
江別製粉を象徴する品種〈ハルユタカ〉と北海道一の生産量を誇る〈きたほなみ〉

江別製粉を象徴する品種〈ハルユタカ〉と北海道一の生産量を誇る〈きたほなみ〉
スイーツ選びで「北海道産小麦を使用」とあると、つい手が伸びる。お土産であれば、なおさら重要な選択基準のひとつになる。道産の小麦が、北海道のお菓子に当たり前のように使われるようになったのは、最近のこと。製菓用の道産小麦粉普及の立役者と言えるのが、江別製粉だ。

1948(昭和23)年創業。取り扱う小麦のうち道産は7〜8割だ
道産小麦が注目されはじめたのは、1980年代後半のことだ。輸入小麦や輸入食品に対する不安の声が一部の消費者からあがっていたことを受け、江別製粉では、1985(昭和60)年に誕生した〈ハルユタカ〉をパン用の粉として売り出した。当時は、国産小麦ではパンは膨らまないと言われていた時代。ハルユタカはこの定説を覆し、国産小麦でありながらしっかりと膨らむおいしいパンを焼くことができた。
これが道産小麦の知名度を引き上げた。生産現場では、ハルユタカは病気に弱く収量が安定しないという課題を抱えていたが、播種の時期をずらすことで解決。今では江別製粉の代名詞となっている。
さらに、製菓用の道産小麦粉が普及したのは、江別市の地域ぐるみの取り組みが大きい。江別製粉の山口小百合さんによると、きっかけは1998(平成10)年に開催された「全国焼き菓子コンペin江別」だったという。道産小麦粉でプロが焼き菓子を作り、競ってもらうことで、当時スタンダードではなかった道産小麦粉の知名度を全国に広げるねらいがあった。
コンペ開催にあたっては、江別製粉を中心に江別市内の産官学が結集した。「江別は、農家や農協など“小麦を作る”人、弊社のような“小麦を挽く”人、製麺会社やパン・菓子・飲食店など〝小麦粉を使う〟人、農業系大学や食品加工研究センターなど〝研究する〟人が揃っているのが強み。これら産官学の人々がつながり合って、地域活動として取り組んだのは、業界初だと自負しています」と、山口さんは胸を張る。

常務取締役 山口小百合さん。江別製粉では近年、小麦の連作障害対策も兼ねて、栗山町産子実コーンのコーングリッツ(トウモロコシの粉)にも取り組んでいるという
その後もコンペは形を変えながら4年ごとに開催されていたが、2014(平成26)年の「小麦フェスタ」を最後に、使命を果たしたとして終了。産官学のつながりはそのまま残り、現在も「江別麦の会」という名の組織で活動している。
小麦の品種によって、その穂はまったく異なり個性的だ。山口さんいわく、「ゆめちからは、ノギ(小麦の穂の先端から伸びる毛)が長くてワイルドな体育系男子、きたほなみは色白で上品な女子っていう感じです(笑)」。

個性豊かな北海道産小麦たち。穂先から生えている長い毛のような部分はノギまたはノゲと呼ばれる
ところで、菓子用の小麦とは、どのようなものなのだろう。山口さんに聞くと、「実は、北海道に菓子専用の小麦はないんです」という意外な答えが返ってきた。
現在、道産小麦の栽培品種は、2006年にデビューした〈きたほなみ〉が圧倒的に多くを占める。ハルユタカなどと比べて蛋白含量が中程度の、うどんなど日本麺用として開発された小麦だ。それを製菓用小麦粉に加工して使用している、というのが現状である。たとえば、江別製粉を代表する製菓用小麦粉「ドルチェ」は、おもにきたほなみを使用した小麦粉のブランド名だ。

ロール製粉機の2本のローラーで小麦を砕く「挽砕(ばんさい)」という工程(写真提供:江別製粉)

