
壺屋総本店・本社工場の心臓部「あん場」にて。白い帽子の写真左から、あんこ職人の黄金幸司さん、田中隆幸さん、岡田知士さん、手前の青い帽子は工場長の永宮薫さん

壺屋総本店・本社工場の心臓部「あん場」にて。白い帽子の写真左から、あんこ職人の黄金幸司さん、田中隆幸さん、岡田知士さん、手前の青い帽子は工場長の永宮薫さん
ANCO+プロジェクトは2025年2月、工場長の永宮薫さんが中心となって始まった。きっかけは、ちょっと当たり前の発見だった。
「会社が創業100周年を迎えることもあり、社内で『壺屋総本店の強みは何か?』を掘り下げて考える研修会がありました。私たちのチームでは、会社の歴史を調べたり、社内のいろいろな人に話を聞いたりして考えた結果、『壺屋はあんこが美味しいよね』ということにたどり着きました」と永宮さん。看板商品「壺もなか」をはじめ、壺屋の和菓子の基本となるあんこ。いつも変わらず美味しいのが当たり前すぎて、その存在の大きさをつい忘れがちだった。

1933(昭和8)年に創業5周年を記念して発売した「壺もなか」。以来、製法を変えずに作り続けている
その後、全従業員が集まる新年会で「壺屋のあんこが好きな人は?」と聞くと、ほとんどの人が迷わず手をあげた。さらに自信を深めた永宮さんたちは、あんこのブランディングチームを結成する。「ただ懐かしいだけじゃなく、新しい食べ方を提案して、多くの皆さんにあんこの魅力を知っていただきたいと思いました。壺屋の企業理念は『甘味求真』というのですが、それに通じるイメージで、私たちのテーマは『餡子知新』です」

本社工場・工場長の永宮薫さん。自身は洋菓子職人で、全国的なコンクールで入賞する腕前をもつが「食べるのは和菓子が好き」
社内でチームのメンバーを募ると、製造、販売、企画などの部署から10名が集まった。アイデアを出し合って最初に作った商品は、その名も「どら焼き弁当」。折詰めに、どら焼きの皮4個分と粒あんがたっぷり入り、自分ではさんで食べる斬新な商品だ。

2025年2月に発売したANCO+の第一弾商品「どら焼き弁当」(写真提供:壺屋総本店)
「壺屋では昔から家族団らんを大切にしていて、家族や仲間が集まった時に食べてもらいたいという思いがあります。ANCO+もその原点に立ち返り、みんなで楽しめるお弁当スタイルを考えました」。さらに2025年9月に札幌で開催された「あんこ博覧会」でバージョンアップした「あんこ弁当」を販売すると、可愛らしいビジュアルと確かな美味しさがSNSでも反響を呼び、連日売り切れとなった。

丸井今井札幌本店の「あんこ博覧会2025」で販売した「あんこ弁当」。粒あん、白あん、白玉、黒みつが入り、好みの食べ方が楽しめる(写真提供:壺屋総本店)
ANCO+の商品は、あんこ自体に大きな特徴がある。オリジナルのあんこを考案した宮林優さんに話を聞いた。
「もともと『大雪どらやき』という定番商品があって、それと全く同じでは変化がないので小豆の種類や材料の配合、炊き方などを変えて何度も試作しました。以前から甘いだけでなく『豆の味がするあんこ』を作りたいと思っていて、ふつうはあんこを食べても豆の味を感じないことが多いですよね。それを何とか出したいと考えました」

本社工場の菓子職人、宮林優さん。和菓子を中心にいろいろなお菓子を製造し、商品開発にも積極的にかかわる。近年好評だったのは季節限定品の「あんマドレエヌあまずっパイン」
試行錯誤のすえ、あんこ職人の黄金幸司さんと一緒に編み出したのが、小豆を渋切り(アク抜き)する際に捨ててしまう煮汁を取っておき、あとで炊く時に少しずつ加える方法だった(通常は小豆を煮た汁を一度捨て、新しい水を入れて煮る作業をくり返したのち、砂糖などを加えて練り上げる)。煮汁に溶け出た「豆の味」を生かすことにしたのだ。
ANCO+ではお弁当シリーズのあとも、シフォンケーキ、おはぎ「あんむすび」、たい焼き、おしるこなど、次々と新商品をリリースしている。販売は今のところ「工場祭」や「き花まつり」などのイベントや、お彼岸などの季節限定が中心だが、今後は旭川や札幌の直営店、オンラインサイトでも購入できる定番商品を考案中とのこと。最後に、永宮さんがこう話してくださった。
「壺屋の伝統の技術と北海道産の良質な原材料、それに新しい発想を加えて、魅力的な商品を生み出し、発信し続けたいと思っています。そして、皆さんから愛され続ける壺屋でいたい、というのが私たちの願いです」

2025年4月の「き花まつり」で販売した「抹茶シフォン」。濃い抹茶と練乳の組み合わせが好評だった(写真提供:壺屋総本店)

