時代を生き抜く、名物商店街

二条市場で待ち合わせ(その3)

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南二条通りにつながる通路。菓子や缶詰、海産物が所狭しと並ぶ

二条市場が好きだ、と言ったら、あなたは何と答えるだろう。「そうなんだ!」と驚くだろうか。それとも、「何をいまさら?」とあきれるだろうか。約150年の歴史を持つ札幌・二条市場。歩いて、食べて、話を聞いてわかったこと。長ーく愛されるのには、理由(ワケ)がある。
新目七恵-text 伊藤留美子-photo

ここには魚のプロがいる。

二条市場の鮮魚店「池田商店」店主・池田訓久さんの朝は早い。
午前3時に起床し、午前4時半には札幌市中央卸売市場へ。「これぞ」と見定めた魚介を競り落とし、午前8時ごろには店頭に並べていく。

30代のとき、父から店を継いだ池田さん。定休日はなく、「店の休みは宝くじに当たるようなもの」と笑う

「札幌二条魚町商業協同組合」という正式名称の通り、もとは魚売りの集まりだった二条市場。今も鮮魚店が多いのは、その名残だ。
同じ鮮魚売り場でも、スーパーと違うのは、調理済みや小分けの品が少ないこと。なかには値段のついていないものもある。鮮度の見分け方。旬の知識。調理技術。どれをとっても自信のない私にとって、頼りになるのは店員さんの存在だ。

「池田商店」の池田さんは、10代から魚の卸売に携わり、この道40年のベテラン。
「今日はハタハタとマガレイがあるよ」。自分で目利きしているから、売り言葉にも熱が入る。要望に合わせてさばいたり、調理法を説明したりするのも、お手の物だそう。「といっても、やっぱり基本は煮るか、焼くか。手の込んだメニューは自分で考えてね」。笑いながら話すうち、「この魚を食べてみたい」「この人から買いたい」と思えてくるから、不思議なものだ。きっと、対面販売の楽しさだろう。
 

「魚が売れるのが一番嬉しい」と話す池田さん。根っからの“魚屋魂”を感じた

突然だが、「魚職(ぎょしょく)」という言葉をご存知だろうか。魚食にまつわる職能の呼び名だ。
獲る人、加工する人、卸す人、売る人。一尾の魚が食卓に届くまでを、さまざまな「魚職」が支えている。彼らは知識と技術を持つ、いわば“魚のプロ”。二条市場は、池田さんたち“魚のプロ”の仕事ぶりに接し、魚食文化の豊かさを感じることができる場所なのだ。

ちなみにこのとき、買い手として気をつけたいのは、値段だけで判断しないこと。
「スーパーより高い、と見向きされないことも多いんだ。品質は全然違うんだけどさ…」と悔しがる声を、あちこちで聞いた。実際に買い、食べた私が言えること。本当に違う! 観光スポットだから、と敬遠していた自分を反省。こんな身近な場所に、市場があることの幸せをかみ締めたい。

二条市場は、変わらない。

創成東エリアを「札幌の下町」とするならば、二条市場はその象徴のような外観をしている。
年季の入ったアーケード屋根。個人商店のひしめき。路地裏のような細い通路。
昭和から変わらぬ佇まいだと知り、「味があるなぁ」と惚れ惚れしていたら、なんと一時期、ビル化しようという案があったというから驚いた。

古めかしい壁がレトロ感を醸し出す。かつては店舗の二階に住んでいる人も多かったそう

札幌二条魚町商業協同組合の佐々木一夫理事長に確かめたところ、「30年以上前のことだね。下の階を店舗、上の階を住居に、という計画だったはず」とのこと。
諸事情から中止になったそうだが、「もしそうしていたら、今頃ダメになっていただろうね」と佐々木さん。なぜですか、と尋ねたところ、逆に「いいと思うかい?」と問い返され、唸ってしまった。
確かに、すべてをキレイにしたら、市場独特の空気感は失われてしまっただろう。
 

二条市場の今昔を見つめてきた、裸電球の光

見た目を変えない一方で、二条市場の中身はどんどん変化した。佐々木さんが営む「宮田商店」も、当初は味噌や塩などを扱う雑貨店。変転の末、現在は観光土産店となっている。  

佐々木さんは九州生まれ。20歳のときに北海道に移住し、縁あって二条市場に勤めた珍しい経歴の持ち主

創成東エリアも、変わり続けている。7年後の2024年ごろには、今は創成川までの大通公園が、川を越えて東側に約100m延伸される計画もあるという。さらに6年後、2030年度の北海道新幹線・札幌延伸を見据えた再開発も加速するだろう。

激変する街並みの中で、二条市場はどうなるのだろう。どうお考えですか、佐々木理事長。
「とりあえず、現状維持だねぇ」との返答に、なんだか力が抜ける。
でも、そうか、このままでいいんだ。
これまでも、二条市場はしたたかに、賢く、変わり続けてきたではないか。
変幻自在。不易流行。どんなに時代が変わっても、二条市場はどっこい、ここに在り続けるだろう。
一見頑固そうに見えて、もしかすると、どこよりも大らかに、街と、人の変化を受け入れる度量があるのかもしれない。
だから、いつでも気楽に、誰とでもご一緒に。二条市場で、待ち合わせよう。

二条市場
北海道札幌市中央区南2条東1丁目~東2丁目

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