「記憶のバトン」をつなげるために

平成19年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」が、同26年に「富岡製糸場と絹産業遺産群」、翌27年には「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」が世界遺産のリストに記載され、「産業遺産」への関心が高まりました。文化庁が認定する日本遺産にも多くの産業遺産が含まれています。北海道の日本遺産第1号となった「江差の五月は江戸にもないーニシンの繁栄が息づく町―」は江戸期から続いた当時の一大産業・ニシン漁がテーマです。そして今年、空知地方と室蘭市・小樽市にある構成文化財をベースにした「本邦国策を北海道に観よ!―北の産業革命「炭鉄港」―」が日本遺産となりました。
しかし、こうした公的な遺産という冠を得たものだけではなく、どのまちにも産業遺産はあるはずです。人が暮らすためには何らかの産業が不可欠だからです。農業・漁業・鉱業はもちろん、工業や商業、時には多様なサービス業にも目を向けることで、眠っていた土地の記憶を蘇らせることができます。
北海道にはこうした遺構が、まだ目に見える形で多く存在しています。まちの人々が、自分たちが生きるまちの営みを支えた産業の記憶を探し、学ぶ時間にこそ大きな意義があるように感じます。いつかまちを離れる子どもたちに、記憶のバトンをつなげることが、10年後の大きな財産になっていくのではないでしょうか。

伊田行孝─text
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