北海道の藍で染めたジーンズ「綿濃」

大阪の「サムライジーンズ」や岡山の「桃太郎ジーンズ」など国内ブランドとコラボして、北海道ならではのオリジナルジーンズを企画しているUNIQUE JEAN STORE(以下ユニーク・ジーン・ストア)。昨年、創業40周年を記念して道産藍100%使用のジーンズ「綿濃(めんこい)」を発売し、注目を浴びている。販売のプロとして、どのように藍の産地、岡山の染織工場や縫製工場と向き合っているのか。世界を見据えるオーナーの新納淳二(しんのう・じゅんじ)さんと商品開発を進める統括部長の中嶋大輔(なかじま・だいすけ)さんのこだわりに迫ってみた。
矢島あづさ-text 伊藤留美子-photo

100本限定の「蝦夷ジーンズ」が始まり

大手ジーンズメーカーのラングラー・ジャパンで企画・営業を務めていた新納淳二さんが、札幌の中の島にジーンズのセレクトショップ「ユニーク・ジーン・ストア」を開業したのは1982年。「ニューヨークや東京では、裏通りにあるような店が流行っていた。若かったから、街中ではなく中の島に路面店を出すのが恰好いいと思ってね」と笑う新納さん。毎年、ミラノ、フィレンツェ、パリなどを訪れ、現地の流行を探りながら仕入れるため、「このブランドが中の島で手に入るとは!」と驚かれるほど、インポート、国産の約30ブランドを揃える。

「若いスタッフたちのやる気や才能を引き出すのが僕の仕事」と新納社長

20年ほど前、大阪のブランド「サムライジーンズ」とコラボして、北海道らしいジーンズはできないかという発想から誕生したのが「蝦夷ジーンズ」。2年に1回のペースで100本に限定し、ステッチの糸を北海道の雪をイメージした白にしたり、ブランドの顔でもあるパッチにエゾシカの革を使用したり、テーマ、シルエット、デザインも毎回少しずつ変えて販売してきた。11回目の企画として、来年4月に新しい蝦夷ジーンズが発売される予定だ。

新納さんによると「ここ数年、全国各地のジーンズショップがメーカーブランドとコラボして、地域や店の特徴を出したオリジナルジーンズを企画するのが流行っている」という。サムライジーンズといえば、安易に色落ちしたジーンズが世の中に蔓延する中、あえて「自分で色落ちさせる悦び」にこだわるブランド。革パッチ、ボタン、リベット、スレーキ、フラッシャーなど、付属のバリエーションも豊富だ。その人気ブランドとコラボした蝦夷ジーンズは、新作を発表するたび飛ぶように売れている。

サムライジーンズとコラボして誕生した「蝦夷ジーンズ」

「綿濃」のきっかけは伊達の藍師・篠原さん

しかし、これで満足しないのが、チャレンジ精神旺盛なユニーク・ジーン・ストアらしい。蝦夷ジーンズは、企画こそ北海道だが、素材も、縫製も岡山のもの。「北海道産」と謳えないジレンマもある。統括部長の中嶋大輔さんは「そもそも、うちのように小さなジーンズショップが、生地から手掛けるということは業界的にあり得ない。けれど、伊達に道内唯一の藍師がいることを知り、ジーンズを通して世の中にそのことをもっと広めたいという気持ちが湧いてきた」と語る。

「ジーンズのレベルを落としてまで、北海道産にこだわるつもりはない」と中嶋さん

先祖代々藍を種から栽培し、染料となる蒅を生産している伊達の篠原一寿さんの存在を知った中嶋さんは、藍畑と工房がある伊達に幾度も足を運んだ。篠原さんから道産藍のクオリティの高さ、その魅力を教わるうちに、道産藍100%使用のジーンズを商品化する道が見えてきた。100本分のジーンズを作るには、90㎝幅のデニム生地が6反ほど必要だ。その生地を織るためには経糸300mを染めなければならない。市内の染屋さんに当たってみたが大量に糸を染めるキャパがなく、岡山の染工場に頼るしかなかった。

「綿濃の企画は2019年から立てていましたが、コロナの影響で完成できたのは3年後。価格や技術的なことも考え、もともと本藍ジーンズを作っていたステュディオ・ダ・ルチザン(STUDIO D'ARTISAN)と今回はコラボすることにしました」。ステュディオ・ダ・ルチザンは、日本で最初にセルビッチジーンズを作ったブランドである。セルビッチデニムとは、旧式の力織機で織られた耳のついた生地のことで、ごわごわとした硬さがあり、洗うほどに風合いが増し、色落ちやムラ感など経年変化が楽しめる。さらに、世界初のヴィンテージ仕様のセルビッチジーンズを作り、世界が日本のジーンズに注目するきっかけをつくった。そんなガイドラインを持つブランドは、大量生産では不可能な仕様や縫製方法をめざす「綿濃」のコンセプトとも相性がよかった。

篠原さんから藍染めの指南を受ける中嶋さん。将来はTシャツやソックスなどの商品化も考えている
(写真提供: UNIQUE JEAN STORE)

道産藍100%使用のオリジナルジーンズ「綿濃」各39380円(税込み)

