歩いてみたら、出会えた、見つけた。

おいしい話

名寄の人は、冬もジンギスカンを食べる!?

花見、炊事遠足、海水浴、キャンプ、
季節がよくなると、北海道で花図、ジンギスカン鍋を囲む。
「名寄では煮込みだから、冬も食べるよ」と聞き、
その歴史や食べ方を確かめることにした。
矢島あづさ-text 露口啓二-photo
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煮込みジンギスカン

麺はうどん? 蒸し麺? ラーメン?

北海道で羊肉が食べられるようになったのは大正時代。それまで軍服や毛布の素材として羊毛を使っていたが、第一次世界大戦時に輸入が途絶え、国内でめん羊の飼育が強化された。その際、農家に飼育を広めるためには肉の利用も必要と考え、羊肉料理の研究が始まり、独特の臭みを消す調理法としてジンギスカンが誕生した。

ジンギスカンの食べ方には、肉を焼いてからタレにつけて食べる「後づけ」と、タレに漬け込んだ肉を焼いて食べる「味付き」がある。鍋は南部鉄の中央が山になったものが定番。しかし、名寄を中心とした道北では、ちょっと違う。肉をタレごとフライパンに放り込み、キャベツやモヤシ、タマネギなど野菜と一緒に煮込む。さらに、うどんやラーメンなど麺類を入れる。もちを入れる家庭も多く、汁が多いので冬にもよく食べられる。

これをご当地グルメとして全国に売り出そうと仕掛けたのが、名寄市経済部営業戦略室室長の水間剛さんだ。札幌の知人に「麺は何を入れる?」と聞いたところ、「最初から? そんなジンギスカンはありえない」と驚かれた。かつて名寄市智恵文地区はめん羊の産地で、最盛期の年間生産量は3000頭を超えていた。そんな歴史と結びつければ、郷土食としてアピールできると考えた。商工会議所青年部も協力し、市内飲食店や精肉店でもジンギスカンに地名の「なよろ」と「煮込み」を付けて売り出すようになった。

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「わが家では、最後の煮汁に溶き入れた、ふわふわの卵をジャンケンで勝った者だけが食べられるのがルール」と水間室長

ラムをこよなく愛する老舗の3代目

創業1928年の老舗「東洋肉店」は、羊肉の肩ロース、肩バラ、ヒレ肉、レッグなど、さまざまな部位を揃え、レバーペーストや生ハムなども販売する全国でも珍しい精肉店だ。「和牛は肉屋の看板なので手は抜かない。でも、僕は昔から羊の赤身が好き」と、3代目若社長の東澤壮晃(ひがしざわ・もりあき)さん。ラム肉料理を日本に広めるプロジェクト、ラムバサラー9人のひとり。オーストラリアの生産現場を視察し、レシピ本も完成させた。

海外各地を旅し、羊肉だけで世界旅行ができるほど数え切れない調理法があることに気づく。「日本にはジンギスカン用のロール肉しかないのはなぜだ?」と疑問に感じ、帰国後、羊肉専門のウェブショップを起ち上げた。国産は主に、隣町の美深産を扱う。真冬には氷点下30℃になる寒冷地。肉質が引き締まり、青草を食べる期間が短いので臭みもない。「大事なのは生産された国ではなく、どうやって育てたか。どんな水が流れ、気温や土壌によって味も変わる」というのが持論だ。

そんな東澤さんも、物心つくころから「煮込みジンギスカン」をよく食べていた。両親は早朝から夜遅くまで店の仕事で忙しい。フライパンひとつで手軽に作れる家庭料理だった。東洋肉店で販売している「煮込みジンギスカン」は、肉6に対してタレが4の割合。隠し味は甘めのみそ。煮込んでいくと味が濃くなるので、ちょっと薄めに味付けされている。

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レバーペースト、心臓や肝臓を使ったソーセージ、骨付きベーコン、心臓スモークなど、珍しい羊肉の加工品

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オーストラリアの先住民族アボリジニから伝わる各種スパイス

60年前のジンギスカンを再現

「これから名寄市立大の学生たちと60年前のジンギスカンを再現しますが、一緒に来ませんか?」。これはまたとないチャンス!! 待っていたのは、名寄市立大学社会福祉学科の江連崇(えづれ・たかし)助教が指導する「げしひて(ドイツ語で歴史の意)研究会」のメンバー約20人。1956(昭和31)年3月19日付の風連新聞に紹介された「美人が生まれる成吉思汗料理」を再現するため材料を持ち寄った。

レシピは「リンゴ、ミカン、タマネギ、生ショウガをおろした汁に羊肉を2時間ほどつけ、しょう油、砂糖、酒を火にかけて溶かしたものを加えてよく混ぜる。長ネギを入れ、コショウ、七味唐辛子、味の素で味を調え、30分ほどたったら汁から肉を取り出し炭火で焼く」というもの。東澤さんが用意したのは、マトン(永久歯2本以上生えた羊)とラム(生後4~8カ月)。「昔食べられていたのは、そろそろ寿命のマトン。だから硬くて臭いイメージがついてしまった」と、肉の種類や部位を説明しながら、西洋式の切り分け方を指導した。

「美人が生まれる…」と紹介される理由は? 学生がすかさず「脂があまり体に吸収されない」「ビタミンがたっぷり」などと答える。「そうだね。脂肪を燃焼する成分を運ぶカルニチンが多いのでダイエットに向いている」と解説しつつも「よく見ると脂肪の上にもう一枚膜があるでしょ。これをカリカリに焼くとおいしい。通常、日本の規格では捨てられる部分ですが…」とラム好きらしいアドバイスも忘れない。

初めて羊肉の塊を切り分けた学生は「おもしろい。クセになる」と、最後まで作業をやりとげた。長ネギ1寸の「寸」がわからず細かく刻んだり、肉を汁につける前に調味料を混ぜたり、学生らしい失敗もあったが、炭火で焼いてみると、想像以上にあっさり、シンプルな味でおいしい。彼女たちがこれから作り出す食文化にどう影響するのか、楽しみでもある。

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「なかなか板についてきたね」プロの切り分け方を指導する東澤さん

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60年前のジンギスカンレシピに挑戦する名寄大の学生たち

●東洋肉店
営業時間/10:00~17:00
定休日/毎週日曜日
北海道名寄市西1条南6丁目22-2
TEL:01654-3-5511
WEBサイト
◎MLA認定「LAMBASSADOR」
◎A+ Australian Wine 認定トレード・スペシャリスト
◎A+ワインプロモーション 優秀賞受賞
◎第2回『行ってみたいお店大賞北海道表彰』大賞受賞
◎第9回『日本オンラインショッピング大賞』最優秀賞
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●NPO法人北海道遺産協議会
2004年、「ジンギスカン」は北海道遺産に選定された。北海道遺産には、北海道の豊かな自然、人々の歴史や文化、生活、産業などから、道民参加により52件が選定されている。
WEBサイト

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