森のまち、下川にて

(連載のその後)富永さんの森しごと

5月末、札幌の白旗山エリアの一角にある札幌南高学校林で、道づくりの作業をする富永さんたち。広葉樹、針葉樹のさまざまな樹種が育ち、心地よい空間

下川町で満月の森を歩く「ムーンウォーク」の案内をしてくれた富永さんから、「いま札幌の森にいるので、よかったら見に来ませんか?」と連絡があった。彼はこの春に「薪屋」として独立し、さらに森での仕事を学ぶため、先輩二人と現場に入っているという。
石田美恵-text 露口啓二-photo

ふだんは下川町に住む富永紘光さん。森の仕事の先輩である陣内雄さん、足立成亮さんと1ヵ月間、森林整備の仕事をすることになった。森には詳しい富永さんも、チェーンソーで間伐をしたり、森のなかに作業道をつくったりするのは初めての経験だ。

「とにかく毎日が修業です」
はじめの数日は自分がどう動けばいいのかまったくわからなかったという。そこで、まず先輩二人をよくよく見ることから始めた。そして「この作業にはどんな意味があるのか、次に何をしようとしているのか、そこで自分にできることは何か」を考えていくと、身体が少しずつ自然に動くようになってきた。

足立さんがパワーショベルを操るときは、前方のじゃまになりそうなクマザサや枝を払い、立木を伐倒・採材する。陣内さんがカラマツを間伐するときは、どの方角に倒すのかを見極め、木がドシーンと倒れるのを見守ってから、すぐにチェーンソーで切り分けていく(伐った木は、そのあと何に使うかに合わせて現場で切断しておくことが多いのだ)。不要となる横枝もきれいに落とすと、さっきまで立っていた「樹木」が見る間に「木材」に変わった。

森のなかでは、それぞれが別に動きながらすべてがなめらかにつながっている。わざわざ声をかけなくても、何をしたいのか、してほしいのか、お互いがちゃんとわかっている。遠くに離れていても、あうんの呼吸で作業は進む。その流れるような仕事ぶりは、静かで何とも格好がいい。

チェーンソー用のヘルメットをかぶる富永さん。「覚えることがまだまだいっぱいあって、でもすごく充実して楽しいです」

チェーンソー用のヘルメットをかぶる富永さん。「覚えることがまだまだいっぱいあって、でもすごく充実して楽しいです」

富永さんは言う。
「僕はこれから『薪屋』としてやっていきますが、できるだけ森に近いスタンスでいたいので、この現場は本当に勉強になりました。技術の修得ももちろんですが、二人の森に対する接し方、いつも100年後の森を見て、今の森と向き合う姿勢にすごく共感します。今後もゆるやかなネットワークを保ちながら、一緒に仕事ができたらと思います」

「薪屋とみなが」から届く薪は、ストーブであかあかと燃えて私たちを暖めるだけでなく、森への入口に私たちを誘ってくれる。その背後にどれほどの時間が流れ、どれほど多様な空間が広がっているかを想像しながら、その恵みを受け取りたいと思う。そして、彼のこれからの活動を楽しみに、またいつか「よかったら見に来ませんか?」と電話がくるのを待ちたいと思う。

チェーンソーを自在に操る陣内さんは、以前下川町森林組合に勤務していたこともあり、その後「NPO法人もりねっと北海道」を設立し多彩な活動を行ってきた。2015年からはフリーの木こり・森の空間づくりをメインの仕事としながら、音楽家としてライブ活動も行う

チェーンソーを自在に操る陣内さんは、以前下川町森林組合に勤務していたこともあり、その後「NPO法人もりねっと北海道」を設立し多彩な活動を行ってきた。2015年からはフリーの木こり・森の空間づくりをメインの仕事としながら、音楽家としてライブ活動も行う

道づくり作業中の足立さんは林業家であり写真家でもある。小さなショベルカーで少しずつ地面を掘り、森に与えるダメージをできるだけ少なくし、残せる木はできるだけ残し、もとの景観やバランスを壊さないよう丁寧に道をつけていく

道づくり作業中の足立さんは林業家であり写真家でもある。小さなショベルカーで少しずつ地面を掘り、森に与えるダメージをできるだけ少なくし、残せる木はできるだけ残し、もとの景観やバランスを壊さないよう丁寧に道をつけていく

できたてほやほやの、気持ちのいい道。道の表面は、外から砂利を持ってきたりせず、その場の土や砂を使って整える。また、現場で出た木の根やクマザサの根で路肩が崩れるのを防ぐ。こうした工法は、滋賀県の田邊由喜男さんが提唱する「田邊式」を基本としている

できたてほやほやの、気持ちのいい道。道の表面は、外から砂利を持ってきたりせず、その場の土や砂を使って整える。また、現場で出た木の根やクマザサの根で路肩が崩れるのを防ぐ。こうした工法は、滋賀県の田邊由喜男さんが提唱する「田邊式」を基本としている

「広葉樹の女王」と称され、家具や内装材などに珍重されるウダイカンバの木。別名マカバ。札幌南高学校林には、このような木々が大切に残されている

「広葉樹の女王」と称され、家具や内装材などに珍重されるウダイカンバの木。別名マカバ。札幌南高学校林には、このような木々が大切に残されている

■薪屋とみなが
薪ストーブをはじめとする燃料用やカフェ・レストランなどお店のディスプレイ用に割った薪、玉薪(丸太を短くカットした材)、焚付ガンビ(カバの樹皮)を販売。主に下川町から40km圏内(名寄市、美深町、士別市など)に配達。当圏外もご要望により対応可能。
北海道上川郡下川町上名寄2958
TEL:080-5264-0081
E-mail: order.makiya●gmail.com ※●を@に置き換えてください
Webサイト

■Out woods
「北海道の森のほとりで働く、生活する、遊ぶ」をコンセプトに森林作業道開設、間伐、丸太生産、里山の整備、地域と森の環境づくり、薪の販売などを行う。足立さんが代表で陣内さんと一緒に活動することも多く、「林業」から「森遊び」までを幅広く提案、実現する。
Webサイト

■一般財団法人 北海道札幌南高等学校林
札幌南高学校林は1911(明治44)年に皇太子が北海道行啓の際、札幌中学校(のちの札幌南校)に来校されたことを記念して植林を始めた森。当時の校長、山田幸太郎氏の「造林育人」という理念に基づき、100年以上に渡って南高生・同窓会が守り育てている。
Webサイト