シゴトと暮らしとまち。

ハンター 門別 徳司 33歳

子どもの頃、
駆け回っていた山が
職場になった。

森由香-text 露口啓二-photo

狩猟民族として生きていく

門別徳司(もんべつ・あつし)さんの職業は「ハンター」。主にエゾシカを追って、ほぼ毎日、山へ仕事に向かう。狩猟免許を取ったのは30歳の時。それから2年間は、建設会社に勤めながら猟に出かけていたが、3シーズン目の春、会社を辞めてプロのハンターになることを決めた。
「辞めたことをなかなか家族に言えなくて。しばらくは家に居づらかった」と笑う。最初は怒っていた奥さんもいまは働いて家計を助け、3人の子どもたちは門別さんが仕留める鹿を楽しみにしているという。

北海道のエゾシカ問題は深刻だ。農林業の被害は50億円にのぼり、交通事故の発生も毎年1600件を超えている。かつては猟のできる地域や時期が決まっていたが、いまは全道が可猟地域で、肉質の良い秋冬は狩猟期間、それ以外の春夏は有害駆除期間、つまり通年で鹿猟ができるようになっている。
とはいえ、エゾシカの有害駆除は猟友会のハンターに言わせると、「1頭を仕留めても、弾薬代や車のガソリン代を考えると割に合わない」という価格。鹿猟一本で生活をしていくのは、かなりの決断と思うが、門別さんはにこやかに話す。
「猟に出るようになると、アイヌとして、狩猟民族として、誇りを持って生きたい、その思いが強くなった。それと、自分はプロでやっていける自信もあった。負けん気が強いからかな」
子どもの頃から、ハンターもエゾシカも身近な存在。間近に解体を見て、鹿肉を食べ、いつかは自分の手で捕ってみたいと憧れた。20歳になると、職場に猟をする人たちがいて、山へ行く時はいつも同行させてもらった。結婚をして、子どもが生まれ、30歳になった時、「やっぱり猟がしたい」と奥さんに頭を下げ、念願の狩猟免許を取得。銃を手にしてからのキャリアは短いが、狩猟への熱い思いはずっと続いていたのだ。

地元の農家が喜んでくれるから

では、ハンターになるにはどうすればいいのだろう? まず必要なものは「狩猟免許」。知識、適性、技能と3つの試験があり、法令や鳥獣の知識、猟具の取扱いなどの試験を受ける。そして、「銃の所持許可」を得るため、精神障がいがないか、身元保証人がいるか、いくつもの書類を提出する。最後に、狩猟をしたい地域に「狩猟者登録」をする。これらの手続きを経て、ようやく免許を手にするのだが、3年ごとの更新が義務付けられている。

日本は、銃の所持が世界で一番難しい国だ。猟銃は、許可された銃しか持つことができない「一銃一許可制」。たとえ所持許可を持っていても、他人の銃を触るだけで違法になる。だから、ハンターは慎重に銃を選ぶ。
狩猟の銃は大きく分けると散弾銃かライフル銃になるが、ライフル銃を持つには10年以上の猟銃(散弾)の経験が必要。そこで、鹿をターゲットにする門別さんが選んだのは「ハーフライフル銃」。銃身の半分にライフリング(螺旋)が切ってあるので、100m先の鹿も狙うことができ、日本では散弾銃の扱いになることから、鹿猟には最適と言われる。
「欲しくてもすぐには無理だろうと思っていたら、ちょうど中古銃があったので即決した。いまはハンターが減っているので、いい中古銃が出回っているらしい。ただし、ハーフライフルは弾が1発700円と高いので、無駄撃ちは絶対にできない」

門別さん01

鹿猟の時間帯は日の出から日の入りまで。勤めていた頃の門別さんは、早朝に起きて猟へ行き、仕事が終わったらまた猟へ行く生活。仕留めた鹿は、車で1時間ほどかけて新冠町の専門処理施設へ運ぶと、1頭につき12000円、頭を撃って血抜きしたものは肉にできるのでプラス10000円になる。日の短い冬は、猟の時間に間に合わない日もあったが、仕事をしながら年間90頭を仕留め、ベテランのハンターにも驚かれたという。
「プロになったいまは年間200頭が目標。鹿は耳がよくて警戒心が強いから、近づくのは容易じゃない。鹿の行動がわかるようになるには、山に入って、歩いて、経験を積むしかない。まったく捕れない日は、収入ゼロだから本当に焦るよね。それでもプロになって良かったのは、地元の農家が喜んでくれること。平取は牧場と畑が多いから、一晩でやられたとかよく聞くし、手助けになっていると思うとやりがいを感じる」

いのちへの感謝を忘れない

今年の1月、門別さんは地元の仲間とワークショップを企画した。「マタギキャンプinアイヌモシリ」。狩猟とアイヌ民族の精神文化をテーマに、100%鹿素材のボーンナイフを作り、門別さんが仕留めた鹿で料理を楽しむイベントだ。

ワークショップの参加者とともに作ったボーンナイフ

ワークショップの参加者とともに作ったボーンナイフ

鹿の骨、腱、毛皮などナイフの材料はすべて鹿素材

鹿の骨、腱、毛皮などナイフの材料はすべて鹿素材

 仕留めた鹿は無駄にしない。門別さんの手作りアクセサリー

仕留めた鹿は無駄にしない。門別さんの手作りアクセサリー

かつてのアイヌは、脛の骨で矢じりを作り、腱を糸にして鹿皮を縫って靴にしていた。今では捨てられている、骨、腱、毛皮を使い、ボーンナイフを作ろうと門別さんたちは考えた。
「このワークショップは、仲間たちが自分を心配してくれたのがきっかけ。ハンターとしてやっていくには、狩猟文化を知ってもらうことも必要という話になって。初めての企画で各地から20人も集まり、興味を持ってくれる人がいることもわかったので、今後も続けていきたい」

プロのハンターになっておおよそ1年。この仕事を選んだことで、門別さんの中に生まれた変化は?
「いのちへの感謝を忘れないこと。銃を持つようになってから、いっそう感じるようになった」。

エゾシカの増加と被害拡大が止まらない要因のひとつに、ハンターの不足や高齢化があげられる。北海道の狩猟者数は、ピーク時の2万人から半減して約1万人。今後、ハンターが増えることも大事だが、エゾシカを“貴重な資源”として活用するプロが増えることも期待したい。流通、加工、販売のネットワークできれば、6次産業化も視野に入り、門別さんのようなハンターの仕事も生きてくる。ふだんの暮らしとは接点がないようで、北海道人にはとても密接な仕事があることを教えてもらった。

門別さん05

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