カリスマバスガイド・花子さんに聞いた!

バスから始まる物語。

バスガイドの制服を着てポーズを決める「花子」さん。立ち姿が素敵です!

人気ブログ「主婦バスガイド花子でございます」でご存じの方もいるでしょう。「バスガイド花子」さんは、観光案内のスペシャリストでありながら、プライベートで北海道を旅するのも好きだという彼女。バスガイド秘話からバス旅の魅力、さらには妄想ツアーまで。縦横無尽なバス談議をどうぞ。
新目七恵-text 伊田行孝-photo

バスは舞台、ガイドは女優!?

バスガイドさんに、初めて会うのはいつだろう。
「修学旅行」という人が、多いのではないだろうか。
観光シーズン真っただ中、6月末にお会いした「花子」さんは、数日前に本州からの修学旅行生をガイドしたばかりだった。
18歳でバスガイドになり、ウン十年。ベテランの彼女でも、「ステッカーを持ってお客様を迎えるときは、毎回緊張します」というから驚きだ。何でも、全国各地、どこから来るかにあわせて挨拶の中身を変えるのだそう。
というわけで、突然ですがお願いしてみました。「バスガイド花子」さんの挨拶です。

「○○高等学校のみなさま、こんにちはー! イランカラテー!! このたびはようこそ、初夏の北海道へお越しくださいました。憧れ抱いた北の大地の第一歩を踏みしめていただきましたが、北海道に来た実感はわいてらっしゃいますか? (「わいてるー!」「わいてなーい!」)。そうですよね~、まだ飛行機を降りたばかり。でも、もうすぐ、馬や牛の放牧風景が楽しめます。また、アイスクリームやラーメンを食べたり、きれいな湖を見たりしているうちに、「あぁ、北海道に来たんだな」という実感が、じわりじわりとわいてくるのではないでしょうか。野や山の緑も美しく、花々が咲き競うこの夏。でも、花より団子! 食べるほうに興味がありますね。お腹は減っていますか~? 成長期ですものね~(笑)。せっかくの修学旅行です。勉強のことは忘れ、大自然を満喫して、北海道を大好きになって帰ってくださいね!」

修学旅行で、動物と触れ合うこともしばしば。
(2014/7/2付け花子さんブログ「修学旅行はたのしいな…」より転載)

まさに立て板に水。高校時代に逆戻りして、私も旅したいなぁ…とのんきに思っていたら、「修学旅行のガイドは、一般のツアーより大変です。そもそも強制的な旅なので、反応が悪いこともあります。自分のペースに持っていくまでが苦労します」。
確かに、素直に喜んだり、感動するのは難しい年頃かもしれない。
だからこそ、彼女のガイドは歌あり、クイズあり、笑いあり。飽きさせない工夫が満載だ。
臨機応変さが必要ですね、と聞くと、大きく頷き、「バスガイドは、役者です!」。
「何があっても常に笑顔。バスという箱が舞台なら、私たちは女優。お客様に感動して帰っていただいたら、自分に主演女優賞をあげたいです(笑)」。
そう聞いて納得。私が先の挨拶に引き込まれたのは、見事なモノローグ(語り)だったからだ。
映画「男はつらいよ」の寅さんのように、魅力的な語りは、聞き手の心を解きほぐす。もっと深く刺されば、心を動かすこともできるだろう。

主婦バスガイドからのメッセージ

「主婦バスガイド」と名乗る通り、一年の半分(5~10月)は契約バスガイド、残りの半分は専業主婦として暮らす「花子」さん。一人息子の母でもある。
「北海道の自然や食べ物に感動するのは、当たり前。母親の立場から、とくに修学旅行生には“心に響くもの”を持ち帰ってほしいと思っています」。
とはいえ、相手は高校生。楽しませながら、いかにサラッと伝えるかが、彼女の腕の見せどころだ。

「たとえば富良野へ行くと、市内にあるアンパンマンショップを紹介します。そうして、『「手のひらを太陽に」という歌は、やなせたかしさんが作詞したことを、知っていますか?』と続けるんです」。
前向きな歌詞だが、実は、やなせさんが人生で辛い時期に作ったことを知る人は少ない。
「暗い部屋で、懐中電灯で手をかざしたら血の色が透けて見えた。自分の命を実感すると同時に、戦争で亡くなってしまった弟を思ったそうです」。

