矢島あづさ-text & Illustration

vol.2   旭橋 【旭川市】

喜びも、悲しみも、その橋は知っている

石狩川、牛朱別川、忠別川、美瑛川が合流する地に、人が住みはじめた旭川。
1892(明治25)年、石狩川に架けられた小さな土橋は、
人々の暮らしと共に成長し、いつの時代も心のよりどころであり続けた。
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歩いて渡ってみると
驚くべき人力作業を実感できる

川のまちと呼ばれる旭川には、771本の橋がある。中でもまちのシンボルとして市民に親しまれているのが旭橋だ。なぜだろう。その魅力を探るために、まずは歩いて渡ってみることにした。想像以上の振動と迫力に驚く。いたるところに打ち付けられた丸い鉄の鋲が、橋からの眺めをタイムスリップさせてしまうほどの歴史と人々の思いを物語っているような気がした。

手宮~札幌~旭川を結ぶ鉄道が開通したのは1898(明治31)年。やがて第七師団が設置され、活気づいた旭川を象徴するように、1904(明治37)年には鋼鉄製の初代・旭橋が誕生した。2年後、旭川駅前から旭橋(のちに専用橋)を渡り、第七師団へと向かう馬車鉄道が走りはじめ、最盛期には客車20台、御者17人、馬38頭の体制で、1日1200人もの人を運んだ。

1929(昭和4)年には路面電車が開通し、通行可能な橋の架け替えを計画。北海道帝国大学(現・北海道大学)の吉町太郎一博士が設計指導し、美しいアーチ構造のデザインを実現するため、当時の英知と先進的工学技術を結集した。コンピュータや機械がない時代に、膨大な計算と工事のほとんどを人力で行い、1932(昭和7)年、現在の幅18.3m、長さ225.4mの旭橋が完成。札幌の豊平橋、釧路の幣舞橋とともに、北海道三大名橋といわれているが、昭和初期の姿をとどめているのは旭橋だけである。
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「旭橋」を語り始めると、
旭川市民は熱くなる

2代目・旭橋が誕生して84年、橋寿を迎えた現役の橋は、道内で最長寿。それを記念して8月に開催されたイベントで心奪われたのは、郷土史料・生活資料収集家の百井昌男さんが集めたコレクションの数々だ。市内郵便局ごとにデザインが違う消印、戦前の観光案内図の表紙、レトロな駅弁や銘菓の包装紙、電話帳の広告、絵はがきやマッチ箱など、あらゆるものに旭橋がモチーフとして描かれていて、まちの人々にいかに愛されてきたかが伝わってくる。

旭橋に愛着を持ち、その歴史を語り継ぐ「旭橋を語る会」の幹事、海老子川雄介さんは「僕は12年前、外からやってきた人間。でも、旭橋が地元の人との架け橋になってくれた」という。自分が暮らすまちの歴史を知ろうと調べていくと、すべて旭橋につながる。世代や人によって橋への思いはさまざまで、「受験のときに気合を入れて渡ったとか、何度も色を塗り替えているけれど、いまだに自分の思い出と重なるペール・オレンジだと思い込んでいる人も多い」とか。

この橋は戦争も知っている。出征の際、「帰れないかもしれない」と厳かに渡った若者、それを見送る家族の心境。「最敬礼して橋を渡った世代も少なくなってきている。戦争を知らない世代にリアルな話として語り継ぎ、平和とはなんなのかを一緒に考える機会もつくりたい」と海老子川さん。話を聞くうちに、旭橋は単なる構造物ではなく、人間味あふれる存在に感じてきた。
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商店街を歩きながら、
庶民の味わいを探して。

旭橋から南に向かうと、初心者は必ず戸惑う6つの道路が交差する旭川常盤ロータリーがある。そこは、かつて牛朱別川に架けられた常盤橋があった場所だ。海老子川さんが経営する福吉カフェは、その常盤通にあり、「旭橋を語る会」の事務局になっている。2年前、旭橋のカタチをした「トキワ焼き」を売っていた店が閉店すると聞き、その焼き型を譲り受けてカフェをはじめた。

旭川はあんこの歴史が古い。最盛期、市内に10社以上の製餡工場があった時代もある。「上川農場試験場では、十勝に負けないブランド小豆をめざし、新種改良に力を入れていた。20年ほど前から生産されている、しゅまり小豆は色、コク、香りともに高いのが特徴」という。そう考えると、小豆たっぷりの「福吉らて」も「トキワ焼き」も、立派な旭川の味だ。

海老子川さんに近場でおすすめの店を聞いたら、「古本屋の旭文堂さん。店主の中嶋さんは旭橋に詳しいし、旭川の郷土や歴史に関する本がたくさんあるから」と案内してくれた。周辺の商店街を見渡すと、下ろされたシャッターにはセンスのよいイラストが描かれ、若者のパワーを感じる。空き家や空き店舗を利用して、おもしろいモノや時間を販売するイベント「イドバタの日」(5~9月第2日曜日)も楽しそうだ。
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もっと深く知りたいあなたに読んでほしい
『旭橋 旭橋70年のあゆみ』旭橋を語る会
『写真が語る旭川 ~明治から平成まで~』北海道新聞社
『知らなかった、こんな旭川』NHK旭川放送局 編著 中西出版(株)

ちょっと寄り道

福吉カフェ旭橋本店
(「旭橋を語る会」事務局)
北海道旭川市常盤通2丁目1970-1 TEL:0166-85-6014
古書の旭文堂書店 
北海道旭川市常盤通3丁目 TEL:0166-22-5987
旭川市ロータリー商店会(事務局 美容室ULU) 北海道旭川市常盤通3丁目1970-91 TEL:0166-73-3225
自由軒 北海道旭川市 5条通8丁目左2号 TEL:0166-23-8686

北海道遺産とは

北海道の豊かな自然、人々の歴史や文化、生活、産業など、道民参加により52件を選定。
旭橋

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