第2農場の歴史を歩く(3)

ガイドツアーから見える風景

畜舎の壁をよく見ると、随所に美しい飾りが施されていることが分かる。明治時代、西洋式の設計図をもとに作業にあたった日本の職人たちの技が光る

第2農場の屋内一般公開は例年11月3日で一旦終了し、来春までしばしの冬眠に入る。その少し前に、北海道大学総合博物館が「第2農場ガイドツアー」を実施している。ふだんから場内の案内や清掃活動を行っているボランティアのかたと一緒に、秋晴れのなか今年最後の散歩に出かけた。
石田美恵-text 伊田行孝-photo

ツアー出発!

2017年10月28日、快晴。
1回目のツアー開始は午前10時となっていたが、先着30名定員ということもあり、早くから参加者が集まっていた。一人で来る人がほとんどで、年恰好はバラバラだけれど皆一様にニコニコしている。懐かしの社会科見学に出かけるような気分である。定刻になり、3班に分かれてツアーが始まった。

案内してくれたのは、昨年秋から第2農場ボランティアに参加している稲場良雄さん。この活動を始めたのは、第2農場の隣にある「遠友学舎」の市民講座(※)に通っていて、ずっと「何かお返しができたら」と思ったのがきっかけだった。現在ボランティアメンバーは8名で、農場の清掃や展示改善作業、見学者の無料ガイドの活動している。農場を訪れるたくさんの人に、この場所の歴史や意味を伝えていくことが大きな使命だ。
「最初は建物のクモの巣払いとか、落ち葉の掃除などのつもりで参加したんです。でも、入ってすぐガイドツアーを担当することになり、慌てて図書館に行って勉強しました。テストの一夜漬けみたいですよね」と笑う稲場さん。

ガイドツアーでゆっくり歩いていると、先日の近藤誠司先生の話とは少し違った風景が見えてくる。たとえば、コーンバーンの2階には古い水稲播種器(直播きの稲を植える機械)が展示されているのだが、旭川近郊の稲作農家に生まれた稲場さんは、実際にこの道具を使ったことがあるという。
「こっちの大きいのが大人用、小さいのが女性や子ども用で、私も小学生のころに使いました。昭和20年代の農村では子どもも重要な労働力で、春秋の農繁期は1週間ほど農業休暇のある学校が多かったんです。ここに種モミを入れて、ガッチャンと動かします。手播きとは比較にならないほど便利になって…」と説明にも実感がこもる。

説明を聞きながら場内を歩くと1時間半ほどかかるが、
見るものがたくさんあってあっという間だ

北海道各地の水田で大正から昭和にかけて使われた水稲播種器。
通称「タコ足」(写真:石田美恵)

虎の巻スケッチブック

第2農場にはいろいろな人が訪れる。北海道大学の卒業生やゆかりのある人、畜産業に関わる人、建築に関心がある人、博物館や歴史的な場所が好きな人。稲場さんがガイドしたなかには、「月曜日は博物館がどこも休みで、ここだけが開いていたから来ました」という修学旅行生もいた。それぞれに興味をもつ部分が違うので、稲場さんはガイドの際に様々な対応を心掛けるようになった。

以前、畜舎で窓ガラスに見入っている人がいた。窓枠の上部にはめ込んでいるガラスだけ、表面が波打ち気泡が入っている。下のガラスは途中で取り替えたらしく、現代のガラスと同じものだ。上のガラスはおそらく明治時代に作られたガラスで、かなり貴重なものだったと思われる。第2農場には大きな窓のついた明るい建物が多く、当時いかに多くの予算をかけて造られたのかが分かる。
台湾から来た観光客は、場内で紅葉するナナカマドに感嘆の声を上げた。稲場さんはこの木が北海道にたくさん生えていることを説明し、赤く色づいた実を拾ってお土産にあげた。「帰国する前の間だけでも、ホテルの部屋に飾ってくれたらと思って」。
第2農場に全く関心がなかった人たち、特に多くの子どもたちに、この場所で何かを感じ取ってもらいたい。これからの暮らしに何か役立ってくれることを信じて、できるだけ分かりやすく楽しくガイドを続けよう。いつもそう考えている。

彼が1冊のスケッチブックを見せてくれた。
なかには農場の沿革や建物の特徴などがびっしり書き込んである。「エジソンが電球を発明」といった同時代の世界の出来事もあり、これは子どもに説明するとき役立つという。ガイドした人の反応や質問された内容もメモしておき、分からないことは調べて書き足し、次回の参考にする。どんどん増える自作の「虎の巻」だ。
かくして、スケッチブックにはまた新しい項目が追加される。明治時代の窓ガラス事情、北海道の樹木、月曜日も開いている博物館…調べることはまだたくさんある。こんなふうに、優しい歴史の伝道者がいる第2農場を私はもっと好きになっていた。

窓ガラスの説明をしてくださる稲場さん

稲場さんのスケッチブック

秋の深まる第2農場にて

(※) 平成遠友夜学校
北海道大学の学生や教員がボランティアで講師を務める無料の市民講座。火曜日の夜に行われています。
WEBサイト

札幌農学校 第2農場
北海道札幌市北区北18条西8丁目 
TEL:011-706-2658(北海道大学総合博物館)
屋外公開 8:30~17:00(通年)
屋内公開 10:00~16:00(通常4月29日~11月3日)
毎月第4月曜休館
WEBサイト
(「第2農場ガイドツアー」の開催予定は、北海道大学総合博物館のWEBサイトに掲載されます。)

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