かつての炭都に残るシナモンドーナツ~うさぎや菓子舗(夕張市)

1960年代、国内最大の産炭地として、空知地方には100を超える炭鉱があった。中でも「炭都」と呼ばれた夕張は多くの石炭を産出し、ピークには12万人近くが住んでいた。炭鉱の閉山とともに衰退し、今や人口は6千人を割り込んでいる。それでも、夕張の炭鉱を懐かしむ味として<シナモンドーナツ>は、札幌市内でも千歳空港でも健在だ。
矢島あづさ-text 伊藤留美子-photo

夕張にはかつて15軒ほどの菓子屋があった

三笠や岩見沢では今もダントツ人気の<天狗まんじゅう>、赤平で生まれたニッキ味の黒い<塊炭飴>のように、炭鉱まちには必ず甘い菓子が存在した。夕張を代表するのは、シナモン入りのグラニュー糖をまぶした<シナモンドーナツ>。重労働の炭鉱マンたちは、甘いものを食べて疲れを癒し、エネルギーを補給していた。炭鉱で生まれ育った者にとっては、どれも忘れがたい故郷の味である。

旧・北炭夕張炭鉱の模擬坑道。他の産炭地と比べて夕張の石炭は質が高く、「国内最優良炭」と称されていた。市内に大小24の炭鉱があった時代もある(写真提供:夕張市石炭博物館)

「僕が高校卒業するまで、夕張には15軒ほどの菓子屋がありました。家から歩いて行ける距離に、必ず1軒は菓子屋があった」と語るのは、今も<シナモンドーナツ>を作り続ける、うさぎや菓子舗の三代目・佐々木宏和さん。初代の佐々木太郎さんは、1883(明治16)年に創業した秋田の菓子舗「榮太楼」で修業した菓子職人。その後、札幌で千秋庵の工場長を務め、夕張に戻り、1931(昭和6)年にうさぎや菓子舗を開業した。

三代目の佐々木宏和さんは、1971(昭和46)年生まれ。24歳から家業を手伝うようになった

「うちは元々求肥など本格的な和菓子を作っていたので、裏の山手にある北炭の重役や委員長が住む家の御用達でした。ちょうど夕張鹿鳴館(旧北炭鹿ノ谷倶楽部)の向かい辺りです。正月に配達に行くと、お年玉をくれたりして、兄とよく競っていましたね(笑)」と宏和さん。「二代目の親父の話によると、戦時中も店を閉めずに、粉を持ってくる人に頼まれて煎餅を焼いていたとか。伯母からも、煎餅の端が欠けた部分を食べて腹を満たしていたと聞いてます」というエピソードも興味深い。炭鉱産業全盛期の昭和30年代から、庶民向けのあんドーナツを販売し始めた。子どもらが、ざら銭を握りしめて買いに来るほど手軽なおやつだった。

 

最初のドーナツにはシナモンをかけていなかった

炭鉱閉山後に注目されるようになったのは、夕張の広報誌に掲載されたのがきっかけだ。次々と他の雑誌にも紹介され、北海道新聞空知版の記事になると、父親の元恩師が営む地元のスーパーからも「うちで売らないか」と声が掛かるようになった。宏和さんは「ちょうど商売をやめるんじゃないかと思っていた時期。ところがスーパーの人気商品となり、僕が仕事を辞めて手伝うほど忙しくなりました」と当時を振り返る。

まず、小豆を粉末にした生あん<特赤>を砂糖と練り合わせ、こしあんを作る。粒あんだと均一に生地が包めず、揚げたときに爆発する恐れがあるからだ

直径40㎝くらいのボウルで350個分くらいの生地ができる。その日はボウル10個分を仕込んだ

小豆あんは、温かいまま生地で包むと、揚げるときに割れやすくなるため、前日に練って冷ましておく。朝は、生地種作りから作業を始める。材料は、卵、小麦粉、砂糖、膨張剤、植物性のショートニングなど。毎朝3000個分の生地を仕込み、包あん機で包み、揚げていく。「揚げるときの気温と油の温度がすごく大事。寒い日は冷蔵庫から早めに出して生地を常温まで戻したり、夏場の湿度が高い日は生地を冷やすようにしたり。あと、包んでからもたもたしていると生地の表面が乾くので、揚げるタイミングも重要」だという。

1分で15個包める包あん機がない時代は、すべて手で包んでいた。現在も、揚げる前に一つ一つ手で形を整えている

フライヤー1台で揚げられる量は30個。タイミングよく揚げるのがポイント。油は原料が大豆の白絞(しらしめ)油を使用している

宏和さんによると「最初のドーナツは、上白糖をまぶしただけのもの。シナモンを使うようになったのは、昭和50年代前半。そもそもシナモンは防腐剤代わり。ドーナツが日持ちするように漢方会社の質の高いものを使っていた」という。シナモンは体を内側から温め、毛細血管を広げて血流をよくする効果もある。コロナ禍に漢方会社が廃業となり、現在は中国とインドネシアから取り寄せたものをブレンドし、なんとか当初の味に近づけている。

熱々の揚げたてにシナモンと砂糖を混ぜたものをまぶして、6個ずつパックに詰めて出来上がり。地元の常連さんは「揚げたてちょうだい」と午前中にやって来る

ずっと会えなかった同級生が来てくれた

最近、宏和さんを喜ばせたのは、小学校5年生で転校していったきり行方不明だった同級生が、突然、店に来てくれたことだ。「あった、あった、まだ店があった!!!」と懐かしそうに顔をほころばせた。何十年も変わらぬ味を守り続けたからこそ、実現した再会だ。

こしあんをたっぷり包んだ直径5㎝ほどのシナモンドーナツ。6個入り680円。1週間ほど日持ちがするので、きたキッチンオーロラタウン店(札幌市)でも、飛ぶように売れる

「僕がいま願っていることは、夕張から高校をなくさないこと。過疎地は、高校、中学、小学校の順に廃校になるでしょ。夕張の子は帰って来るバスがないから、栗山へバイトしに行くこともできない。だから、うちでは高校生もバイトに入ってもらうんだよ」。炭鉱は消えてしまっても、このまちの人と人の結びつきは深くて長い。そんなことを感じながら、熱々の揚げたてシナモンドーナツを頬張った。これは、夕張でしか味わえない。クセになる。


うさぎや菓子舗
営業時間/9:00~17:00
定休日/不定休
北海道夕張市鹿の谷1-23
TEL:0123-52-4533

この記事をシェアする
感想をメールする