今年4月の「き花まつり」で販売した「おしるこ」もANCO+特製あんこを使用している。ほどよい甘さと豆の味がやわらかな白玉によく合う(撮影:石田美恵)
工場で自慢のあんこ作りを見せていただいた。この日は「壺もなか」に使うあんこ。壺屋ではお菓子によって使う小豆の種類、仕上がりの固さ、糖度、風味などを細かく作り分けている。また、製餡所から仕入れるのではなく、手間と時間をかけて自社工場で作る最大の特徴は、できるだけ「使う分ずつ」炊くこと。あんこは時間が経つにつれて固さや風味が変わるため、常に大量生産せず、ベストな状態で次の工程につなぐことが、美味しさのポイントとなる。
作業にあたるのは3名の職人で、責任者をつとめるのは職人歴38年のベテラン、黄金幸司さん。以前は旭川市内の製餡工場に勤め、壺屋のあんこも一部製造していた。ちょうど壺屋で長年勤めていた前任者が退職し、次の職人を探していた時期に黄金さんが以前の製餡所を退職し、縁あって入社したのが8年前のこと。さまざまなあんこを作り続けた経験から、「こんなあんこを作りたい」と相談されると、材料の配合や作り方がパッと頭に浮かぶという。今では永宮工場長から「壺屋の宝」といわれ信頼も厚い。
工場の製造はいつ頃が忙しいか尋ねると、「年末が一番で、卒業や入学のシーズンも紅白まんじゅうで忙しいです」と教えてくれた。あんこの消費は、人が集まる時期やお祝いの季節に増える。うれしい日、特別な日、私たちの人生にはやっぱりあんこが欠かせない。

旭川生まれ、旭川育ちのあんこ職人、黄金幸司さん。あんこのことなら、何を聞いても分かりやすく答えてくださる。「これからの僕の仕事は、次の世代の若い人に仕事を伝えること」

小豆の中まで糖分が浸透するように、前日に煮て一晩蜜に漬けておいた「大納言小豆」。大粒でピカピカと光っている

銅鍋に水と白ザラメを入れ、約2時間かけて煮詰めたところに、蜜漬けの小豆を加え、粒がつぶれないように混ぜながら加熱していく

釜はガスの直火式、焦げないように細かく火加減を調整する。「蒸気式も使いますが、直火のほうが豆に火を入れるのに、いい入り方をするんです」と黄金さん

1時間ほど炊くと鍋肌から煮詰まり、ツヤと粘りがでて周囲にいい香りが立ちこめる

タイミングを見て還元水飴を追加。適度に甘味を抑えながら糖度を保ち、しっとり仕上がる

そろそろできあがり。黄金さんは、へらですくって流れ落ちる筋を見て微妙な固さを判断する

約4時間後、ほどよい固さになったところで火を止め、バットに移して粗熱を取る。約60キロのあんこで1500個の「壺もなか」ができる
壺屋総本店では2027年夏をめどに、JR旭川駅の近くに本社・工場を移転し、新しい体験型施設を開業する計画がある。村本暁宣社長にこれからの展望を聞いた。
「私の祖父である創業者がこよなく愛したフレーズに『話に花咲くうまい味』というものがあって、これが壺屋の企業理念の土台になっています。そこから地元の皆さんが集まって笑顔になるシーンをつくりたいと考え、2014年に『き花の杜』というコンセプトショップをオープンしました。限定商品の販売や、き花の工場見学のほか、カフェや花屋などがあり、ご家族でゆっくり過ごしていただける場所です。次はさらに視点を広げ、旭川だけでなく、北海道、日本、そして世界の人たちが集まって、笑顔になれる場所をつくりたい。お菓子にはその力があると思っていますから」
村本さんが思いを強くしたのは、2025年に旭川で開催された「全国菓子大博覧会・北海道」での経験が大きい。菓子博には全国から26万人を超す来場者があり、混雑時は入場まで5時間半待ちの行列となったが、帰る時にはみんな笑顔になっていた。
「お菓子のもつ力を確信した瞬間で、私たちがやりたいのはこういうことなんだと再確認しました。さらに、一過性のイベントではなく、人が集まりやすいまちの中心部に地域の誇りになれるような拠点をつくり、たくさんのかたに来ていただきたい。そのために、これまでにない『体験型施設』と定義して、今いろいろなアイデアを出しているところです」
創業100周年に向けて挑戦を続ける壺屋総本店。新しい本社・工場で、より進化したANCO+にも出合えるだろう。旭川を訪れる楽しみが、また一つ増えた。

株式会社壺屋総本店 代表取締役社長の村本暁宣さん

壺屋総本店 
き花の杜
営業時間/9:30〜18:00
定休日/不定休
北海道旭川市南6条通19丁目
TEL:0166-39-1600
そのほか旭川・札幌・道央・道北エリアの店舗情報はWEBサイトでご確認ください。
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