訪ねたのは川島大助さん、里美さん夫妻が暮らす家。
外壁に下川産のカラマツ材を使い、白とグレーの自然な色合いと、すっきりした形がまわりの風景に溶け込んでいる。防風林に寄り添うように建つ「コ」の字型の平屋で、あまり目立たないけれど、キリリと存在感がある。そんな建物だ。
大助さんは下川で運送業を営んでいて、町で伐採した原木や加工した木材を運搬する機会が多いという。「ちょっと大げさですが、自分たちは『森のまちで生かされている』と思うんです。だから家を建てるなら、地域の木を使いたいとずっと思っていました」。森のまちにいるのだから、どこか知らない遠くの木は使いたくない。プラスチックやビニールなど人工的な素材もできるだけ使いたくない。
それともう一つ、「地元の人たちが作る家に住みたい」という思いがあった。せっかくお金を使うなら、地元の会社に払いたい。「これもずいぶん大げさですが、少しでも地域貢献になればと思って」。しかし、どんな家がいいかまでは想像がつかなかった。そんなとき「森とイエ」プロジェクトの話を耳にした。
「建築家コース」の川島夫妻は何度も面談を重ねたうえで、メンバーの一人である小倉寛征さんに設計を任せることにした。「小倉さんは私たちの生活スタイルをよくよく聞いて、細かい部分までとことん考え、デザインはもちろん機能もいろいろ提案してくれて、『欲しかったのはこれなんだ!』と気づくことができました。私たちより、私たちの暮らしを理解しているみたい」と笑う里美さん。
工務店は、川島さんがふだんから付き合いの深い山形建設、丸昭高橋工務店に依頼した。住宅に使う材木はすべて町内の製材工場で調達し、テーブルやチェストなどの家具も小倉さんの事務所で設計し、町内の木工所で製作。設計に約半年、施工にさらに半年の時間をかけ、「本当にたくさんの人たちのお世話になって、『下川の力』を集結した家が完成しました。小倉さんは札幌の人ですが、ずっと下川に通ってくれて、すっかり下川の一員です」と大助さん。
その小倉さんが話してくれた。
「『森とイエ』ではクライアントも建築家も工務店も、一緒に家をつくり上げるパートナーで、夢を実現する仲間です。地域住宅づくりを通して森林資源や地域経済が循環し、地域の暮らしを守ることを目指し、もちろんクライアントのライフスタイルや地域に合った住みやすい家をつくるために、私たちは全力をつくします。このプロジェクトは下川だけのものではありません。いろいろな地域に、いろいろな形で広がっていけばうれしいです」
プロジェクトが始まって5年。これまでに下川町と天塩町に5棟の住宅が完成し、今も数棟の計画が進んでいる。目下の課題は活動の普及で、そのために住宅の建設途中と完成後に見学会を実施し、建築家による「家づくり講座」も定期的に開催している。
いつの日か、どこかのまちで、また別の「森とイエ」プロジェクトが生まれるかもしれない。地域によっては「海とイエ」になったり、「風とイエ」になったりするかもしれない。
いろいろな名前になって、たくさんのまちで生まれてほしいと思う。
地域の工務店と建築家が協働し、これからの北海道らしい住宅を創造するプロジェクト。「地域を守る人材を育む」「自由で安心な家づくりを地域に広める」「地域らしさを創造する」の3つをミッションに、下川や北海道の森を活かす家を提供している
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