大人の社会見学② 足元に広がる秘密を探りに。―札幌市下水道科学館

札幌市北区・麻生にある札幌市下水道科学館。札幌市では、小学4年生を対象に上下水道について学習する機会を設けている(提供:札幌市下水道河川局)

健康で清潔な暮らし、町の発展、地球環境の維持に貢献する仕組みが、私たちの足元に広がっていることをご存知だろうか。今回は“インフラ”をテーマにした、ちょっと不思議なミュージアム第2弾。私たちの暮らしに欠かせない“下水道”のミュージアムを紹介する。
長谷川みちる-text 伊藤留美子-photo

ワクワクする仕掛けが満載

Q1:下水道に流していけないものとは?
Q2:札幌市で1日に処理される汚水の量は、25mプール何杯分か。
Q3:下水処理で発生した汚泥は、最終的に何に生まれ変わるか。

水道記念館のクイズに引き続き、ドキッとしたのは私だけではないはず。今回ご紹介する「札幌市下水道科学館」に足を運んで、ぜひその答えを見つけてほしい。

地下に潜って、その全容が見えにくい下水道。毎日お世話になっているにもかかわらず、どうしても関心を持ちにくい存在かもしれない。だがしかし、下水道がなければ私たちは生涯80歳時代を迎えられなかったかもしれないし、町が発展することもなかったかもしれない。同科学館はそんな人間活動に欠かせない下水道について学べる、ユニークなミュージアムだ。

子どもたちで賑わう「豊平川ネイチャースコープ」のフロア

展示のコンセプトは“おしごとマスター”。下水道を取り巻く仕事を通じ、その仕組みや役割について知ることができる設計になっている。対戦型・協力型ゲームやARの技術などが取り入れられていて、子どもも大人もワイワイ楽しむ姿が印象的だ。

具体的には11のコーナーに分けられ、下水道広報・運転管理・設備点検・水質管理・汚泥処理・下水道管点検・遠隔操作・下水道管清掃・下水道管改築・下水道計画・雨水貯留管の仕事(おしごとマスター)が紹介されている。早速、館内をのぞいてみよう。

タッチパネルのゲームで、水再生プラザ内にある機械の運転操作を疑似体験

運転管理・設備点検・水質管理は、水再生プラザ(下水処理場)内で行われている仕事だ。水再生プラザは札幌市内に10カ所あるが、家庭から排出される下水を綺麗にする工程を管理したり、機械が365日24時間ストップしないための点検業務、下水が適切な水質に処理されたかを検査する役割などを担っている(同科学館には創成川水再生プラザが隣接。札幌市内10カ所の水再生プラザでは1日に約100万m3の下水を処理している)。

汚泥処理の仕事を紹介するコーナー

汚泥処理は「スラッジセンター」と呼ばれる汚泥処理施設の仕事である。同施設は豊平川を中心に西部と東部の2カ所に設置されており、各水再生プラザで発生した汚泥から水分を取り除き、焼却して灰にする工程を知ることができる。

実物大の下水道管。子どもの気持ちに戻って遊びたくなる

下水道管点検・遠隔操作・下水道管清掃・下水道管改築は、排水を水再生プラザまで運ぶ下水道管にまつわる仕事。老朽化した下水道管の入れ替えや補強、耐震化の工事のほか、下水道管内に溜まった土砂や木の根、流れ込んだ油などを掃除して、下水道を詰まらせない処置を行うなど多岐にわたる業務を担っている。

下水道内のゴミを取り除くゲームに、子どもも大人も熱狂

また、汚れた水と雨水がまざって川に流れるのを防ぐために、「汚れた水を一時的に貯め、雨が止んだ後に綺麗にしてから川に流す」という仕組みがある。この役割を果たすのが、雨水貯留管(同科学館の地下4階でも見学可能)。この貯留管をメンテナンスする仕事もある。

札幌市と下水道の関係を一望できる模型

そして、社会や環境の変化に合わせ、効率的な事業を進めるための計画づくりや下水道事業を広く知らせる役割。それが下水道計画・下水道広報の仕事となる。私たちの暮らしが、いかに多くの人たちによって支えられているかが実感できるだろう。

