まちの人に聞いて見た「あの風景、この味、お気に入り」。

百名山の最難関「幌尻岳」

熊谷厚子さん

平取町の豊糠地区で生まれ育った熊谷さんは、長じてシカゴやシンガポール、ハワイなどで四半世紀を過ごした。やはり海外経験が豊富なご主人とともに平取町に戻り、現在は生家があった場所の近くで「くまさん荘」を営んでいる。故郷に戻ったのは親の介護がきっかけ。ハワイで日本人の車椅子利用者向けに観光案内をしていた経験から、もともとあった宿泊施設をバリアフリーに改修し、「くまさん荘」を始めたのだという。語学が堪能なこともあり、宿泊客には外国人も多い。

そんな熊谷さんのおすすめが、平取町と新冠町にまたがる2052mの幌尻岳。北海道の背骨にも例えられる日高山脈の主峰で、日本百名山の一つに数えられている。ポロシリはアイヌ語で「大きな山」の意味。
「気候条件や渡渉箇所の多さもあって、百名山の中でも最難関と呼ばれている山です。そのため若いころから百名山制覇を目指して、幌尻岳が最後の一つというベテランの登山客にもたくさんお泊まりいただいています。人生にとって大切な、情熱を燃やしたことの最後のステージがここにある。その方にとっての聖地でもあるわけです。そう考えると、なんて気高い山なのかと感じるのです。私も何度か登っていますが、下から眺めても、その威容を感じることができます」

もう一つ、熊谷さんの超個人的なおすすめが叫びの崖。何のことかと聞けば、「くまさん荘」の近くにある沢の斜面のことで、イヤなことがあったり、ストレスが溜まると、ここに来るのだそうだ。
「誰にも聞かれる心配がないから、思いっきり叫ぶわけ。バカヤロー!でも、コンチクショー!でも、なんでもいいから体の底から声を出す。すると、あら不思議、すっきりしちゃうのよね」

そうして日々の活力を得ながら、熊谷さんは町内の高齢者たちと一緒にデジタルの講習会を開催して、タブレット端末を活用したコミュニケーション手段を構築するなど精力的な活動を続けている。そして、登山やアイヌ文化を知るために平取へ足を運ぶ外国人のために「英語版 平取マップ」も今年10月ごろには完成の予定だという。

日高山脈の主峰としてまちを見守るように聳える幌尻岳