北海道は日本最大のソバ生産地。中でも名産地といえば、幌加内町や新得町を思い浮かべるのが一般的だ。平取町で一軒だけ「地元産のそばを出す店がある」と聞き、食べてみることにした。荷菜地区の高台にある蕎麦好房「みつづか」は、民家の居間のような家庭的な風情があり、沙流川流域の田園風景が見渡せる。おすすめは旬を楽しめる「野菜天ざるそば」。手打ちの二八そばで、カラッと揚がった天ぷらの衣は薄く、その辺の野山で採れた山菜や自家菜園・地元の農家で育った野菜のうまみが、この店の看板だ。
3月にはフキノトウが春を告げ、5月になれば、ウドやコゴミ、グリーンアスパラやホワイトアスパラ、運がよければニセアカシアの花やハマボウフウも皿に並ぶ。7月に喜ばれるのは、ズッキーニの花。オクラ、スナップエンドウ、ニンジン、カボチャ、ゴボウなど、おなじみの野菜もひと味違う。「トマトは、畑で完熟したモノを出します。熟さず流通したものが、平取産の味だと思われるのがほんとうに悔しい。天ぷらにはしませんが、旬は6~9月。札幌で食べるのと比べ物にならないくらいおいしいですよ」と、店主の三塚みよこさん。
ご主人の清司さんは、平取町をソバの産地にしたいと「びらとりそば同好会」の仲間と一緒に、栽培から製粉、そば打ちまで手掛けるほど熱心に活動していた。念願の店をオープンしたのは2007年9月。6年前に清司さんが他界され、遺志を継いで、みよこさんがそばを打つようになった。「毎朝35食分。混んできたら、追加で打ちます。大変だけど、シケレペ農場の貝澤耕一さんには、無理を言ってソバを栽培してもらっているので、無駄にしたくない。ときどき、お父さんの写真に、これでいいかい?と話しかけたりしてね(笑)」
●蕎麦好房「みつづか」
ざるそば、かけそば 550円 きのこそば 650円 野菜天ぷら・ざるそば 800円
営業時間/11:00-14:00(夏期) 11:00-13:30(冬期)
定休日/毎週火曜日
北海道沙流郡平取町荷菜18-4 TEL:01457-2-2655
「うちのソバ畑は雑草だらけだから、ちょっと見せられないなぁ。でも、除草剤のような農薬を使っていないから、安心して食べられるよ」と笑いながら話してくれたシケレペ農場の若き後継者、貝澤太一さん。“シケレペ”とは、アイヌ語でキハダの実のこと。アイヌはこの実を乾燥させて、風邪や胃腸薬として、ピリッと刺激のある香辛料として使ってきた。農場には、二風谷でもキハダが多く自生していたといわれる小川が流れる。
ソバを栽培し始めたのは20年ほど前。かつて直売していたトウモロコシ、ジャガイモ、カボチャの転作としてソバを選択した。昨年は収穫前の悪天候により脱粒し、収量もかなり少なかった。平取産のソバを使えるのが「みつづか」一軒なのも、しかたがない。
シケレペ農場が最も力を入れているのは米作り。「沙流川流域には、稲作農家が結構いるけれど、上流や中流地域と下流地域では、地質の関係で微妙に味が違うと僕は感じてる。将来的には同じ北海道米でもシケレペ産の米がうまいと消費者に選んでもらえるようにしたい」と太一さん。
そしてイナキビやソバなどの雑穀栽培にもこだわりたいと思っている。沙流川流域のアイヌは古くからアワ、ヒエ、イナキビなどを栽培していたと考えられているからだ。縄文時代の遺物として「イナキビ団子」が発掘されており、その流れを考えるとアイヌ文化を語れる作物になる。自分で育てたイナキビで、オリジナルスイーツを作るのが夢だ。
●シケレペ農場
北海道沙流郡平取町二風谷20-3
狩猟民族といわれるアイヌだが、沙流川流域の発掘調査により、1667年以前からクワを用いた露地栽培を行っていたことがわかっている。その農耕文化の一つに、川洲畑を使った栽培方法がある。洪水の後、泥や砂がたまった肥沃な地を利用して、アワ、ヒエ、イナキビなどの雑穀をまいた。クイタクペ(境界棒)をさせば自分の畑になったという。
川洲畑をアイヌ語に置き換えると「ピクタ(川原の砂)トイ(畑)」。現在、額平川の河川敷に川洲畑をつくり、試験的に雑穀などが栽培され、この農法の継承が検討されている。