岩﨑真紀-text
vol.11

「遊戯祭」、ちょっと羨ましい世代の連帯感

日頃は、若手演劇人たちが作る作品を好んでは観ない。完成度の問題ではなく、少なくとも15歳くらいは年齢の離れた彼らの切実なテーマ・夢・憧れは、私にとっては過去のものであり、理解はできても強く心が揺さぶられることはあまりないからだ。

けれど「遊戯祭」は別。これは企画がスペシャルだ。複数団体が「手塚治虫」「忌野清志郎」などの共通テーマで作品を作って上演、最優秀を選ぶ演劇コンペティション、というのがまず面白い。加えて、主要メンバーがおおよそ30歳以下の団体が競うこのイベントは、札幌演劇の新人集団から頭ひとつ抜けてくる団体を占う企画でもあり、「これは観ておかねば」という気持ちになる。

「遊戯祭」というタイトルの演劇フェスティバルは1993年に始まり、スタート時から3年ワンクールの形で実施されている。複数団体が同じテーマで競うようになったのは、3期目に当たる2006年〜2008年からだ。誕生したばかりの劇場「生活支援型文化施設コンカリーニョ」のPRと活用を兼ねて、代表である斎藤ちずが企画。テーマ「近松門左衛門」で弦巻楽団、「中島みゆき」で劇団千年王國、「太宰治」でintroが最優秀賞を獲得している。参加当時は30歳前後、現在は札幌の演劇シーンで中堅として活躍する団体ばかりだ。

4期目に当たる2015年〜2017年の開催については、札幌の若手演劇人の中で企画力のある米沢春花(劇団fireworks代表)がコンカリーニョのスタッフになったこともあり、学生時代に米沢とともに「札幌学生対抗演劇祭」を立ち上げた加納絵里香を委員長として、遊戯祭実行委員会が組織された。コンカリーニョは形としては共催で、側面から支援する体制だ。

「1年目は怒られてばかりだった」と、運営の中心を担った加納と米沢は口を揃えて言う。企画のアウトラインにはコンカリーニョの先輩スタッフによるサポートがあったのだが、意図を汲んで動くことができなかった。2年目は、大方のことは滞りなくできるようになった。そして迎えたラストの3年目、携わってきた同世代の関係者らと共に「やりたいことを全部やろう!」と決意したのだという。
目標は「どれだけフェスティバルになれるか」。テーマソングに揃いのTシャツ、劇場周辺の飲食店のクーポンも発行。何より、サブ会場であるターミナルプラザことにパトスでの、36本30時間に及ぶ企画を用意した。

さて、そうして開催された「遊戯祭17<谷川俊太郎と僕>」はどうだったか。

まずはパトス企画。学生演劇団体も含めた若手による短編演劇各種の上演のほか、コント、生演奏、参加者によるトーク、物まねに悩み相談までと盛りだくさん。次々に出演者と客が入れ替わり、コンカリーニョで観劇した演劇人がパトスに移動して出演する光景も見られ、さながら「社会に出た若手演劇人のための学校祭」とでもいった様相での盛り上がりだった。この世代が札幌演劇におけるボリュームゾーンであること、またこの参加者・企画数を捌いた運営スタッフの動きから、遊戯祭が舞台裏を支える人材を育成する機会ともなっていることを実感させられた。

メイン企画であるコンペティションでは、今年は誰もが知る詩人「谷川俊太郎」がテーマ。過去2年は5団体が競ったが、今年は所属団体の異なる脚本家と演出家のコラボでの上演という、フェスティバルならではの仕掛けで3作品を上演した。

詩情にアプローチし緊張感のある作品を目指した点では、むらかみなお演出×徳永萌脚本(両者ともデンコラ)の『20m2の胞』に光るものがあった。

合唱曲として知られる詩『春に』を効果的に用いた脚本と明快な演出による完成度という点では、畠山由貴(劇団パーソンズ)演出×白鳥雄介脚本の『それを聴いたとき、』が抜きんでていた。

最優秀賞を獲得したのは前田透演出(劇団木製ボイジャー14号)×米沢春花脚本の『平木トメ子の秘密のかいかん』だった。私が感じたところでは、この作品は「身内ではない通りすがりの観客も楽しめる」という点では弱かった。

脚本は、モチーフとした詩の心情に背景を加えて物語化した明快なもの。だが年齢の近い大勢の役者が似たような印象の服を着、わざと体格や性別が逆の役を演じていたため、役者の顔をあまり知らない私には、誰が何歳くらいの役をやっているのかが把握しにくかったのだ。しかしながら、バンド演奏やきぐるみ、たくさんの遊びを盛り込んで演出されたこの作品が、遊戯祭というフェスティバルを楽しみに会場に集まった観客・審査員の心を、最も多く捉えたことは間違いない。

私にとって、遊戯祭17で一番印象に残ったのは後夜祭だった。最優秀賞が発表されたときの、受賞したメンバーの歓声と嬉し涙、逃したユニットメンバーの引き結んだ唇、審査員の言葉に真剣に耳を傾ける姿。これぞドラマ、劇的瞬間ではないか。その熱さと真摯さに胸を打たれ、全員に心からの拍手を送りたい気持ちになった。

4期の遊戯祭は今年で終了、実行委員会は解散した。だが、しばしの休止を経た後の新たな世代での復活は既定路線のようだし、来年にはコンカリーニョが主催しての特別版遊戯祭の構想もあるという。

休止期間の存在が生む企画のスペシャル感、「あのイベントを共有した」という世代の連帯感。傍観者としてはちょっと羨ましくなるような、気持ちのいい若者たちのフェスティバルだった。再開を待ちたい。

『20m2の胞』(写真提供:遊戯祭実行委員会)

遊戯祭17<谷川俊太郎と僕>
WEBサイト


岩﨑真紀(いわさき・まき)
情報誌・広報誌の制作などに携わるフリーランスのライター・編集者。特に農業分野に強い。来道した劇作家・演出家への取材をきっかけに、北海道で上演される舞台に興味を持つ。TGR札幌劇場祭2014~2016年審査員、シアターZOO企画・提携公演【Re:Z】2015~2016年度幹事。サンピアザ劇場神谷演劇賞2017年度審査員。

この記事をシェアする
感想をメールする