「アンパンマンって、富良野に住んでいるんだよ」。えっ! 単調な風景が、特別な景色に変わる。(2008/7/30付けブログ「旭川→富良野へ」より転載)

しんみりしたところで、タータッタッタ♪ と前奏を口ずさめば、明るい合唱の始まりだ。
いま伝わらなくてもいい。いつか、こんなひとときが励みになれば。
そう願う「花子」さん。ときに、こう語りかけてお別れするという。
「北海道の風景は、20年、30年経っても変わらない。もし行き詰ったら、もう一度いらっしゃい。この大自然が、大きく手をひらいていつでも歓迎しているよ」。

ライフワークは「アイヌ民族」。私なりのユカ

立場を変え、自分が旅する際のポイントを聞いてみた。
惹かれるのは、文学や炭鉱、北海道遺産など、北海道の歴史や風土と深く関わるもの。とくに、ライフワークとしているテーマは、「アイヌ民族」である。

花子さんも参加した平取町のモニターツアー。二風谷工芸館での木彫体験では、アイヌ文様の特徴的なウロコ彫りにも挑戦した

「花子」さんは、アイヌ文化研究者の故・萱野茂さんから直接聞いた話が忘れられないという。「萱野さんが幼かったころ、沙流川でサケを捕った父親が、密漁だとして逮捕されたそうです。またそのころ、テレビで国後島の女の子が『アイヌの人たちになら島を返してもいい』と答えていたのを聞き、衝撃を受けました。北海道の歴史を正しく理解し伝えていくのが、この地でバスガイドとして生きる私の責任です」。
休日には、平取町や白老町を何度も訪ねている。現地の人と交流し、知れば知るほど胸にある思いが膨らんだ。「英雄の物語や自然界で生き抜く知恵を口承によって子孫に継いできたように、私もアイヌ民族の精神文化や各地にまつわる伝説や物語などを、マイクを通して口から口へと語り継いできたい」

花子プロデュース! こんなバスツアーに乗ってみたい

ところで、バス旅について伺ううち、「花子さんなら、どんなツアーを企画しますか?」という話題に。そこで挙がったいくつかのアイデアを最後にご紹介したい。
ザ・「花子」さんプロデュースのバスツアー。編集長、カイで実現しませんか?

① 北海道近代150年! 松浦武四郎の足跡をたどれ
2018年の「北海道命名150年」にちなみ、北海道の名付け親・松浦武四郎の歩みをたどる。「松浦武四郎は6回蝦夷地の調査をしていますが、音威子府村の北海道命名之地や、道中の安全を祈った八雲町の稲荷神社など、意外と関連スポットが多く残されています」

② 石川啄木×北海道探訪ツアー
明治の歌人・石川啄木が放浪した道内の土地(函館・小樽・札幌・釧路)を訪ねる。「各地に歌碑もあり、今なお人を魅了する天才歌人の足跡です。きっと参加したい方がいるはず」

③バスでめぐるローカル線の旅
赤字ローカルで存続が危ぶまれている鉄道の沿線をバスで走る。「移動中、名物の駅弁やおやつを買って車内で食べたり、秘境駅を探訪したり。もちろん、一部列車に乗り換えてもOKです!」

音威子府村にある「北海道命名之地」。「バスは、列車が通っていない土地や細かい路地まで行けるのが強みです」。(2014/9/16付けブログ「黒いそばに武四郎に…」より転載)

ちなみに、「なぜバスガイドに?」と伺ったところ、「実は保育士が夢でした」と言われてびっくり。大学進学より、社会に出て働く方を選び、たまたまガイドの道へ。その後、働きながら保育士の資格を取得するも、結婚や出産、育児…と人生が進む中で、気づけばバスガイド歴が長くなったそう。
それでも、バスを巡るたくさんのストーリーを聞き、私は思う。彼女にとって、バスガイドは〝天職〟ではないか、と。
取材で目の当たりにした名ガイドぶりを、ぜひいつか、バスの車内で楽しみたい。

ブログ「主婦バスガイド花子でございます」では、旅先の出来事や日々の思いを、写真とともに綴っている。
(この写真はブログ未掲載のもの。美瑛にて撮影)

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