「おもてなし」のまち、上川にて

旭ヶ丘に咲いた花

大雪山系を望む標高600mの旭ヶ丘エリアに、約700品種の花を咲かせる「大雪森のガーデン」。春から秋へ、次々と表情を変える広大な庭は、北海道の魅力が凝縮されたような空間にも思える。まちの未来を描き、まちとともに育ってゆく、5年目のガーデンを訪ねた。
森由香-text 伊藤留美子-photo

2つのテーマの庭が楽しめる「大雪森のガーデン」。色彩豊かな「森の花園」エリアは、上野ファームの上野砂由紀さんがデザイン(写真提供:大雪森のガーデン)

10年前に芽吹いたプロジェクト

食、景観、ドライブ…、北海道の新しい観光コンテンツとして注目されているのが「ガーデン」だ。じつは、北海道のガーデンは、2015年の国際ガーデンツーリズム賞を受賞している。世界に認められたのは、2009年からスタートした「北海道ガーデン街道」、その後に続く「ガーデンショー」の一連の事業。北海道は花咲く期間は短いが、季節で異なる花が次々と咲き、景色を一変させる独自の魅力があるという。

北海道のガーデンムーブメントを見ると、イングリッシュガーデンが紹介され、ガーデニングブームが始まったのが2000年頃。上野ファームをはじめとする公開型ガーデンが開園し、北海道を美しい庭園の島にしようと、「ガーデンアイランド北海道」の道民運動がスタート。そして、2008年にドラマ「風のガーデン」が放映され、ガーデンの認知度は一気に高まったと思われる。

2013年にオープンした「大雪森のガーデン」(Daisetsu Mori-no Garden)は、新しいガーデンだが、その構想は10年前にさかのぼる。上川町の景勝地の「旭ヶ丘エリア」に、町の未来を描いた壮大なプロジェクトが「ガーデン」だった。3.3haの広大な敷地の中に、景観と森を生かした多彩な庭をつくり、三國清三シェフがプロデュースするレストランとヴィラも併設。上川町の“観光”を再び輝かせ、「おもてなしのまち」へと深化させるプロジェクトだ。

旭ヶ丘エリアの運営・管理は、町と民間による「NPO旭ヶ丘」が担うスタイルも新しい。NPO旭ヶ丘の理事長を務める谷博文 副町長は、「ガーデンはようやく5年目を迎えたところ。多くの人に楽しんでもらうには、つねに変化が必要な場所です。町の未来に続くガーデンなので、町民みんなが『自分の庭』と思って育ててもらいたい。実際に、町民ボランティアの皆さんが、植栽の手伝いや清掃活動も行っています」と力を込める。

大雪森のガーデンは、層雲峡温泉と市街地を結び、町全体を活性化させる役割も担う。そこから掲げられたのが「おもてなしのまち」だ。
「毎年、全町民に呼びかけて、町内の花壇を整備します。花いっぱいの町でお迎えする“おもてなし”のひとつ。こういう活動を町民みんなで実践していくことに意義があります」と、産業経済課課長の昔農正春(せきの・まさはる)さん。
親戚やお客さんが来た時は、うちの庭を自慢するように、ガーデンへ連れていく。そんな町民の姿が自然に見られることも、「大雪森のガーデン」の特徴になっていく。

見るから体験するガーデンへ

「ガーデンは、興味のある人と無い人が分かれる観光コンテンツです。ファミリーやグループ、海外からの観光客、多くの人に楽しんでもらうガーデンにするにはどうすればいいのか。そこが、つねに課題です」と、話すのはNPO旭ヶ丘事務局長の若松章彦さん。

大雪森のガーデンでは、この春から新しい「おもてなし」がスタートしている。毎週日曜に開催される体験ワークショップだ。
「今までもイベントの時などに体験型プログラムはやっていましたが、毎週開催することで、『いつか行こう』が『次の日曜に行こう』という動機づけになるのではと考えました」。
薪割り&ピザ作り体験、木枝のボールペン作り、葉っぱスタンプのエコバック作りなど、花や森をテーマにしたプログラムが週替わりで体験できる
「体験したこと、ふれあいから感じたこと、何かを持ち帰ってもらえれば。『来てよかった』と満足度を高めることが、ガーデンのおもてなしだと思っています」。

若松さんが「そういえば」と、ショップから箱を持ってきてくれた。松ぼっくりをデザインしたガラス製のネックレスで、「HARIOランプワークファクトリー」が「大雪森のガーデン」をイメージして作ったオリジナル商品だという。ペンダントの中にオイルを入れると、体温で気化して香りに癒されるアロマネックレスで、そのオイルが「下川町産」なのだ。
「去年の夏に完成したばかりで、販売はガーデン内のショップだけ。旭川家具とコラボしたコーヒーメーカーもあります。こういうオリジナル商品も、今後はもっと考えていきたいですね」。

今回の特集テーマは「上川町と下川町」。思いがけず、現場でのコラボはすでに始まっていた。しなやかな発想が、まちの豊かさを創る。そのきらめく原石を見せてもらったような気がする。次回は、風景も“ごちそう”にする、旭ヶ丘のレストランについて。

大雪森のガーデン

総面積約3.3ha。起伏のある地形や森を生かしてデザインされた「森の迎賓館」、大雪山の高山植物や北海道の自生種などを植栽した「森の花園」、2つのテーマの庭が広がる。「北海道ガーデンショー2015大雪」では、メイン会場として多くの人を迎えた。2017年の開園は10月15日まで。
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