歩いてみたら、出会えた、見つけた。

まち歩き

その語りべに会うと、風景が一変する

知らなければ通り過ぎてしまう。そこは、かつてアイヌコタンと和人住宅地の間にできた路地、徳川農場があった跡地、ホッチャレを狙いオオワシやオジロワシが飛来する河口。地元の語りべたちは日常風景を歴史や自然界の入り口にしてしまう。
矢島あづさ-text 露口啓二-photo

この道の先にはかつて徳川農場の事務所があった

移住を決意したトコタンの丘

穏やかな海、豊かな山林、広大な平野、サケが遡上する川。「ここからの眺めを見て、尾張徳川家旧家臣の調査団は、ユーラップ(現・八雲町)への移住を決意した」。まちあるきガイド八雲語りべの会の幸村恒夫(こうむら・つねお)さんが最初に案内してくれたのは、トコタンの丘。市街地まで見渡せ、徳川農場の広大さを実感できる。丘の上の大新墓地には、この地を開拓した先祖らが眠る。最期は故郷に思いを馳せたのだろう。墓石が尾張の方角に向いているのが、なんとも切ない。

八雲の歴史を語らせたら、幸村さんの右に出る者はいない

八雲の歴史を語らせたら、幸村さんの右に出る者はいない

「開拓費用を負担するので、500町歩の土地を無償で払い下げてほしい」と徳川家は開拓使に条件を出す。徳川の集団移住が、民間資本による組織的北海道開拓の先駆けとなり、その後、毛利家(余市郡)、前田家(岩内郡)、鍋島家(石狩郡)など、士族移住の手本となった。

河口付近にはアイヌコタンがあった

サケが遡上するユーラップ川の河口は、1878(明治11)年から開拓移住者の上陸地となった。「この辺りは、35戸ほどのアイヌコタンでした。13戸ほど和人も住んでいて、旅籠、渡し守、アイヌを雇っての漁業などで生活していた。その渡し場からまっすぐ延びたのが、この浜通り。旧士族らが上陸した翌年、交差するように官費道路ができ、当時は農場方面へ、いまは役場に突き当たる。しかも、ここはアイヌコタンと和人住宅地の間にできた路地だった」。その一言で、目に映る風景が一変。幕末から旅館業を営んでいた和人、竹内の姓を継ぐ家が角地に遺っていることにも驚いた。

渡し場から荷を運ぶうちにできた浜通りとアイヌコタンがあった地域の十字路から竹内家を眺める

渡し場から荷を運ぶうちにできた浜通りとアイヌコタンがあった地域の十字路から竹内家を眺める

徳川農場の跡地で感じる気配

かつて徳川農場の事務所があった跡地には、言葉で表すことのできない幻想的な気配が立ち込めていた。樹木が生い茂り、息をこらすように池が眠っている。アイヌにとって貴重なオオウバユリが群生しているのは、地力が豊かな証拠だ。スギの木肌も彫刻のように彫りが深い。「この辺りには開拓期の植生がそのまま残っている。隣に迎賓館があり、池にはボートが浮かんでいた」という。幸村さんが「これは木彫り熊のモデルとして飼われていた熊の檻跡」とコンクリートの遺物を指した。木彫り熊資料館で知った史実がリアルに目の前で再現されていくかのようだ。

農場事務所跡地にある池

農場事務所跡地にある池

まるでトーチカのような「熊の檻跡」

まるでトーチカのような「熊の檻跡」

1943(昭和18)年、陸軍飛行場建設のため現在地に移転した八雲神社

1943(昭和18)年、陸軍飛行場建設のため現在地に移転した八雲神社

オオワシやオジロワシも目撃できる

野生のオオワシやオジロワシは、道北やオホーツク、知床でしか見られないと思っていた。地元で野鳥を撮り続けている語りべの会のメンバー、田澤和夫さんによると、9月上~中旬、ユーラップ川にサケが遡上し始め、12月あたりから“ホッチャレ”と呼ばれる産卵後のサケを狙って、オオワシやオジロワシが飛来する。「よく見られるのは、ユーラップ川河口、その上流の国道277号と道道42号が交差するあたり、セイヨウベツふ化場がある鮭誕橋(けいたんばし)」と惜しげもなくポイントを教えてくれた。野鳥めあての旅人を見かけると「100m先の方が見やすいよ」などと声を掛けるそうだ。

フォトギャラリー【野鳥の楽園ユーラップ川】 撮影:田澤和夫さん
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ハクチョウ 秋、北から冬の使者として舞い降り、春まで過ごす
オオワシ 羽を広げると2m50cmにも。黒茶色で翼の前と尾が白、くちばしは橙黄色
オジロワシ 全身が茶色で、尾だけ白い。オオワシがサケを食べ終わるのを待つ
ヤマセミ 初冬によく見かけ、春先もサケの稚魚を狙う姿が見られる
カワセミ “青い宝石”と呼ばれるカワセミは、春から夏にかけて
アオサギ 日本で繁殖する最大のサギで、よく見かける
オシドリ 美しい色彩の羽毛はユーラップ川でもひと際目を引く
ミサゴ 夏、河口付近の海岸で狩をする姿が美しい。“魚鷹(うおたか)”の異名を持つ

国の天然記念物「クマゲラ」

アイヌは「チタ・チカッ(舟を彫る鳥)」と呼び、熊の居場所を教えてくれる神として崇めた(2012.3.21)

その道の達人が案内する!
●まちあるきガイド八雲語りべの会

現在ボランティアガイドが5人。八雲の歴史をはじめ、街なかの木彫り熊めぐり、オオワシ・オジロワシ観察、樹と花めぐり、グルメ&おみやげスポットなど、希望者の要望や予定時間に合わせて、まち歩きコースをプランし、ガイドしている。1グループ10人くらいまで、要予約。相談は下記まで。
TEL:0137-65-6100(八雲町情報交流物産館「丘の駅」内)

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