マラニックは、そもそも長距離を走り続けるトレーニング方法の一つ。翌日に疲労を残さない程度に気持ちよく走り、リフレッシュするために始められた。立ち止まって景観を楽しみ、仲間とおしゃべりすることも許される。日本のストイックな練習法しか知らなかった元日本陸連終身コーチの高橋進さんが、発祥地のニュージーランドを視察して驚いた。オリンピック選手も、この方法で成果を上げている。そのことを著書『マラソン』の中で紹介し、日本に広まった。
エントリーしたのは約9.5kmの「ちょこっと丘陵コース」。普段、運動らしきことをしていないので不安だったが、小学生以下の参加者もいると聞いて申し込んだ。どこでも折り返し可能な約5.5kmの「ユニバーサル丘陵コース」もあれば、約16kmの「がっつり丘陵コース」でアスリート並みに走ることもできる。まずは、みんなで準備運動をし、「がっつり」のアスリートの部からスタートを切った。「ちょこっと」の周りを見回してみると、女性や家族連れが多いように思う。ベビーカーを押しながら歩くパパ、健脚を誇るようにダッシュしたのは最高齢88歳の方だろうか。
歩いていてうれしいのは、1kmごとに「〇km地点・ゴールまであと〇km」などの看板があることだ。その数字を体で表現しながら記念撮影を楽しむ人もいた。「あそこのTシャツは…」とか「斎藤さんのモノマネでさぁ…」など、ファッションやテレビの話をしながら歩く人。道端の野花を摘んでママにプレゼントする女の子。あ、今日は母の日だった。そう、スポーツとはまったく次元の違う「ゆる~い感じ」がマラニックの魅力らしい。
2kmほど歩けば、最初の菜の花畑で歓声が上がるはずだった。「今日は2分咲きくらい」と聞いていたけれど、残念。ほとんど緑の畑で、風に種が飛ばされて土手にまばらに咲く菜の花くらいしか見ることはできなかった。その先に最初の休憩ブースがあり、給水できる。シルバーボランティアの方が「どっから来たの~?」と声を掛けながら、地元産のハチミツを配っていた。「へぇ、滝川に養蜂場があるなんて知らなかった」と言葉を返すだけでも、交流が生まれる。実は、コースによって2~6カ所設置されている休憩ブースで配られる「おみやげ」が、参加者の楽しみのひとつなのだ。
ゴールまであと2kmほど。上り坂の林道が続き、なかなか思うように足が運ばない。取材で5、6時間歩き回ることもあるので楽勝だと思っていたが、このラストスパートはなかなか手ごわい。明らかに運動不足だ。救護班の自転車が近づいてきて「大丈夫ですか?」と声を掛けてくれた。とっさに「大丈夫ですっ」と答えてしまったが、少し後悔した。はたからパッと見ても、歩き方がへこたれていたのだ。どんな手当をしてくれるのか、身をもって取材すればよかった。
「スポーツと平和を考えるユネスコクラブ」からガイドとして参加した小林均(ひとし)さんは「全国には60kmの本格的なマラニックもある。長距離になれば、今回のようなスタッフのサポートも難しくなるし、上級者しか参加できなくなる」という。そう言われてみれば、初参加でもコースを外れないようにスタッフが誘導してくれるし、自転車でこまめに救護班が伴走してくれて、安心感たっぷりだ。
ゴールまであと1kmは「だまされてる?」と感じるほど長かった。横を歩いていた小学生が「ゴールまで…歩けば…ジンギスカン…」と呪文のように唱えていた。その健気な声に励まされながら、12:38にゴールすることができた。