ネットとは違うリアルモールの役割とは? 三井アウトレットパーク 札幌北広島が模索した、まちづくりのかたち

ハイラグジュアリーブランドからカジュアルブランドまで約180店舗が軒を並べる巨大なモール

アウトレットモールは一般的に都心部から離れた場所にある。地域コミュニティとは切り離され、テーマパークや観光スポットとして位置づけられていることが多い。その点、地元客を中心ににぎわう三井アウトレットパーク 札幌北広島は少し違う。地域密着型アウトレットモールの秘密を探ってみた。
井上由美-text 黒瀬ミチオ-photo

オープンして11年、地域に定着したアウトレットモール

札幌市と新千歳空港の中間に「三井アウトレットパーク 札幌北広島(MOP札幌北広島)」がオープンしたのは、2010(平成22)年4月。11年前になる。札幌北広島という施設名から分かる通り、所在地は北広島市大曲でも札幌市との境界にほど近い。北広島市の区画整備を機に道央自動車道の北広島ICから約300mという好立地に開発された。
ちょうど中国人観光客の爆買いが目立ち始めたころと時期が重なり、来館者は右肩上がり。観光バスで訪れる外国人はオープン後3年で約3.5倍となり、第2期の開発計画が決定。増床工事を経て、2014年4月には店舗面積約3万m2、約180店舗の巨大モールへとスケールアップした。
三井不動産株式会社の安田有希主事は、この規模拡大についてこう話す。
「2010年時点から地元客に加え新千歳空港利用の観光客を見込んではいましたが、予想以上の中国や台湾などアジア諸国からのインバウンド観光客にお越しいただけました。このことも増床の一因になったと考えられます」
各テナントで外国語の分かるスタッフを配置したり、中国の代金決済サービス「WeChat Pay」の対応を進めたり、一括で免税手続きができるカウンターを設置したりと、ハード・ソフト両面で整備も進めた。

三井不動産の安田主事(写真左)と、運営を担う三井不動産商業マネジメントの菊田所長

デイリーな生鮮食品から、憧れのハイブランドまで

インバウンド需要で好況だったのは、ほかのアウトレットモールも同じかもしれない。MOP札幌北広島がよそとはちょっと違うのは、地元客が多いことだ。
「メインエントランス横の目立つ場所に農産物の直売所があり、新鮮な朝採れ野菜やお魚、焼き立てのパンやスイーツなども地元のお客さまに人気です。アウトレットモールで生鮮品を扱うなんて、私もこちらに着任したときは驚きました」
こう話すのは、施設の運営を担う三井不動産商業マネジメント株式会社の菊田英傑所長。これまで三井不動産グループの商業施設「ららぽーと」をはじめ、神奈川や埼玉など4施設で運営に携わってきた。
「生鮮を扱っているのは北海道ロコファームビレッジさんというお店ですが、こうした農水産物を扱う店舗は関東圏にはなかったですね。北海道らしいコンテンツだと思います」

メインエントランスを入ると野菜の直売コーナー。スーパーや道の駅のように多くの人で賑わっている

さらに奥へと進むと、イベントスペース「エルフィンコート」があり、そこでも期間限定の「新鮮野菜マルシェ」が行われていた。
「季節の野菜や果物を目当てに来てくださる方も少なくありません。お客さまにも喜んでいただけるし、生産者さんのためにもなる。我々が場所を提供することで、ハブの役目を果たせるのなら、うれしいことです」と菊田所長。
ときには生産者が売り場に立って自ら販売することもあるそう。憧れのブランドから、とれたての農産物までが揃う、そんな大らかさも北海道らしさなのかもしれない。

