森のまち、下川にて

「森とイエ」プロジェクト第一号

下川町の名寄本線跡地にトドマツの防風林が残っている。2012年冬、ここに細長い1軒の家が完成した。下川産の木をふんだんに使い、「森とイエ」というプロジェクトから生まれた住宅。どんな人たちが、何を考えながらつくったのだろう。それがこれから、どこにつながっていくのだろう。
石田美恵-text 露口啓二-photo

北側の大きな窓から、やさしい光が差し込むリビング

家づくりのパートナー

訪ねたのは川島大助さん、里美さん夫妻が暮らす家。
外壁に下川産のカラマツ材を使い、白とグレーの自然な色合いと、すっきりした形がまわりの風景に溶け込んでいる。防風林に寄り添うように建つ「コ」の字型の平屋で、あまり目立たないけれど、キリリと存在感がある。そんな建物だ。

南西から見た住居外観。背の高い防風林が家を見守っているようだ

玄関から長い廊下が続いている。室内の壁や天井にも下川産カラマツの集成材を使い、床は道産のナラ材を使っている。窓から見える空や森が、さっきより美しく見えるのはなぜだろう。廊下を進んでいくと、やわらかな光に包まれたリビングに到着する。「これが家? ここで毎日暮らしているの?」と疑いたくなるほどに全部がうらやましく心地よい空間だった。

玄関から真っ直ぐ続く廊下。左手にゲストルームや洗面所などがあり、右手はガレージへつながる

「森とイエ」プロジェクトは、2011年夏に下川で始まった家づくりの「しくみ」だ。
「しくみ」というのが適当かどうかわからないが、同じ思いを抱いた「チーム」であり、「出会いの場」であり、家づくりだけでなく、そのずっと先を見つめるユニークな活動である。参加メンバーは現在のところ、地元の工務店3社、札幌に事務所をもつ建築家4名、調整役の下川町ふるさと開発振興公社、広報担当の事務局で構成される。それに下川の製材・木製品製造会社が強力なパートナーとして、構造材から内装材、家具まで加工面でサポートしている。プロジェクトの大きな使命は、下川や北海道の木材を使い、北国らしい快適な暮らしを叶える家づくり。初のクライアントとなった川島大助さんに話を聞いた。

大助さんは下川で運送業を営んでいて、町で伐採した原木や加工した木材を運搬する機会が多いという。「ちょっと大げさですが、自分たちは『森のまちで生かされている』と思うんです。だから家を建てるなら、地域の木を使いたいとずっと思っていました」。森のまちにいるのだから、どこか知らない遠くの木は使いたくない。プラスチックやビニールなど人工的な素材もできるだけ使いたくない。
それともう一つ、「地元の人たちが作る家に住みたい」という思いがあった。せっかくお金を使うなら、地元の会社に払いたい。「これもずいぶん大げさですが、少しでも地域貢献になればと思って」。しかし、どんな家がいいかまでは想像がつかなかった。そんなとき「森とイエ」プロジェクトの話を耳にした。

下川の隣、名寄市生まれの川島大助さん。「家で何も考えずのんびり過ごせる時間が幸せです」


下川町生まれの川島里美さん。「社会人になって一度ふるさとを出てから、下川がもっと好きになりました」

「森とイエ」プロジェクトには3つのコースがある。
1つめは「建築家コース」で、メンバーの建築家が住宅の設計と全体の施工管理を担当し、施工(実際の工事)は技術の確かな地元工務店が行う。適材適所の役割分担で、クライアントにとってはデザインの自由度が高く、建築家のもつ提案力をフル活用できる。2つめは「工務店コース」で、設計、施工ともに地元工務店が担当し、建築家がプランのサポートにあたる。3つめは「モデルプランコース」で、用意されたプランから好きなタイプを選ぶ比較的リーズナブルなコース。
「建築家コース」の場合は、くわしい説明や提案を聞いてから、クライアントが建築家と工務店を指定し、本格的に家づくりがスタートする。「工務店コース」の場合は工務店を指定する。つまり、メンバーである建築家や工務店の考え方、提案、実績などを聞いて、実際に話してみてから相性のよいパートナーを選ぶことができる。これが「出会いの場」とよぶゆえんだ。

広がるプロジェクト

「建築家コース」の川島夫妻は何度も面談を重ねたうえで、メンバーの一人である小倉寛征さんに設計を任せることにした。「小倉さんは私たちの生活スタイルをよくよく聞いて、細かい部分までとことん考え、デザインはもちろん機能もいろいろ提案してくれて、『欲しかったのはこれなんだ!』と気づくことができました。私たちより、私たちの暮らしを理解しているみたい」と笑う里美さん。

工務店は、川島さんがふだんから付き合いの深い山形建設、丸昭高橋工務店に依頼した。住宅に使う材木はすべて町内の製材工場で調達し、テーブルやチェストなどの家具も小倉さんの事務所で設計し、町内の木工所で製作。設計に約半年、施工にさらに半年の時間をかけ、「本当にたくさんの人たちのお世話になって、『下川の力』を集結した家が完成しました。小倉さんは札幌の人ですが、ずっと下川に通ってくれて、すっかり下川の一員です」と大助さん。

その小倉さんが話してくれた。
「『森とイエ』ではクライアントも建築家も工務店も、一緒に家をつくり上げるパートナーで、夢を実現する仲間です。地域住宅づくりを通して森林資源や地域経済が循環し、地域の暮らしを守ることを目指し、もちろんクライアントのライフスタイルや地域に合った住みやすい家をつくるために、私たちは全力をつくします。このプロジェクトは下川だけのものではありません。いろいろな地域に、いろいろな形で広がっていけばうれしいです」

プロジェクトが始まって5年。これまでに下川町と天塩町に5棟の住宅が完成し、今も数棟の計画が進んでいる。目下の課題は活動の普及で、そのために住宅の建設途中と完成後に見学会を実施し、建築家による「家づくり講座」も定期的に開催している。
いつの日か、どこかのまちで、また別の「森とイエ」プロジェクトが生まれるかもしれない。地域によっては「海とイエ」になったり、「風とイエ」になったりするかもしれない。
いろいろな名前になって、たくさんのまちで生まれてほしいと思う。

ナラ材のフローリングは5年が過ぎて程よい風合いを増した。これからどんな年月を重ねていくのか楽しみだ

森とイエ

地域の工務店と建築家が協働し、これからの北海道らしい住宅を創造するプロジェクト。「地域を守る人材を育む」「自由で安心な家づくりを地域に広める」「地域らしさを創造する」の3つをミッションに、下川や北海道の森を活かす家を提供している
WEBサイト

森とイエ サポートセンター
北海道札幌市中央区大通西二十六丁目1-18円山アーク301 Sa design office 内
TEL・FAX : 011-213-7636
WEBサイト

ENGLISH