人と森が育むまち。
大河のひとつは北に向かい、もうひとつは南に下る。
天塩川と石狩川。
北海道を形づくるこの巨大な水系の上流域には、個性豊かなふたつのまちがある。ともに全国への知名度は高くはないが、名前を下川町、そして上川町という。
ふたつは河の下流と上流にあるのではない。まちの成り立ちはそれぞれ、北海道ならではの雄大なスケールをもつ別々の水の体系が作った森と大地に由来している。
両町にはたくさんの共通点がある。
例えば、小さなまちから世界に飛び出したスキージャンプ競技の名選手たち。下川からは岡部孝信、葛西紀明、伊東大貴、伊藤有希選手らが出て、上川からは原田雅彦、高梨沙羅選手などの名前があがる。
食の分野で名高いのが、下川のうどんと上川のラーメンだ。
さらにあらゆることの基盤になっているのは、どちらも、北見山地や大雪山系が育む豊かな森林。明治の開拓期から、人と森が強く関わり合ってまちを作ってきた。
カイは、このふたつのまちの個性や共通点を確かめてみようと思う。そこから、社会の深みでいま起こっている何かが見えてくるはずだ。
「中央」から分断されていくばかりの地域が、人々の共感や協働によって対抗する力を育み、外に向けて果敢に働きかけていく。そのリソースや切り口となるのが、自然エネルギーや食、そして観光の取り組みだ。
地域が深いところから外に開かれてネットワークを結び、自らの意志と新しい技術によって、強くしなやかに変わっていく。その現場から見えるのは、公共(コモンズ)や共有(シェア)、包摂(インクルージョン)といった、多くの人々がいま学びなおそうとしている営みの価値だ。
谷口雅春─text 露口啓二─photo