2大学のコラボでカフェの新メニューを開発! 江別市教育委員会の声掛けで始まった産学官のワークショップ

大学の枠を超えた共同作業に取り組んだ、北海道情報大学&酪農学園大学の学生たち

江別市は北海道情報大、札幌学院大、酪農学園大、北翔大と4つの大学があり、人口12万人のうち1万人以上が大学生という、学生比率の高いまちである。にもかかわらず、アパートとキャンパス、JR駅やバス停を移動するだけで、江別のまちをよく知らないまま卒業してしまう学生も少なくないらしい。
せっかく4年間を過ごすのだから、学生にもっと地域を知ってほしい、地域でも大学生のパワーを生かしてほしい。そんな思いから始まったのが、北海道林木育種場旧庁舎のカフェRinbokuの新メニュー開発ワークショップである。
井上由美-text 黒瀬ミチオ-photo

歴史的建造物を活用したカフェRinboku

新メニュー開発の舞台はサッポロ珈琲館Rinboku。野幌森林公園の北端の高台に建つ北海道林木育種場旧庁舎を改装したカフェである。
この建物は1927(昭和2)年に内務省北海道庁所管野幌林業試験場として建築された歴史的に貴重なもの。庁舎としての役目を終えたあと、江別市が国から土地・建物を購入し、保存・活用事業者を公募したところ、これに応じた(株)珈房サッポロ珈琲館が本社を移転。2022(令和4)年5月に直営カフェRinbokuをオープンした。

北海道林木育種場旧庁舎。柱や梁をあえて露出させたハーフティンバー様式。国の登録有形文化財

建物を所管する江別市教育委員会では、この存在を学生にも広く知ってもらおうと、北海道情報大学経営情報学部の藤本直樹教授の協力を仰ぎ、市内4大学の学生を対象に施設の有効活用や情報発信についてアイデアを出してもらうワークショップを令和4年度から開催してきた。
3年目となる令和6年度は、これまでの話し合いの中で出た「学生による新メニュー開発」に取り組んでみたいと、教育委員会の朝倉麻沙美さんが藤本教授に相談。
地域活性化や地域資源の活用をテーマに研究している藤本教授のゼミ生と、管理栄養士を養成する酪農学園大学農食環境学群の小林道准教授のゼミ生がコラボして挑戦することに決まった。

 

教育委員会の声掛けで、2大学のゼミがコラボ

2024年8月、新メニュー開発に参加する両大学の学生たちが初めて顔合わせ。「Rinbokuの厨房で調理可能なメニュー」かつ「コーヒーと相性のいいもの」「江別らしいもの」というミッションが伝えられた。
情報大と酪農学園大のメンバーをミックスして5グループに分け、あとはそれぞれLINEなどで連絡を取り合いながら自主的に進めてもらうこととした。教育委員会は試作用の食材にかかる予算を用意、大麻公民館の調理室を使えるように便宜も図った。

最終発表会の日は朝から調理室に集まってグループごとに試食品づくり

とはいえ大学も学年も異なるメンバーの共同作業。学生もたぶん戸惑ったのではないだろうか。スケジュールの調整、役割分担、試食や改良、プレゼンの準備など、いくつものハードルを乗り越えて、半年後の2月5日、最終発表会へとこぎつけた。

会場は大麻公民館。学生たちは調理室に集まって試食品を手際よく調理し、4人の審査員を前に堂々とプレゼンテーション。パワーポイントのスライドを用意して、メニューのネーミングからコンセプト、こだわりのポイント、レシピ、想定の提供価格や原価率まで、分かりやすく説明した。
若者らしくSNS映えを意識したり、管理栄養士を目指す学生だからか栄養価や食塩相当量まで詳しく紹介したグループもあった。

スライドを使って、説得力のあるプレゼンテーションをする学生たち

審査は4名が実際に試食をし、いくつもの項目ごとに採点

最優秀作品はカフェRinbokuで商品化

「江別の恵みスコーンプレート」や「米粉のキャロットケーキ」など、趣向を凝らした料理が並ぶなか、味わい・実現性・見た目のインパクト・斬新さ・江別らしさなどを考慮して最優秀に選ばれたのが「ワッフルのクロックムッシュ風」。
鍋を使わず電子レンジでベシャメルソースをつくり、江別産のブロッコリーを合わせて、ワッフルをボリューム感のある軽食に仕上げた。

5作品のうち最優秀に選ばれたのは「ワッフルのクロックムッシュ風」

審査員を務めたサッポロ珈琲館の伊藤社長は「ワッフルをスイーツ系ではなく食事系にアレンジした点が斬新。3月中旬を目途に実際にメニュー化したい」と絶賛。ほか4グループの作品も「目の前でソースをかける演出や季節ごとのトッピングのアレンジなど、いずれも実現可能なアイデアばかり。採点は僅差だった」と高く評価した。

