歩いてみたら、出会えた、見つけた。

遊んでみた

道南の秘湯! 銀婚湯で温泉ざんまい

野趣あふれる熊の湯、鉛川上流の八雲温泉、
明治初期からの湯治場見市(けんいち)温泉など、秘湯に恵まれている八雲。
中でも日本旅館の格式と自然の開放感を満喫できる上の湯温泉「銀婚湯」で、
2日間の温泉ざんまいを決行した。
矢島あづさ-text 露口啓二-photo

丸太風呂が人気の「トチニの湯」

森の精霊を感じる野天風呂

温泉好きの誰に聞いても「あそこは、いいよ。別格」と評判がよい。温泉繁華街もなく、どこにでもあるような山間なのに、全国からのリピーター客も多い。その人気の秘密はどこにあるのか。銀婚湯の門の前に立ち、降りそそぐ木漏れ日と苔むす石畳を目にした瞬間、浮世の垢がひとつ落ちた気がした。

石畳から池をのぞくと、いまにもジブリのコダマ(木霊)が出てきそうだった

石畳から池をのぞくと、いまにもジブリのコダマ(木霊)が出てきそうだった

宿泊客だけが入浴できる貸し切りの野天風呂が5つあり、1日で制覇するのは難しいと聞いていたので、到着早々浴衣に着替え、いちばん人気の「トチニの湯」の入湯札をもらいにフロントへと急いだ。ところが「ごめんなさい。今日はアブの発生がひどいので、トチニは入浴禁止です」とのこと。ひとまずミズナラの木立にある「どんぐりの湯」の入湯札を受け取り、マップ片手に2万坪はある自然庭園を散策することにした。

トム・ソーヤーのツリーハウスみたいな「かつらの湯」

トム・ソーヤーのツリーハウスみたいな「かつらの湯」〈宿から徒歩3分〉

吊り橋が怖い! 虫が嫌い! な人も安心な「杉の湯」

吊り橋が怖い! 虫が嫌い! な人も安心な「杉の湯」〈宿から徒歩5分〉

カツラ並木を歩きながら、森林を浴びる(撮影:矢島あづさ)

カツラ並木を歩きながら、森林を浴びる(撮影:矢島あづさ)

スリル満点の吊り橋。この先に3つの野天風呂がある

スリル満点の吊り橋。この先に3つの野天風呂がある

翌朝「トチニの湯」をめざして(撮影:矢島あづさ)

翌朝「トチニの湯」をめざして(撮影:矢島あづさ)

森の中の遊歩道を歩くだけで、どれほど癒されたことか。翌朝、「かつらの湯」から見上げた空に心洗われ、「杉の湯」でまったりくつろぎ、再度「トチニの湯」に挑戦した。昨日に比べてアブは少ない。夏場、この源泉を好んで集まるアブも、お盆過ぎには姿を消すという。丸太風呂のピリッと刺激のある湯がたまらない。最後は「もみじの湯」を見守る銘木に手を合わせ、紅葉を待ち遠しく思う。通常なら、湯あたりするほど入浴したが、不思議とまったく疲れない。これほど森の精霊を感じる温泉は初めてだ。

川のせせらぎと森の香りが心地よい「トチニの湯」(提供:銀婚湯)

川のせせらぎと森の香りが心地よい「トチニの湯」〈宿から徒歩10分〉(提供:銀婚湯)

銀の心だからくつろげる

上の湯温泉は、もともと落部(おとしべ)川中流の中州に湧き出し、古くは先住民族のアイヌが汗を流していたという。幕末の探検家・松浦武四郎も「蝦夷日誌」に紹介し、戊辰戦争の折には幕軍の負傷者が湯治した。1925(大正14)年、その効能を聞きつけた川口福太郎が開掘し、豊富な源泉を掘り当てたのが5月10日。偶然にも大正天皇の銀婚の日だったことから「銀婚湯」と名付け、1927(昭和2)年に温泉宿を開業した。

創業当初の銀婚湯。現在の旅館前が温泉の湧き出す中州だった(提供:銀婚湯)

