みんなをしあわせにできる、ものづくりの理想形 —ナチュラルアイランドの化粧品—

北海道生まれ、ナチュラルアイランドの基礎化粧品

北海道の自然の素材を生かしたスキンケア化粧品を通信販売で全国へ届けるメーカー「ナチュラルアイランド」(本社・札幌)。白老町に工場と庭園を融合した「ナチュの森」を開設し、多くの観光客を集めている。ものづくりの拠点になぜ白老町を選んだのか。長いストーリーを聞かせてもらった。
井上由美-text 伊藤留美子-photo

北海道の自然の素材に魅せられて

7月下旬、白老町虎杖浜の「ナチュの森」には鮮やかなオレンジ色の花畑が広がっていた。花の名はカレンデュラ。傷ついた皮膚や粘膜を保護する「皮膚のガードマン」として、ヨーロッパで古くから用いられてきたメディカルハーブだという。
そのカレンデュラを有機栽培で育て、花を摘みとり、1枚1枚手作業で選別した花びらだけをビニールハウス内で乾かし、精製したオイルなどに漬けて有効成分を抽出。そのオイルやエキスを使って作られたのが、ナチュラルアイランドの人気商品「カレンデュラの手づみシリーズ」(クレンジング・石鹸・ローション・オイル)である。

カロチノイドが豊富に含まれる薬用ハーブ「カレンデュラ」

研究薬香草園ナチュラルファーム。ラベンダーやジャーマンカモミール、エルダーフラワーなども栽培

このほかにも、滝上町で栽培されている和ハッカ「JM-23号」を使った「和ハッカのすっきりシリーズ」、釧路のモミを使った「モミと白樺のやすらぎシリーズ」など、北海道の素材で製造しているアイテムは、いずれも通信販売で全国へ販売。売り上げを伸ばしている。
最近は地域の特産品を使った「ご当地コスメ」が増えてきているが、同社のこうした化粧品づくりは、いつ、どのように始まったのだろうか。

「当社の代表は小松令以子という女性なのですが、自身と子どもの肌が弱く悩んでいたことから、新生児から親子で使える低刺激のスキンケア商品を開発。1996年に東京でナチュラルサイエンスという会社を立ち上げ『ママ&キッズ』というブランドで販売するようになりました。もともと皮膚科医や大学と共同研究するなど開発に熱心で、素材探しの旅で北海道を訪れ、十勝の狩勝峠で日本では自生していないはずのハーブ、セントジョーンズワートと出会ったことが、姉妹会社ナチュラルアイランドの設立につながりました」

会社設立の経緯をこう教えてくれたのは、ナチュの森の広報を担当する山本祥史さん。希少なハーブとの出会いが会社設立につながったとは、一体どういうことなのか。

東京出身の山本さん。北海道の大学を卒業後、一度は東京で就職したものの、転職で北海道へと戻ってきた

「セントジョーンズワートもヨーロッパで古くから消炎や鎮痛に使われてきたハーブです。この花の栽培を真狩村の農家さんに依頼し、トリートメントオイルを開発したのですが、ハーブのアロマがあるアイテムは赤ちゃんや妊婦さんには推奨できない。それまで赤ちゃんから使えるスキンケア製品を作ってきたナチュラルサイエンスで発売すれば、混同を招く恐れがある。加えて北海道に根ざした製品づくりにも力を入れたいということで、札幌に本社登記を置く姉妹会社、ナチュラルアイランドを設立したと聞いています」

北海道のきれいな水で、化粧品をつくりたい

ナチュラルアイランドの設立は2010年。その7年後には白老町に工場「ナチュラルファクトリー北海道」が稼働している。
北海道は加工・製造の分野が弱く、単なる原料供給地で終わってしまうとよく言われるが、工場建設へと発展したのはどういういきさつがあったのだろう。

ナチュラルファクトリー北海道。ナチュラルサイエンス、ナチュラルアイランド、両社の製品を製造している

「きっかけは“水”でした。契約農家さんの人手不足を補うため、収穫時期には東京や札幌の社員が毎年お手伝いに出向くのですが、そのときに飲んだ北海道の湧き水がびっくりするほどおいしかったらしくて…。スキンケア商品のベースは水ですから、北海道のきれいな水で化粧品をつくりたいという思いが強くなったようです」

水質の良い水を求めて道内各地を回り、白老町の虎杖浜にたどり着いたのは2011年のこと。倶多楽湖(くったらこ)の伏流水が湧き出る親水公園のそばに閉校の決まった中学校があり、水質の良さに加えて、生徒のいきいきとした姿や大切にされている校舎に感銘を受けたことが決め手になったという。

土地の利用制限の変更を北海道に働きかけ、虎杖中学校が閉校した2013年に白老町から敷地を取得。2017年、中学校の横に工場「ナチュラルファクトリー」を新設した。

調合室や充填室は病院の手術室と同等のクリーンな衛生環境を確保。月に数回、工場見学を受け付けている(要予約)

ファクトリー2階にはショップや女性専用のエステ・ヨガスタジオ「アクアサロン」、1階にはレストランを併設

さらに工場裏手の雑木林を切り拓き、カレンデュラを栽培する自社農園をオープン。2018年には校庭を整備して、遊具や噴水があるナチュラルガーデンを開設した。
工場で使用する水はもちろん、レストランやエステ、ガーデンの水遊び場などの水もすべて倶多楽湖の伏流水。塩素は加えず、毎日、独自に水質検査をして安全性を確認して使用している。

