「おもてなし」のまち、上川にて

風景をごちそうに

「フラテッロ・ディ・ミクニ」が目指すのは、フレンチとイタリアンを融合させた「世界に通じる北海道料理」(写真提供:フラテッロ・ディ・ミクニ)

三國清三シェフ。増毛町出身。フランス料理の世界的シェフに、どこか親しみを覚えてしまうのは、やはり並々ならぬ北海道愛を感じるからだろうか。三國シェフと上川町。そこに、縁は無かったけれど、「北海道のために」という思いが“つながるチカラ”になった。
森由香-text 伊藤留美子-photo

ふたたび、町を輝かせるために

「ミシュランガイド北海道2017特別版」が、5月に発売された。12年版が発行されてから5年ぶりとなる刷新版だ。上川町の「フラテッロ・ディ・ミクニ」は初掲載。2013年7月のオープン以来、“北海道”にこだわり続けてきたレストランの掲載は誰もが納得するところだろう。

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上川町の景勝地「旭ヶ丘」に建つレストラン。扉をくぐると、この場所ならではの眺望が広がる(写真提供:フラテッロ・ディ・ミクニ)

標高600mの旭ヶ丘に建つレストランは、その眺望も“ごちそう”だ。大きな窓から見えるのは、大雪連峰の美しい山並みと、広大な畑や牧草地。農業の営みを目の前に、大地の恵みを味わうことができる。
景勝地の旭ヶ丘をベースに、上川町の観光をふたたび輝かせる構想がスタートしたのは10年前。まちの未来を熱く語る佐藤芳治町長の依頼に、「北海道の役に立つことであれば」と三國シェフが快諾し、花と食をテーマにする「旭ヶ丘プロジェクト」が動き出した。

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レストラン内は、地元のナラやトドマツを使った「旭川家具」をベースにコーディネート

「フラテッロ・ディ・ミクニ」はレストランであると同時に、上川町が掲げる『おもてなしのまち』を実践する場にもなっている。町民向けのおもてなし研修会では、レストランのシェフやスタッフが講師となり、コース料理の提供やサービスをレクチャー。ほかの町にはない体験を通して、おもてなしの意識を町全体に広めることが狙いだ。
今年の冬はレストランをクローズし、層雲峡温泉へシェフとスタッフが出向いた。3つのホテルを20日間ずつ回り、レストラン内に「ミクニ・ブース」を展開。宿泊客に三國シェフの味を提供し、冬の層雲峡をおおいに盛り上げた。同時に、ホテルの料理人やスタッフと交流を図り、上川町観光の「おもてなしと食」のレベルアップにつなげる一歩としたのだ。

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窓からの眺めは大雪連峰と広大な畑。同じ敷地には「大雪森のガーデン」がある雄大なロケーション(写真提供:フラテッロ・ディ・ミクニ)

 

東京から来たシェフの決意

「フラテッロ・ディ・ミクニ」の運営には、北海道イタリアンの第一人者と知られる堀川秀樹シェフも協力している。三國シェフと堀川シェフは、フレンチとイタリアンを融合させた「世界に通じる北海道料理」を目指し、その料理を任されているのがグランシェフの宮本慶知(みやもと・よしとも)さんだ。
東京四谷のイタリアンでシェフを務めていた宮本さんは、三國シェフの言葉で上川町への移住を決意したという。
「上川町は北海道のほぼ真ん中、いわば心臓部分。日本海からも、オホーツクからも、十勝からも食材が集まる。料理人にはとても面白い場所だよと言われました」。

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「フラテッロ・ディ・ミクニ」のグランシェフを任されている宮本慶知さん

病弱なわが子のために、環境の良いところへの引っ越しを考えていたこともあり、家族で話し合い決断。上川町に移り住み、厨房に立つようになると、三國シェフの言葉通り、「食材の力強さ」を実感したそう。
「食材がいいので、手を掛けすぎないようにしています。夏の定番になった『とうもろこしのスープ』は、茹で汁と実だけでつくります。朝もぎのとうもろこしはスピード勝負。すぐに調理することで、素晴らしいひと皿になる。以前が足りない味やコクを重ねる料理だとすると、いまは食材を生かして、意外な組合せを楽しんでもらう料理になりましたね」。

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生産者の畑に出かけ、その声を聞いた料理人が、季節のメニューをつくりだしていく(写真提供:フラテッロ・ディ・ミクニ)

宮本さんの子どもは見違えるほど元気になり、家族で過ごす時間も増えた。生産者の畑に出かけ、自ら山菜も取りにいくようになった。「東京では考えられなかったことが、いまは日常になっています」。
今後、つくってみたい料理を聞くと、「町に新しい酒蔵ができたので、日本酒に合うコースをぜひ考えたい」という答え。緑丘蔵の川端杜氏も、「料理によく合う食中酒がテーマ」と言っていたことを伝えると、「そうですか」と宮本シェフはうれしそうに笑った。

雪が降る頃には、上川町でしか味わえない、「日本酒とのマリアージュコース」がお目見えするかもしれない。期待に満ちてレストランから帰ろうとすると、ここでも「かみっきー」を発見!次回は、町で大活躍のかみっきーとカミレンジャーについて。

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町内のあらゆるところで「かみっきー」を発見。愛されぶりがよく分かる

フラテッロ・ディ・ミクニ
上川町旭ヶ丘に、2013年7月7日オープン。ランチ、ディナーともに2つのコースがあり、上川を中心に道内各地から集めた食材で「北海道料理」を提供。同じ敷地内に4棟のヴィラがあり、宿泊客は夕食と朝食をレストランで楽しむことができる。
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