創業当初の銀婚湯。現在の旅館前が温泉の湧き出す中州だった(提供:銀婚湯)

25年ほど前までは、混浴の内湯があるだけの宿だった。川向こうの農家が離農すると聞けば土地を手に入れ、環境破壊を防いだ。現在は敷地内に湧き出す5つの源泉を単独もしくは混合して内湯、露天、野天風呂を守り続けている。温泉成分を劣化させる循環やろ過、塩素殺菌や水道水の混入は一切していない。

「トチニの湯」の源泉を掘ったのは20年前。湯量が少なく、宿から距離もあるため自家用として使っていたが、ある日、お客さんの喜ぶ姿を見て、遊歩道や個性豊かな野天風呂の整備を進めることにした。「うちが誇れるのは、この自然環境。あのカツラ並木も先代が種から育てたもの。私が小学生の頃、はしごをかついで剪定(せんてい)を手伝ったのを覚えています。金のようなきらびやかさはありませんが、落ち着いた銀の心でおもてなししたい」と、4代目の川口洋平さん。地味でも時間をかけたところに価値は生まれるのだ。

大浴場から続く露天風呂(女湯)。野天めぐりができなくても、内湯の泉質のよさに十分満足できる。湯上り後はしばらく発汗するほど温もり、肌はしっとり(撮影:矢島あづさ)

大浴場から続く露天風呂(女湯)。野天めぐりができなくても、内湯の泉質のよさに十分満足できる。湯上り後はしばらく発汗するほど温もり、肌はしっとり(撮影:矢島あづさ)

海の幸山の幸、卵一つにこだわる

食事は1階の食事処に用意されるが、個室なので部屋食と同じように家族団らんを楽しめる。ほっとするような山菜の煮びたしや胡麻和え。桜ガレイのカルパッチョ、大ぶりのツブ、ボタンエビの濃厚な甘さは、噴火湾ならではの絶品だ。天ぷらも地元野菜のうまみがほっこり。一品一品にかけられた手が、幸せな気分を高めてくれる。

朝食のこだわりは、みみのりの味噌汁。みみのりは銀杏草の別名で、地元の浜で潮が引くのを待ち、自分たちで採取したものだという。黄身の色がレモン色の温泉卵もおいしく、近所の松永農場の「遊楽卵」が使われている。気になるので立ち寄ってみると、無人販売所に産みたての卵が並んでいた。添えられた農場便りによると、ニワトリの餌には黄身の色を濃くする着色剤やパプリカを入れず、道産小麦、自家製の発酵飼料や緑餌などを与えている。しかも、土間での平飼い。時々、屋外の放牧場で自由に遊ばせるそうだ。通常、突っつき合いを防ぐために、ヒナのうちに口ばしの先端を切るが、松永農場では生まれたまま。ミミズを捕ったり、野菜をついばんだりできないニワトリにしたくないからだ。このこだわり、どこか銀婚湯に似ている。やはり、また訪れたくなる。ここは別天地だ。

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●温泉旅館 銀婚湯

【泉質】
内風呂・家族風呂
源泉4本混合 湧水約10%加水、ナトリウム-塩化物(弱アルカリ性低張性高温泉)
露天風呂・かつらの湯・もみじの湯・どんぐりの湯・杉の湯
源泉2本混合 源泉100%、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(中性低張性高温泉)
※もみじの湯・杉の湯は季節限定
トチニの湯
源泉100%、ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(中性低張性高温泉)

【効能】
神経痛、筋肉痛、関節痛、五十肩、運動麻痺、関節のこわばり、うちみ、くじき、痔疾、慢性消化器病、慢性皮膚病、病後回復期、疲労回復、健康増進、虚弱児童、慢性婦人病、冷え性、きりきず、やけど

営業時間/日帰り入浴12:00~16:00(月曜日定休)
宿泊チェックイン13:00 チェックアウト11:00
客室/全和室22室(うち16室トイレ・洗面台付き)
料金/日帰り入浴 大人700円、子ども350円
1泊2食付き10000円~
北海道二海郡八雲町上の湯199
TEL:0137-67-3111 FAX:0137-67-3355
WEBサイト

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