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「余市だから、私の好きな泡がつくれる」
vol.2リタファーム&ワイナリー 菅原由利子さん/余市町
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日本各地のワインを飲み比べ、「時間の経過と共に華やかに変化する。これしかない」と
輸入を決めたという。日本の小さなワイナリーが米国に認められ、
輸出することは、かなり異例なことだ。
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シャンパーニュのように、硬い酸を生かせばいい
ブドウを栽培し、ワインを醸造する人をフランスでは「vigneron(ヴィニュロン)」と呼ぶ。リタファーム&ワイナリーの菅原由利子さんの職業は、まさにそれだ。前職はワインの輸入を担当するインポーター。ご主人の誠人さんは醸造設備のメーカーに勤務していた。
由利子さんは仕事でフランスのワイナリーを訪ね歩くうちに、伝統的な製法でつくられたシャンパーニュの味に惚れてしまった。「シャンパーニュは、とても寒い地域でブドウの糖度も上がらない。だから、酸味を生かして泡にする技術が受け継がれた。発泡性のワインは、酸が少ないと間が抜ける。多いほどバランスがよくなる。北海道にマッチすると思いました」
フランスには、家族でブドウ栽培から醸造まで行うワイナリーの文化が根づいている。手摘みのブドウを搾り、できるだけ機械に頼らない。そんな昔ながらの伝統を守り、ワインをつくりながら生き生きと暮らす人々の姿に憧れ、菅原さん夫妻が自分たちの場所を探し始めたのは10年ほど前。
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2013年、リタファームに念願のワイナリーが完成した。将来は敷地内にオーベルジュをつくるのが由利子さんの夢だ
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土が硬くなり、野生酵母も死滅するため農薬は極力使わない。
虫や病気が発生しないように、風通しをよくするため、夏場は草刈りに追われる
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由利子さんがシャンパーニュ地方へ修業に行く際、持参した岐阜産の剪定ばさみ。
「手になじむから」と、毎年革を交換し、手入れをしながら、ずっと愛用している
リタファームは、1998年に由利子さんの母親が始めた農場。「母の実家がもともと果樹農家で、最初は母を手伝うため、時々札幌から通う程度。余市でワイナリーを始めるつもりはなかった。地元の人は保守的だし、新しいことは反対されるから」と笑う。案の定、「日本はフランスみたいにはならない」と、周囲の誰もが反対した。
国内有数のブドウの産地といえば、山梨や長野。しかし、シャンパーニュのような「泡もの」なら、北海道の方が向いていると由利子さんは考えた。道内では発酵途中に除酸するワイナリーが多い中、硬い酸を生かす道を選んだのだ。しかも、余市ならブドウの味を薄めてしまう雨も少ない。見慣れたブドウ畑が自分たちの最適地と気づき定住を決めた。
瓶の中で二次発酵させてつくる天然の泡
リタファームのブドウ畑は3ha、シャンパーニュの指定品種しか栽培していない。赤ブドウ品種のピノノワールは赤ワインではなく、低圧で搾って泡にする。それをベースに、白ブドウ品種のシャルドネをブレンドする。年間10トンほどの収穫しかできないので、近隣農家から他の品種も仕入れて、出荷できるのは年間2万本ほど。
「畑は自分たちの子どもの遊び場でもあるので、できるだけ農薬は使いたくない」と由利子さん。病気になったから薬を与えるのではなく、ブドウの木に力をつけることにこだわる。堆肥は、カニの殻やヒトデなど地元で廃棄される海産物とブドウの搾りかすを混ぜて発酵させたもの。「肥料を過剰に与えると木が太くなり、樹勢が強くなりすぎて実を付けなくなる。ブドウの木が太くなりすぎないように生育することで、実に栄養が行き届き、多く結実します」
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古樽は赤ワイン用。奥にあるのは4年目にしてようやく導入した水平空気圧式圧搾機。
昨年まで100年以上前から伝わる手搾りだったというから驚きだ
伝統的なシャンパーニュ製法にこだわるのも、ブドウそのものの力を信じているから。通常、発酵を安定させるために培養酵母を入れるが、ここでは搾ったそのまま、果皮についている天然酵母で発酵させる。大手メーカーのスパークリングは、一次発酵してから炭酸ガスを注入しているものも多いが、リタファーム&ワイナリーでは、瓶の中で二次発酵させて、天然の泡をつくる。「ガスと違ってクリーミーな泡がずっと続く。酵母が呼吸している泡なので、命をいただいている感じがする」という。
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シャルドネのスパークリング、北海道では珍しいメルローの赤ワイン、ソーヴィニヨンブランの白ワインが3本柱。輸出向けに「HANABI」や「十六夜」などのネーミングも
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ご主人の誠人さん、由利子さん、北見と小樽からやってきた研修生
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敷地内に建てられたワインショップ「バラッド オブ ヨイチ」
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(写真提供:リタファーム&ワイナリー)
北海道余市郡余市町登町1824(ワイナリー)
北海道余市郡余市町登町2016(美沢第2圃場)
TEL:0135-23-8805
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