「焙煎機もキッチンカーもステンレスの強みを生かす」
vol.26白石製作所 吉田 元海(よしだ・もとみ)さん/札幌市 開拓期は北海道庁本庁舎などに使われた白石レンガ、大正期は初の国産貯炭式ストーブを生み出した白石。その地に、創業70年の板金工場「白石製作所」がある。起業した頃は、鉄道以外の運搬手段は馬車しかなかったので馬具を製造していた。時代の流れを読み取り鉄骨加工に移行、やがてステンレス製のタンク、乳製品製造設備、厨房設備などを手掛ける板金工場になった。特集で取材した「焙煎研究所」の焙煎機は、この工場で製造されていると知り、そのモノづくりの現場をのぞかせてもらった。
70歳代のベテラン職人と開発した焙煎機
白石製作所が開発した焙煎機は、この7年間で57台売れた。半分はカフェやコーヒー豆をネット販売する商用だが、半分は個人的な趣味用だ。フライパンに網を取り付けた焙煎道具や手煎り焙煎器なら数千円、ボタン一つでコーヒーを焙煎できる熱風式も数万円から購入できる。つまり、それでは満足できない人々の目に留まったのが、この本格的な家庭用焙煎機である。
開発のきっかけは、遠赤外線で豆を焼く焙煎機を依頼してきた喫茶店用で、当初は素材のステンレスが大きなネックになった。一般的なブタ窯と呼ばれる直火式焙煎機のほとんどは断熱性がある鋳物製。それに比べてステンレスは薄いので、どんどん熱が外へ逃げて豆が焼ける温度まで上がらない。試行錯誤の末、断熱材のグラスウールを使うことで熱を確保した。白石製作所三代目社長の吉田元海さんは「鋳物だと外注になりますからね。自分たちで考えて設計し、どうしてもステンレス加工で完成させたかった。悩んだのは断熱性だけ、構造的なことは全く苦労していない」という。
商品として完成したのは、2㎏のコーヒー豆が焼ける焙煎機3号。だが、大きすぎて家庭用には向かず、価格も100万円付けなければ元が取れない。このままでは普及できない展示品のままだ。そこで、焙煎できる量を500ℊまで落し、家庭用に小型簡易化したのが4号機だ。ステンレスなので庭に置けるし、軽量なので持ち運びもしやすい。「キャンプ場でも、ミルで挽いてコーヒーを飲むことは広まっていますよね。同じように豆を前日に焙煎して、翌朝に飲んでみてはどうか…」と提案するために、キャンプ場のイベントにも積極的に参加している。
ちょうど、焙煎機担当の職人・山代了(やましろ・さとる)さんが昼休みから戻ってきたので、話を聞いてみることにした。「俺、ここは長いの。とっくに定年を超えているんだけど、社長がもう少し顔を見たいからって、この焙煎機をやり始めたの。改造して、改造して、今の形に落ち着くまで3年掛かったかな。1号機をつくったのは7年ほど前。あらら撮るの?モデル代高いよ」と笑えば、すかさず「顔、洗ってきたか?(笑)」と吉田社長が突っ込む。職人と社長との関係も親子のようで微笑ましい。「俺は中卒でこの道に入ったの。初代の盛義さんの時代から働いている。ステンレスをこの会社に持ち込んだのは、俺たちなんだ。若い頃は、5トンタンクも一人でつくっていたんだよ」と懐かしむ。「無理難題が大好物」と言うベテラン職人が手がけた焙煎機、本体のみ10万円でも決して高くないと感じた。
移動型フライヤーを搭載したキッチンカー
白石製作所の製品は9割以上がステンレス製で、食品工場の設備が多い。特殊車両の部品や医療系の製品も製造しており、下請け作業がほとんどだ。「だから余計に、他社には出来ないことをしたい。ステンレスは硬く、専用の機械がなければ加工しにくい素材。今、ステンレスの加工技術を駆使して試作しているのがキッチンカーのコンテナ。うちなら車屋さんが真似できないものも出来る」と吉田さん。
現物を見ながら解説してもらうと「揚物をする一般的なフライヤーは、厨房に置いて使う設置型。祭りなど野外のイベントでフライヤーを使うと、熱した油が冷めるまで後片付けができない。キッチンカーも同じで、フライヤーに蓋をしてもパッキンからもれてくるし、車が動くと油が跳ねるので危険。それを改善するために、移動型のフライヤーを開発しました。まず、揚物をするフライヤーの下に密閉容器となる第1槽をつくる。バブルをつけているので、帰るときはそこから下に油を流します。さらに第2槽を下につくり、1槽と2槽の間にフィルターをつけて濾過します。一晩かけて濾過した油を今度使う時にポンプで上のフライヤーに上げてやれば、きれいな状態でまた使えるわけです」
すごい! すごい! 説明を聞く側も、なんだか興奮してくるではないか。コンテナタイプのキッチン部分を製造する会社は道外にもあるが、この移動型フライヤーは白石製作所のオリジナルだ。「僕らがつくるのはあくまでもコンテナ部分。降ろせば、軽トラとして使えます。今、キッチンカーに焙煎機を載せてほしいという依頼も受けています。元受けの仕事に左右されずに売り上げを安定させるには、自社製品を自分たちで開発する必要がある。焙煎機がその第一歩。自分たちの足で歩いていける会社にするために、これからも新しい自社製品を作っていきたい」と、三代目らしい表情を見せてくれた。
適材適所に腕利きの職人がいる
工場内を見渡すと、足元に試作品であるステンレス製の猫型ティッシュケースが置かれていたり、おしゃれな焼却炉があったり、階段の手すり部分に「Don't think, Feel!」と彫られた鉄板を掲げていたりする。「従業員が勝手に作るんですよ(笑)。みんな自由で、学生じゃないんだから…と思うけど、これも新しい自社製品を開発するとっかかりになりますから」と、懐が深い。
従業員は16人。工場を案内してもらいながら驚いたのは「この人は棚のように薄物をきれいにつくるのが得意。分厚いものが得意な人は他にいて…たとえば、彼はこうしたがっちりしたアングルものが得意。あの人が、山代さん抜きで一番腕のある職人。タンクなどを担当していて、今つくっているのは特殊な風呂。こんな美しいアールをつくれるのは彼くらいかな。あの人は磨きの名人」と、職人一人一人の得意分野を知り尽くし、適材適所でのびのびと作業できる環境をつくり出していることだ。それぞれ使いやすい作業スペースが確保されており、どんな商品もすべて手づくりなのが白石製作所の誇りだ。
「これからは開発部門に力を入れていきたい。だから、僕らにはない芸術感覚のある学生たちとも接触したいんですよ」と抱負を語る吉田社長。「あの端材、おしゃれだから捨てるのはもったいない。週末にガレージセールでもしたら、モノづくりが好きな若い人がきっと集まってきますよ」とか、「全部ステンレスで出来たお店をつくってみたら楽しいかも」など、私たちの冗談みたいな提案にも「いいねぇ~。そんな発想はなかったなぁ…」と、いちいち頷いてくれる社長。私がもっと若ければ、履歴書を提出したい「働きたい職場ナンバー1」である。
特集記事「コーヒー豆の焙煎体験ができる喫茶店」 (2024年8月21日公開)
株式会社 白石製作所
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