製品となった小麦粉は、工場から5分の場所にある倉庫に保管されたのち出荷される。その7割が本州へ運ばれるという
北海道は原材料の豊富さからスイーツ王国と称されるのに、なぜ菓子用小麦がないのだろう。
国内で流通している小麦のうち外国産が85パーセント。国内産は15パーセントほどで、そのうち6割以上を北海道産が占めている。小麦のおもな用途はパンや麺用であり、菓子用は全体の1割強程度しかない。そのため、国内で菓子用に特化して育成された品種はなく、アメリカから輸入した小麦を製粉したものが主流である。
しかし今年、念願だった国産、それも北海道産の菓子用品種がデビューする。その名は〈北海道白(しろ)〉。道立総合研究機構北見農業試験場が20年以上の歳月をかけて研究し、2020年に新品種・北見95号が完成。ブランド名を〈北海道白〉とした。江別製粉を含む道内の製粉会社を中心に、製菓専用小麦粉として商品化される予定だ。
「北海道の風土に合った道産の菓子用小麦で、北海道のお菓子を作るという長年の夢が、今年ようやく叶うことになります」と、山口さんもワクワクしているという。スポンジはふわっと軽く、焼き菓子はさくっと仕上がるという〈北海道白〉。生産量が少ないためその味わいを気軽に楽しめるのはもう少し先になりそうだが、近々話題になるのは間違いない。
江別製粉では、25トン単位で小麦を製粉するプラントのほかに、1トンのミニプラント「F-ship(エフシップ)」を持っているのが大きな特長だ。「自分が作った小麦を食べてみたい」という農家の声に応えて、生産者や地域ごとに粉を挽くことを可能にした。これにより、たとえば「江別市産きたほなみ」などと限定して小麦粉を製造・提供できる。
製菓用としてパティスリーで使用されている例もある。江別市内のシフォンケーキ専門店「ル・カルム」は、江別市産きたほなみの小麦粉のみを使用している店のひとつだ。

看板のシフォンケーキは、プレーンやアールグレイなど定番の5種類と、季節ごとに限定の味が登場。1カット350円〜。店内にはカフェもあり
店主の保坂みゆきさんは、生クリームなどのデコレーションがないシンプルなシフォンケーキにこだわっており、生地がとても重要になる。
始めは市販の海外産の小麦粉を使っていたそうだが、パサつくなど納得がいくものにならなかった。そこで、保坂さんは江別製粉を直接訪ねて相談し、代理店を通して手に入れたのが、江別市産きたほなみの小麦粉だった。「使ってみたら、しっとりとした食感で仕上がりが全然違いました。そして小麦の香りがするんです。定番の5種類のうち、プレーンが一番よくわかると思いますよ」。その言葉通り、口の中で小麦の香りがふわりと広がる。シフォンケーキのおいしさは、口溶けの良さだけではないと気付かされる。

右から、「ル・カルム」店主の保坂みゆきさん、娘でスタッフの佐々木美晴さん。趣味で作っていたシフォンケーキが評判になり、2009年にお店をオープン。店内には、江別製粉の道産小麦粉使用店の証が飾られている
ほかにも太田ファームの卵や、まちむら農場の牛乳など、「地産地消として、なるべく地元の江別産の食材を使っています」と保坂さん。約30年前、江別製粉が小麦粉から地産地消を目指した地域ぐるみの取り組みは、確実に形となっている。
江別製粉の山口さんは、「お菓子の中で小麦粉という素材は地味ですが、『粉が違うだけでこんなに味が変わるのか』という声をよく聞きます」と言う。裏方として目立たないけれど、お菓子には欠かせない小麦粉の世界は、想像しているより広くて深く、おもしろい。

農作物の袋でバッグを作る山形県のクラフト作家・Tagagube(たがぐべ)さんは、江別製粉の小麦粉袋のデザインに注目しバッグを制作している

(写真提供:江別製粉)

北海道白
WEBサイト

Le Calme(ル・カルム) 
営業時間:10:30〜16:00
定休日:日曜・月曜
北海道江別市新栄台45-12
TEL:011-385-7799
WEBサイト
※江別市内はËBRI(エブリ)、町村農場売店などでも販売。週末は、きたキッチン新さっぽろ店、くるるの森(北広島市)で販売あり
※2026年6月14日(日)「てしごと市 inつどーむ Vol.20」に出店決定!