアーの何に重きを置くか」によるそう。目的地が同じでも、滞在時間やホテルのランクなどの違いで金額は変わる。「安かろうが高かろうが、時計台は時計台(笑)。ツアーの内容をよーく読んで、お申し込みください」。
「オススメは?」も、よく受ける質問だとか。①趣味嗜好でオススメは変わります。②階段がある場所は、足腰の丈夫なうちにどうぞ。③一度行った場所でも、季節が変われば風景は変わります。お友達を誘ってぜひ! と、答えるそうだ。
「自己の健康管理」「集合時間の協力」「非常口の確認と貴重品の管理」も、ツアー参加者に守ってもらいたい3点だ。「シートベルトの着用も必ずお願いします」。
「旅は、申し込んでから出発までが一番楽しい。いざ始まったら、終わるのはあっという間。でも今度は、次どこへ行こうか考える楽しみがあります」。なるほど! 一度の旅で3回楽しめるというわけだ。そう聞くと、心がムズムズ。久しぶりにどこかへ行ってみたくなるから不思議なものだ。

バスは世につれ、人につれ

太田さんは江別市生まれ。北海学園大を卒業後、何度か転職したのち、30代で旅行業界に。以来40年近く、計2000本以上の添乗旅行を経験。時代の移り変わりを、「旅」を通して感じてきた。
「昔は、お客様の希望に沿って旅を用意する『手配旅行』。今は、旅行会社が内容を決めて参加者を募る『主催旅行』が主流です」。
バスツアーも後者に当たりますね、という質問にうなずき、「昔は旅行といえば、キレイな服を着て、いい靴を履いて…。でも今なら、ジーパンにTシャツでしょう。かなり変わりましたね」と、続けた。
選択肢が増え、身近になった分、「旅」の特別感は減ったのかもしれない。
最近では、ネットで事前に調べてくる参加者も少なくない。
クリックひとつで、観光情報から風景写真まで、何でも手に入る時代。それでも、「夏の北海道なら、富良野のラベンダー畑に美瑛の丘や青い池。積丹ブルーを眺めながらのウニ丼もいいですよ~」と言われると、現地で得る感動に勝るものはないと思う。

旅の行程を管理する添乗員。必要な事項に加え、+αの観光情報や話題をメモした手帳は30冊近くに。太田さんの虎の巻だ

旅の行程を管理する添乗員。必要な事項に加え、+αの観光情報や話題をメモした手帳は30冊近くに。太田さんの虎の巻だ

これまでの失敗談は、「いっぱいあり過ぎて」と苦笑い。「さすがにお客を残して出発したことは…」と伺うと、「ありますよ」とあっさり返され、のけぞってしまった。
「グループ参加者の『揃ってます』に安心してバスを出し、1人参加の方に気づかなかったんです。タクシーで合流してもらい、もちろん私の自腹で払いました」。
太田さんが力を込めたのは、「大事なのは、後処理です」という言葉。上手に処理すれば、クレームにはならない。その方法とは、ずばり、「お客様と仲良くなること!」。
太田さんの場合、早く名前を覚えること。そして、「自分の味方にする」のが秘訣だそうだ。
確かに、結局は人と人。美しい風景やおいしい食事もいいけれど、旅先でのささいな会話や店員さんの態度なんかが、意外と記憶に残るもの。その意味では、ツアーの最初から最後までそばにいる添乗員を好きになったら、こんなに楽しいことはないだろう。

指名を受け、10年以上の付き合いがある常連客もいるという太田さん。さすが!

指名を受け、10年以上の付き合いがある常連客もいるという太田さん。さすが!

インタビューの最後に、リフレッシュ法を聞いてみた。すると、「気晴らしに、添乗員仲間とバスツアーに行くことがあります」。
どれだけバス好きなんだっ!という私の心の突っ込みが聞こえたのか、「やっぱりラクだし、お酒も飲めますしね(笑)」と太田さん。「裏のウラまで知っているので、添乗員には嫌がられますが」…そりゃあ、そうだろう。ちなみに、参加する立場になると、旅はいかがですか。
「それはもう、ワガママになりますね~」。笑いつつ、ハタと気がつく。いつの間にか私は、添乗員にして芸人である太田さんの話芸に、すっかり魅了されていたのだった。

添乗員・太田さんが選ぶ「バスツアーに持参すると便利なもの」

  • 帽子(意外と忘れる方がいます)
  • 雨具(風が強い日や、お祭り会場に行くときなどは、傘より合羽がオススメ)
  • 常備薬(車酔いしそうな方は酔い止めもお忘れなく。健康保険証もあると安心です)

※「荷物は最小限に」が基本。歩き慣れた靴も、必須です。

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