モール温泉水で表面を洗って熟成させるラクレット。現在は帯広市内のレストラン「帯広農園」などで提供している

[カイおすすめの北海道土産] 北緯43度で生まれる発酵食品

十勝の“ほんもの”、ナチュラルチーズ

酪農王国・北海道のお土産といえば、古くは懐かしのバターあめ、今は世界からも注目のナチュラルチーズである。現在、北海道にあるチーズ製造工場の半数が十勝に集中し、国産ナチュラルチーズの6割は十勝産が占めるという。チーズのメッカ十勝で何が起きているのか、ますます目が離せない。
石田美恵-text 露口啓二-photo

恵まれた土地で

お話を聞いたのは十勝の北西、新得町にある共働学舎新得農場の代表・宮嶋望さん。
「十勝でチーズづくりが盛んなのには地形が関係しています。十勝平野は西に日高山脈、北に大雪山系を従え、南と東は太平洋に接し午前中の太陽光がさんさんと降り注ぎます。この光は植物にとって大きなエネルギーとなり、光合成が盛んにおこなわれて栄養価の高い穀物、小麦やデントコーンなど家畜のエサが豊富に生産されます」
さらに、チーズを乳酸発酵させる微生物にとって働きやすい環境も重要だ。
「新得町は北緯43度に位置していますが、北緯でも南緯でも『43度ライン』は暑すぎず寒すぎず発酵にぴったりで、私は『発酵ライン』と呼んでいます」
そうした好条件のなかで、宮嶋さんを中心とした作り手がヨーロッパなどに視察にでかけ、専門家を招いて研究を重ねて技術を磨き、生まれるべくして生まれたのが十勝のチーズである。

十勝はもちろん日本のナチュラルチーズを引っ張り続ける宮嶋望さん

十勝はもちろん日本のナチュラルチーズを引っ張り続ける宮嶋望さん

新得町の牛乳山のふもと、青々とした放牧地で草を食む牛たち

土地に棲むもの

ここで少し目線を上げて、国産チーズが世界で高い評価を得る原因について宮嶋さんはこう分析する。
「ヨーロッパのチーズと原料や作り方はほとんど同じなのに、日本のチーズは味がおだやかで刺激が少ない。でも旨味は充分にある。この違いは“水”にあると思います。日本の水はヨーロッパに比べると超がつくほど軟水で、生息する微生物の種類は硬水の数十倍に及ぶといわれます。その多様な微生物のおかげで複雑な風味が生まれ、旨味のあるチーズができるのです」
私は最近まで外国の強烈なチーズが「本物の味」と勘違いしていた。けれども、そんなことはない。その土地の水や土や風とともに、そこに棲むたくさんの生き物とともに生まれる味が、紛れもない「本物」なのだ。

共働学舎の工房にて。たくさんの過程を経て、牛乳が少しずつチーズに姿を変えていく

さらなる次のステージへ

「ヨーロッパの真似はもう卒業して、十勝らしいチーズをつくろう」
宮嶋さんたちは数年前から、十勝にある複数の工房で共通のチーズづくりを開始した。もとになっているのは共働学舎が30年近く製造している「ラクレット」というウオッシュタイプで、トロリと溶かしてジャガイモやパンにのせて食べるとおいしいチーズ。ただし、特有の風味を出すためアナトーという南国産の植物由来色素を使っていた製法を、地元で手に入るものに変えることにした。
「探して探してたどり着いたのは、十勝川のモール温泉水。これは太古の湿原に積もった地中深くにある植物層から湧き出る温泉で、アナトー溶液と同じくアルカリ性であり、リネンス菌が働き風味豊かなラクレットができます」
各工房で統一した条件の原材料を使い、同じレシピで牛乳を加工し、その後、共同の熟成庫で管理して品質のバラツキをなくす。現在、2016年12月にオープンする音更町「ガーデンスパ十勝川温泉」の近くに共同熟成庫を建設中で、農林水産省の地理的表示(GI)への登録も申請中。ヨーロッパのカマンベールやパルミジャーノといったように、十勝を冠したチーズが日本で初めて生まれることになる。
十勝の風土と作り手たちの思いが熟成したチーズ、ぜひ十勝の風景を思いながら味わってほしい。

北海道チーズ

本格的な共同熟成庫の稼働を前に、小規模なプレ熟成庫で最終テストを実施中。庫内の温度は約10度、ひんやりしっとりした空間

【個性あふれる十勝のナチュラルチーズ】


酒蔵(220g・税込1994円)/共働学舎新得農場
日本酒の酵母を使って発酵させたウオッシュタイプのチーズ。日本酒の酵母で熟成の最初の段階を行い、仕上げの最後の段階で、日本酒で表面を洗う。濃厚な風味と香りがファンを魅了する。上にのっているのは農場の水田で育てた稲穂。日本の酒でつくった日本のチーズの証のようだ。

■共働学舎新得農場

北海道上川郡新得町字新得9-1
TEL:0156-69-5600
WEBサイト



おいしいカマンベール(250g・税込1404円)/十勝野フロマージュ
白カビタイプを得意とする十勝野フロマージュが自信を持って提供するクリーミーなカマンベール。フランス産と同じ250gのどっしりサイズに、やさしい牛乳の風味とほのかな甘さが感じられる。このほか十勝野フロマージュには甘口の田楽みそに漬け込んだ「田楽みそ漬けカマンベール」やハート型の白カビチーズなどユニークなものも多数。

■十勝野フロマージュ

北海道河西郡中札内村西2条南7丁目2
TEL:0155-63-5070
WEBサイト



大地のほっぺミニ(180g・税込864円)/チーズ工房NEEDS
「ミルクのお餅」をイメージしてつくった柔らかな舌触りと牛乳の風味が広がるチーズ。熟成が進むにつれてコクと香りが増し、グラタンやチーズトーストなど加熱料理にもぴったり。NEEDSではほかにも自社牧場の新鮮な牛乳からいろいろなタイプのチーズを作っている。

■チーズ工房NEEDS

北海道中川郡幕別町新和162-111
TEL:0155-57-2511
WEBサイト



牛鐘(カウベル)(90g・税込648円)/十勝千年の森 ランラン・ファーム
表面を炭で覆って発酵させる牛乳100%のチーズで、作りたては爽やかな酸味があり、熟成してくるとクリーミーなコクが楽しめる。ハチミツやスモークサーモンとの相性が抜群。ランラン・ファームではヤギを飼育し、ヤギ乳のチーズも手がける国内ではまだ珍しい工房

■十勝千年の森 ランラン・ファーム

北海道上川郡清水町羽帯南10線
TEL:0156-63-3400
WEBサイト



熟モッツアレラ「ころ」(50g・税込302円=足寄町内での販売価格。札幌などでは異なる)/あしょろチーズ工房
ホタテの貝柱のように、かむほどに旨味がしみ出す一口サイズのチーズ。おつまみはもちろん、食べやすいのでドライブのお供にも。JAあしょろが運営するあしょろチーズ工房は、町内の放牧牛からしぼった新鮮な牛乳でフレッシュやセミハードタイプなどのチーズを作っている。

■あしょろチーズ工房

北海道足寄郡足寄町中矢673-4
TEL:0156-25-7002
WEBサイト

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