「調理の簡便性や季節のアレンジなど、店の運営を考えた具体的な提案に驚きました」と、
サッポロ珈琲館の代表取締役社長、伊藤仁さん

食材の調達やマンパワーの問題があるため、最優秀作品であっても実際に店舗で採用されるかどうかは分からない、と聞いていた学生たちは、伊藤社長の即断即決に驚き「メニュー化されたら、ぜひ食べに行きたい」「行ったときは安くしてほしい」と、うれしそうな表情を見せていた。

今回のワークショップを指導した情報大の藤本教授は「社会に出たら、さまざまな人と相談しながら仕事を進める場面はたくさんある。大学の枠を超えたグループワークはとてもいい経験になったと思う」とコメント。
一方、酪農学園大学の小林准教授は「我々は栄養や調理に詳しくても、プレゼンなどのアウトプットは専門的に学んでいない。今回はお互いの長所を発揮でき、いい刺激になったのではないか」と、コラボの手応えを語った。

左から北海道情報大学経営情報学部先端経営学科の藤本直樹教授、酪農学園大学農食環境学群 食と健康学類の小林道准教授

学生地域定着事業「ジモガク」の取り組み

民間企業と大学研究室のコラボはよくあるが、今回のように行政が間に入って、市の事業として行うケースは数少ないのではないだろうか。
ワークショップを主導した教育委員会の朝倉さんは、こうした取り組みがスムーズに運ぶ背景には「江別市が10年前から取り組んでいる『ジモガク』の積み重ねがある」と打ち明ける。今回の企画も江別市企画政策部で大学連携を担当する山口竜大さんに相談したことで、2大学の連携が円滑に進んだ。

江別市教育委員会生涯学習課の朝倉麻沙美主査(文化振興担当)と、江別市企画政策部企画課の山口竜大主査(大学連携担当)

山口さんはこう話す。
「『ジモガク』は市内にある4大学の学生に登録してもらい、近隣8市町の地域活動への参加を促すマッチング支援の取り組みです。10年前、地方創生の交付金を使い、学生地域定着事業として始まりました」

山口さんによると、江別市では毎年2000〜2500人が大学を卒業するが、江別で就職するのはわずか2%、50人ほどに過ぎないという。
キャンパス周辺だけではなく、もっと広く地域を知ってもらい、将来の働き方や生き方の選択肢を広げてもらおうというのが「ジモガク」のねらいである。

芦別市・赤平市・三笠市・南幌町・由仁町・長沼町・栗山町とも連携し、地域のお祭りのボランティアスタッフや、夏休みの子どもたちに勉強を教える講師役、駅前のイルミネーションの設置の手伝いなど、年間100以上のプログラムへの参加が、メーリングリストを通じて学生に呼びかけられる。距離が離れている場合は学生を現地まで送迎するなど、サポートも手厚い。

情報大の藤本教授は、こう証言する。
「私は10年前に4大学の先生方で相談しながらジモガクを立ち上げた初期メンバーですが、行政に大学連携の担当者を置いているところはなかなかないと思います。私のゼミナールはまちづくりや地域活性化の支援がテーマですので、行政に相談できる窓口があるのはありがたい。調査研究に補助金をいただいたり、連携をとりやすいのは江別の良さだと思います」

ジモガクへの参加も年々、学生に広がってきているという。
「実はいまジモガクの登録学生が631人で、過去最多なんです。コロナ禍で地域活動がほとんど中止になった時期もありましたが、こうして地域で活動したいという学生が増えているのはうれしい限りです」(山口さん)
一度や二度ではなく、何度も繰り返し参加してくれる「ガチ勢」も増えているらしい。

学生はさまざまな地域活動に参加して、いろんな人に出会い、社会貢献の価値を実感できる。人手不足の地域では大学生の若い力を借りられる。そして自治体は学生に地域の魅力を知ってもらうことができる。
参加者みんなにメリットがある、三方よしのプロジェクト「ジモガク」。
労働の対価として賃金をもらうアルバイトとは別に、自主的な活動で誰かに喜んでもらった経験があるかないかは、将来の選択にも少なからず影響するのではないだろうか。


サッポロ珈琲館Rinboku
北海道江別市文京台緑町561-2
TEL:011-376-0820
営業時間:9:30~18:00(ラストオーダー17:00)
定休日:月曜日
※月曜日が祝日の場合は月曜営業、翌火曜日が休み

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