下水道は、密かに私たちの暮らしを守っている

札幌市下水道科学館は平成9(1997)年にオープン。平成30(2018)年に展示内容を新たに、リニューアルオープンした。年間約6万人が来館し、令和3(2021)年には延べ人数100万人を突破。9月10日の「下水道の日」を中心に毎月多彩なイベントを実施し、YouTubeで下水処理の仕組みなどを広く紹介している。

出迎えてくれたのは札幌市下水道河川局の金子寛次さん、一般財団法人札幌市下水道資源公社の中宮亜衣さん。下水道に関わる実務のほか、札幌市の下水道事業について広く伝えている二人だ。

金子さん(左)と中宮さん

「下水道は、普段の生活の中ではなかなか意識しにくいインフラですよね。でも、もし下水道がなかったら。機能が正常に働かなかったとしたら。私たちが快適かつ健康的に暮らすことは難しいでしょう」と金子さんは説明する。

例えば、感染症の蔓延防止。川の生物をはじめとする環境維持。豪雨による災害を防ぐ手だてとしても下水道の役割は大きいという。実際のところ、かつて豊平川は汚濁が進行したことにより魚も住めない状態になったことがあるが、下水道の整備とともに水質改善が進んだことで、昭和54(1979)年に25年ぶりにサケが戻ってきたそうだ。

近年では大雨で川が氾濫し、市内が水浸しになるような被害を感じることはほぼなくなってきていると思うが、それも下水道施設の拡充(増強)によって成し得ている成果である。

科学館の前を流れる創成川

もう一つ、特に北海道・札幌市の下水道には意外と知られていない役割があるという。それは、雪対策だそう。浸水対策や水質保全のために作られた雨水貯留管などは融雪施設としても活用され、下水を綺麗にした処理水で雪を融かしている。ほかにも下水管投雪施設(下水道管に雪を投入し、未処理下水の持つ熱エネルギーを活用して融雪)、流雪溝(幹線道路沿いに設置された側溝に処理水を流して融雪)、地域密着型雪処理施設(公園などに雪をいったん堆積し、近接した下水道管に雪を投入して融雪)など、さまざまな形で下水機能を活用し、私たちの冬の暮らしを守っているというわけだ。

「都心部は広いスペースがなく、雪の堆積場は郊外に多く設けられています。大量の雪を全て遠くの堆積場に運ぶには、時間も労力も膨大にかかりますよね。そこで各地域から排出される下水の熱エネルギーを有効活用し、融雪をサポートしています。ダンプで運ぶ回数を少しでも減らすことができれば、排気ガスやエネルギー面でも環境に役立つ取り組みです」と金子さん。

金子さんのイチオシは、遠隔操作マスターの展示。子どもたちからの人気も厚い

同科学館で長い間下水道の仕組みについて紹介してきた中宮さんは、最後にこう語ってくれた。

「科学館での体験やイベントを通して、何か一つでも思い出を作ってほしいですね。そして、大人になっても下水道を大切に使ってもらえたら…。私は下水道の仕組み等を紹介するYouTube制作も担当しているのですが、あらためて地下にこんな仕組みが眠っているんだ!と驚きました。私たちの気づかないところで日夜、汗をかいている人たちがいること、下水道が果たしている役割について知ってもらえたら嬉しいです」

2023年8月には、国内最大の下水道技術の展示会「下水道展」が札幌で初めて開催される(会場は札幌ドーム)。下水道科学館とともに、ぜひ足を運んでみてほしい。

YouTubeリンク&8月開催の札幌ドームイベントのご案内
https://www.youtube.com/@sapporo_sewerage
https://www.city.sapporo.jp/gesui/gesuidouten23.html
https://www.gesuidouten.jp/

※クリックして拡大の上ご覧ください

札幌市下水道科学館
北海道札幌市北区麻生町8丁目
TEL:011-717-0046
営業時間 9:30~17:00(入館は16:30まで)
開館期間 6~8月は休館日なし、月曜日(月曜日が祝日の場合は翌日が休館日)、年末年始
入場料無料
WEBサイト 
(現在は新型コロナ感染拡大防止の観点から、一部の展示スペース、下水処理場の見学を休止)

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