道産藍100%を使って岡山で染め、織り、縫製する

ジーンズは、織り上げた生地ではなく糸から染める。化学染料のインディゴで染める場合は、経糸を重ね合わせて極太のロープ状にした「ロープ染色」なので、糸の真ん中に白い部分が残る。ジーンズにアタリやヒゲができるのは、穿き込むことで糸の表面が削れて芯の白色が出てくるからだ。これを風合いとして楽しむのだが、本藍の場合は糸を輪にして束ねたものを「かせ染め」する。藍液に浸しては取り出し、空気にさらして酸化させ、何度もその作業を繰り返すので、糸の中心までしっかり染まり色落ちしにくい。ジーンズ好きにとって色落ち加減は重要だ。本藍でも色落ちしやすい染め方はあるはずだ。その現場を確かめるために、中嶋さんは7月、岡山の染織工場を視察した。

デニムとは、染色した経糸と染色していない緯糸を綾織した生地のこと。右綾と左綾があり、一般的な右綾デニムはざっくりとした伸びにくい生地に仕上がり、表面のみが色落ちする「点落ち」の傾向が強い。これによりヒゲ、ハチノス、アタリと呼ばれる色落ちが出やすくなり、穿きこなすほど風合いが増していく。一方、左綾デニムは表面がフラットになり、光沢感やソフト感が生まれる。裏糸部分が前に出やすいので、流れるような「線落ち」を楽しむことができる。

北アメリカ産のロッキーコットンを道産藍で「かせ染め」している(写真提供: UNIQUE JEAN STORE)

15オンスの糸を使って右綾デニムを織り上げていく旧式の力織機(写真提供: UNIQUE JEAN STORE)

中嶋さんが「綿濃」でこだわったのは、ジーンズを穿き慣れていない人にも、ジーンズ愛好家にも納得してもらえるデザインにすること。シルエットも細いタイプと太いタイプの2パターンを考え、フロントフライもボタンとファスナーの両方を採用。ブーツ派とスニーカー派のために裾の幅や丈の長さも微調整した。「あと、かせ染めは色落ちしにくいと言われていますが、うちの場合は色落ちしやすいように作っています。その色落ちの過程を楽しんでもらうために、左ポケットに初めて穿いた日付や洗濯した日付などを書き込めるような革を付けました。これは、今までにないオリジナルです」

左ポケットには、愛着がわくような日付メモ用の革を取り付けた

世界は日本ジーンズの職人技に注目

岡山はなぜ国産ジーンズ発祥の地となったのか。倉敷市児島の歴史をさかのぼると、その謎が明らかになる。児島はかつて瀬戸内海に浮かぶ島で、塩を生産する地であった。江戸時代、干拓により陸となるが、土壌には潮気が残るため米作りには向かなかった。米の代わりに綿花が植えられたことで、児島の繊維産業は成長することになる。明治時代は足袋、昭和に入ると学生服や作業服で栄え、染織、縫製、加工会社が次々と参入していった。

1965年、国産ジーンズ第1号を発売したのは「マルオ被服(現在のビッグジョン)」。70年代に入ってジーンズが流行すると、児島は「ジーンズの聖地」となった。1992年に誕生した桃太郎ジーンズは、自分たちの手で生地を織り、次々と革新的な生地を開発してきた。阿波の藍染職人との共同研究により生まれた本藍デニム「JAPAN BLUE」をはじめ、生地へのこだわりには定評がある。

日本古来の「JAPAN BLUE」にこだわる桃太郎ジーンズともコラボした

新納さんは「毎年、海外に行きますが、日本のデニムは高級感があり、職人のこだわりが素晴らしいと、アパレル業界でとても注目を浴びています。わざわざ日本まで買い付けに来るバイヤーもいるくらい。岡山や大阪の国産ジーンズのブランドとつながりがなければ、北海道ならではのジーンズを作ろうという発想は生まれなかったと思います。僕たちも北海道からアジア、ヨーロッパへと、海外に向けて自分たちのオリジナルジーンズを販売するのが夢」と世界を見据える。

1998年、大阪で誕生したサムライジーンズは、ヴィンテージの要素を持ちながらも、太い番手の糸を使ったヘビーオンスのデニム生地で知られる。ヘビーオンスのジーンズは色落ちが遅いといわれているが、サムライジーンズの製品は、糸の芯白を大きく残しており、色落ちのアタリが付き、「縦落ち」もしやすい。

「サムライジーンズとは20年ほどの付き合いになりますが、10年ほど前から完全な国産ジーンズをめざして、和綿の自家栽培にチャレンジしています。しかも、無農薬・有機栽培ですから大変な作業。15人規模の企業ですが、そこまで徹底して活動するには、かなりの信念が必要なこと。みんなに種を配布して、コットンを回収するプロジェクトもやっていて……これが種、栽培してみますか?」と、新納さんから和綿の種をいただいた。さっそくまいてみると、すぐに発芽して6株ほどの苗が成長している。国産ジーンズの明るい未来を育てている気がした。

サムライジーンズを扱っているのは札幌ではユニーク・ジーン・ストアだけ

サムライジーンズが配布している和綿の種

UNIQUE JEAN STORE
営業時間/11:00~20:00 年中無休
北海道札幌市豊平区中の島2条2丁目1-1 
TEL:011-832-0224
WEBサイト

道産藍100%使用のジーンズ「綿濃」が大丸でも買える!

『UNIQUE JEAN STORE POP-UP』

●2023年9月6日(水)~12日(火)10:00~20:00
●大丸札幌店6階クロージンググッズ売り場
(北海道札幌市中央区北5条西4丁目7)

ステュディオ・ダ・ルチザンとユニーク・ジーン・ストアのコラボで誕生した道産藍100%使用のジーンズ「綿濃」をはじめ、各種ブランドのジーンズ、ブーツ、レザージャケット、アロハシャツなどを豊富に取り揃えています。POP-UPでしか買えない、別注商品なども多数ご用意してお待ちしております。

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