イベントスペース「エルフィンコート」。取材時は「新鮮野菜マルシェ」が開催されていた

自治体や地元企業とのコラボレーションも

巨大モールの開発は都市計画や交通整備と関連が深いため、事前に行政とのすり合わせが必要となるが、開発段階にはコミットしても、運営段階で連携することはそう多くない。
ところがMOP札幌北広島では、オープン後もずっと北広島市と良好な連携が続いている。その一例が、地元の事業者や生産者、教育機関とタッグを組んだ「北海道の絆プロジェクト」だ。
「コロナ禍で公共施設が閉鎖され、行事や催しが次々に中止となりました。そこで我々の敷地内、屋外の特設会場をご提供して『北の酒まつりin きたひろしま』を開催したり、北広島の飲食店組合や商工会青年部が屋台を出したり、発表の機会を失った高校の吹奏楽部の演奏を札幌ドームの大型ビジョンで放映したりと、地域と絆を深めるさまざまな取り組みを毎月のように実施しています」
地域の催しを仲間が応援に来たり、児童会館の子どもたちの作品展を見におじいちゃん、おばあちゃんが来たり、幅広い年齢層がMOP札幌北広島を訪れ、楽しい思い出を持ち帰っている。

「かつてはスペースをお貸しして場所代をいただき、いかに不動産価値を上げるか、つまり収益性を主眼に置いていました。しかし今はインターネットでいくらでもモノが買える時代です。当館のようなリアルモールは、単に安くモノを買うための場所ではなく、週末に友人やファミリーで楽しめる体験型コンテンツの提供が求められているのではないでしょうか」
コロナ禍で今は休止中だが、MOP札幌北広島では、地域の方々に発表の場としてイベントステージを無料で開放する取り組みも続けてきた。そうした積み重ねが浸透したのか、コロナ禍でも客足は途絶えない。
「広域の集客が困難となる中で、こうして地元の方が来てくださっている。今は耐えるしかないですが、地域に支えられていると確認できたことを肯定的に受け止めたいです」と安田主事は地元客への感謝の思いを口にした。

およそ180店舗が軒を連ねる巨大なモール。大勢の人が働く、ひとつのまちでもある

地域コミュニティの核として、まちづくりに貢献

北広島市では2023年の開業に向け、北海道日本ハムファイターズの新球場「北海道ボールパーク」の建設が進んでいる。完成すればMOP札幌北広島との連携も楽しみだ。
「去年、プロ野球が無観客での開催となったとき、当施設の駐車場の車の中から試合を観戦できる『ドライブ・イン・ベースボール』を実施しました。年に一度、我々がスポンサードしている試合でも、球場の大型ビジョンで地元の高校の吹奏楽部の演奏を放映しています。これまでもさまざまな企画に取り組んできましたので、ボールパークともぜひ一緒に何かできたらいいですね」と菊田所長も期待を寄せている。

北広島市との連携も、さらに強化を図っていくつもりだ。
2021年8月には、北広島市を舞台にしたマンガ『プラタナスの実』のパネル展を開催した。テレビドラマ化された『テセウスの船』の作者、東元俊哉さんの新作で話題性も十分。北広島市民になじみのある風景がたくさん登場するので、北広島市にとっても大きなPRになっただろう。
「今後コロナが終息しても、大切なのはやはり、地元にいかにファンを増やしていくか、リピートしてもらうか。皆さんのライフスタイルの中にMOP札幌北広島をしっかり位置づけてもらえなければ、長く運営していくことはできないですから」
菊田所長の言葉にはコロナ禍で再確認した地元密着の思いが込められていた。

人々が集う「場」は、まちづくりの核となる

アウトレット(Outlet)とは、英語で「出口」を意味する。私たちがその商品の出口に求めるのは、安さだけではない。思いがけないものに出会えそうなわくわく感、たっぷり時間を使ってショッピングを楽しめる高揚感、友人や家族と一緒に時を過ごせることの幸福感、そうした楽しみの集合体が、インターネットにはない、リアルなモールの魅力だろう。

多くの人が立ち寄りたくなる「場」があれば、そこにはにぎわいが生まれ、おのずとさまざまな交流が育まれる。地域としっかり結びついたアウトレットモールは、地域コミュニティの核、まちづくりの中心になる施設として、これからもその存在感を大きくしていくのではないだろうか。

三井アウトレットパーク 札幌北広島
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