好きになると、知りたくなる。
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映画と北海道をつなぐコラム「映画と握手」。
観た方歓迎、観てない方大歓迎!
新目七恵-text & Illustration
第2回

「馬喰一代」

「馬喰(ばくろう)」とは、馬の売り買いを商いにする人のこと。
この映画を観るまで、私はその存在すら知らなかった。

人やモノを運んだり、畑を耕したり…。開拓時代、馬はまさに人の“相棒”。馬喰は、百姓に農耕馬を斡旋するほか、獣医や装蹄師の役割を担う場合もあり、地域で頼られる存在だった。が、その反面、馬を買い叩いたり、食肉業者に売ったりもしたので、嫌われがちな商売でもあったそう。

映画『馬喰一代(ばくろいちだい)』は、馬喰の仕事に一途な男・米太郎(三船敏郎)の野生的な生き様と、一人息子への愛を描く物語だ。主人公のモデルは、原作小説を書いた作家・中山正男の実の父親。明治から昭和にかけ、北見で馬喰として生きた、その名も米太郎氏である。
中山の遺したエッセイを読むと、実在の米太郎氏は映画以上に豪傑で情の深い人物だったよう。そんな父を愛し、尊敬した息子の思いが小説となり、映画を生んだのだ。

映画の冒頭に出てくる“馬の競り市”は、かつて道内各地でよく見られた風景。それを意味する「馬市(うまいち)」は、秋の季語にもなっている。

映画は当時大ヒットし、翌年には続編が公開。1963年には、三國連太郎主演でリメイクされた。
これほど人気を博した背景には、馬と人の暮らしが、今よりずっと近かったことがあるのではないだろうか。

北海道で馬喰が活躍したのは、開拓が始まった明治初期から車が普及する1960代後半までの約100年間。この作品に描かれたように、馬喰の仕事を継ごうと思いながらも、父に説得されたり、時代の流れで断念した方もいただろう。考えてみれば、彼らの多くは、本当に一代限りだったのだ。

時代を駆け抜けた馬喰たちの魂が、映画には確かに刻まれている。


原作者・中山正男(1911-1969)の故郷・北見市留辺蘂には、地酒「馬喰一代」と、その地酒を使った酒まんじゅう「馬喰一代」がある。地酒「馬喰一代」はキレの良い辛口。一方、酒まんじゅうは酒粕の香りに白あんがぴったり。

地酒「馬喰一代」(1800ml・2300円 720ml・1200円など)
●高野商店(北見市留辺蘂町東町44、TEL:0157-42-2024 FAX:0157-42-4747)
WEBサイト(※通販もあり)

酒まんじゅう「馬喰一代」(1個110円、6個650円)
●大雪庵製菓(北見市留辺蘂町温根湯温泉385、TEL:0157-45-2502)
※通販もOK。詳しくはお問い合わせを。

「馬喰一代」1951年/木村恵吾監督/出演・三船敏郎、京マチ子、志村喬ほか/114分

新目七恵(あらため・ななえ)
札幌在住の映画大好きライター。観るジャンルは雑食だが、最近はインド映画と清水宏作品がお気に入り。朝日新聞の情報紙「AFCプレミアムプレス」と農業専門誌「ニューカントリー」で映画コラムを連載中。

ZINE「映画と握手」
新目がお薦めの北海道ロケ作品や偏愛する映画を、オリジナルのイラストと文で紹介するA3四つ折りサイズの手作りミニ冊子。モノクロ版は、函館の市民映画館「シネマアイリス」、札幌の喫茶店「キノカフェ」、音更のカフェ「THE N3 CAFÉ」で随時配布中。

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