自然と科学のミュージアム「森の工舎」をオープン

「ナチュの森」を運営するのは、化粧品メーカー「ナチュラルサイエンス」(東京)と、姉妹会社「ナチュラルアイランド」(札幌)の2社。工場、ガーデンと段階的に整備を進め、2022年12月にはついに旧虎杖中学校の校舎をリノベーションした「自然と科学のミュージアム 森の工舎」が完成した。

旧虎杖中学校の外観はそのままに、内部をリノベーションした「森の工舎」

玄関に入ると、正面に鎮座するのはまんまるソファ。水源である倶多楽湖を精密な縮尺でかたどったフォルムだという。
視線を上げると吹き抜けのホールには雨粒をイメージしたLEDのしずくライト。カルデラ湖に雨が降り注ぎ、長い時間をかけて濾過され、麓の親水公園に湧き出た水が工場で製品となる。悠久の水の流れを表現した大きなジオラマになっている。

日本で一番丸い湖といわれる倶多楽湖。流れ込む河川がないため、カルデラを満たしているのは雨や雪の水だけ

雨粒をイメージしたLEDライト。使われなくなった蛍光管を溶かして作り直したもの

「森の工舎」は体験型の施設になっていて、1階にはフレグランスデザイナーが監修した「香りのラボ」のほか、植物から香りを取り出す蒸留実験室、ポプリづくりなどワークショップを楽しめるアトリエがあり、2階にはライブラリーとギャラリー、えほんの部屋が設けられている。
別棟の体育館は予約制のプレイルームにリニューアルされ、週末を中心に予約制で営業しているほか、入場無料ゾーンにはカフェとショップを併設、こちらも多くの人で賑わっている。
中学校は残念ながら閉校になってしまったけれど、思い出の詰まった校舎がこのように生まれ変わったら、卒業生はきっと誇らしい気持ちになったに違いない。

香りの不思議を体験できる「香りのラボ」

エアポンプを握ると、精油の香りがふんわり立ち上がる

国内に数台、道内ではここにしかない減圧蒸留器。減圧することで沸点を下げ、最良の香りの成分を抽出できる

「自然の恵みと豊かな暮らしの発見」がテーマのライブラリー。約3000冊を収蔵

ギャラリーで開催していたのは「スマイルキッズ絵画展」(2023年8/29まで)

ものづくりを中心にした、しあわせの連鎖

「ナチュの森」は東京ドームと同じくらいの敷地があり、工場、ガーデン、農場、ミュージアムの全体で、社員・パートを含め約150人のスタッフが働いている。そのほとんどは白老町および隣接する登別市からの採用だ。
さらに農場では、障がい者の就労支援に取り組むNPOと連携し、カレンデュラの苗づくり、畑の管理、収穫などを協働。雇用創出効果はかなりのものだ。

素材となるハーブを栽培する農業者にとってもメリットは多い。契約栽培で全量買い取りのため売り上げの見通しが立つだけではなく、繁忙期に東京や札幌・白老から社員が手伝いに来てくれるとなると、なにより心強いに違いない。

地域にとっては観光の活性化という側面でもインパクトが大きい。ウポポイと並ぶ新しい観光施設として定着し、休日には室蘭、苫小牧、札幌などから子ども連れの家族が訪れる人気スポットとなっている。もちろん製品を愛用する全国のユーザーも訪ねてくれる。北海道に関心を持つきっかけになるだろう。
ガーデンで走り回り、「森の工舎」で科学の不思議に触れた子どもたちが、いつか好奇心の翼を広げてくれる日も来るかもしれない。
2020年には白老町、登別市、ナチュラルサイエンスの3者で地域創生の包括連携協定を締結。地域振興に向けた協力の体制も整っている。
まさに全方位、関わる人すべてをしあわせにする、ものづくりの理想形があるといっても過言ではない。

ものづくりの根源は自然と科学。素材の発掘も開発の一貫

山本さんは言う。
「私自身、両親を東京に置いて転職で北海道に来ましたが、当社のメンバーはみんな北海道が大好き。きれいな水があり、パワーのある植物がある。土地も人もおおらかでいろんなものを包み込んでくれる大きさがある。可能性は尽きないと思います」

北海道素材の製品づくりもまだまだ広がる。
昨年には、やっかいもの扱いされることが多い「オオイタドリ」に髪の毛乳頭細胞の効果があることを突き止め、「イタドリスカルプエッセンス」という髪・頭皮ケアの製品を発売したという。
雑草として嫌われるオオイタドリが、髪や頭皮に悩みを抱える人を救う化粧品の素材になる。
もしかしたら、私たちの身近にはまだまだ貴重な宝が埋もれているのかもしれない。

ナチュの森
北海道白老郡白老町虎杖浜393-12
TEL:0144-84-1272
WEBサイト

営業時間/10:00〜17:00
定休日/水・木曜(祝日の場合は営業)
入館料/森の工舎+ガーデン(一般800円、高大生600円、小中生400円、未就学児200円、1歳未満無料)

株式会社ナチュラルアイランド
WEBサイト

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